ソルベニオンサルベイカ

会社の近くに行きつけのケバブ屋があります。

というか、もはや行きつけというレベルを超えていて、昼は週5日のうち4日はそこのケバブを食べています。

そして自分で食べるだけでは飽き足らず、生来のエバンジェリストの僕としては、ケバブの良さを周りに広めまくっていて、おそらくうちの会社だけで50人はそこのケバブを食べるようになっていると思われます。

しかも僕の紹介者はすべからくみんな高確率高頻度でリピートしているため、おそらくそのケバブ屋の売上は、

「田中前」→「田中後」

で20%程度はアップしているのではないかと推計しているのですが、まあそのケバブ屋にとって僕はそれだけ圧倒的なロイヤルカスタマーということなんです。

ちなみに、そのケバブ屋でケバブを売ってる兄ちゃん、アジア系と中東系の中間という感じなんですが、めちゃくちゃ人懐っこい笑顔をした、すごく良い奴なんですね。
僕が超ロイヤルカスタマーだから、ということもあるのですが、本当に色々とサービスをしてくれるんです。

「店の外に僕の姿が見えただけで僕のお気に入りのメニューを用意してくれる」

「自動的に大盛りにしてくれる」

「通常は1本100円のジュースを毎回おまけしてくれる」

みたいなことはもちろんのこと、この間うっかり会社に財布を置きっぱなしでケバブを買いにいってしまった時には、

「イイヨ、イイヨ。アトデOK!」

と、「つけ払い」もOKしてくれました。
おそらく、六本木でケバブの「つけ払い」が許されているのは僕だけなんじゃないかとは自負しています。

この兄ちゃん、そんな風にすごく良い奴なんですが、ひとつだけ難点があって、それは、

「日本語がほぼ話せないにも関わらず、その不自由な日本語でかなりアグレッシブに話しかけてくる」

ということなんです。
もちろん彼にとって僕は超重要顧客ですから、僕と会話をすることで、さらにロイヤリティを高めていきたい、という気持ちは理解できます。
ただ、僕が一番おそれているのは、彼が一生懸命話しかけてくれているのに、僕がなんて言っているのかを理解してあげられなくて、会話が変な感じになったときに、とても気まずい雰囲気になってしまうんじゃないのか、そして彼を傷つけてしまうんじゃないか、そして最終的に僕はここにケバブを買いにこれなくなってしまうんじゃないか、ということなんです。
基本的に話しかけてくる話題としては天気の話が多いんですが、「サムイネ!」とか「アメダネ!」というレベルならまだいいんです。

「サムイネ!」

と言われたら、

「うん、寒いねえ」

と言えばいいですし、

「アメダネ!」

と言われたら、

「うん、雨、嫌だねえ」

と言っておけば、立派に会話は成立していますから、特に気まずくなる心配はありません。
ただ、少し前にいつも通りケバブを受け取ってお金を払おうとした所、この兄ちゃんが急に、

「ソルベニオンサルベイカ?」

と話しかけてきたんです。
いや、ほんとにもう、僕としては完全に、

「ソルベニオンサルベイカ?」

としか聞こえなかった、つまり全く意味がわからなかったので、

「えっ?」

と聞き返したんですね。そしたら、少しゆっくり目ではっきりと、

「ソルベニオンサルベイカ?」

とまた同じことを聞いてくるわけです。
いや、これ、僕が最もおそれていた状況なわけですよ。
ここでもう一度僕が、

「えっ?」

と聞き返してしまったら、彼は自分の日本語が上手く通じていなかったということに傷ついてしまう可能性が高いじゃないですか?
僕としては、こんなに良い奴を傷つけるわけにはいかない、だったらよく意味がわからなくたって、なんとなく返事をして会話を無理やり終わらせてしまったほうがいいんじゃないか、ということで、

「ソルベニオンサルベイカ?」

の語尾が、疑問形になっているっぽいという手がかりから、これはおそらく何かしらのYes/Noクエッションに違いない、と予想して、

「うん。」

と答えたんですね。もしこれが本当にYes/Noクエッションだとしたら、この、

「うん。」

で会話は無事成立するので、事なきを得られるわけです。
僕はドキドキしながら、兄ちゃんの表情を確認しました。

いや、ダメでしたね。彼は僕の、

「うん。」

という回答には満足しておらず、少し怪訝そうな顔をしているんです、そして今度は、

「ソルベニオン?サルベイカ?」

と聞いてくるんです。

これ、Yes/Noクエッションじゃなかったんですよね。

「ソルベニオン」の後にも「?」が入ってたんです。
つまりこれ、

「ソルベニオン」と「サルベイカ」の二択問題だったんですよね。

もう僕半泣きですよ。僕はただ、この兄ちゃんを傷つけたくないと思っているだけなのに、

「ソルベニオン」。そして、「サルベイカ」。何がなんだかわからない二つから一つを選ばなきゃいけない状況に追い込まれているんですから。
ただもう、ここまで来たら引けないですよね。意を決してどっちかを選ぶしかありません。

「ソルベニオン」にするか、それとも「サルベイカ」にするか。
僕はおもむろに言いました。

「サ…サルベイカ!」

すると、兄ちゃんは、何だかとても寂しそうな表情をして、

「Oh…サルベイカ…」

と静かにつぶやいて、うつむき加減で店の奥の方に入っていってしまったんです。

「いや…」

「サルベイカって何?!」

ケバブくらい、穏やかに買わせて欲しいものです。

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田中大介

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