アメリカのスタートアップのストックオプション

最近何人かと話す機会があったので記事にまとめてみます。日本のしくみをあまり知らないので、自分が知っているアメリカの初期スタートアップの話だけ書きます。

前提として、ストックオプション(SO)というのは「その会社の株を特定の値段(exercise price)」で買う権利です。スタートアップは理想的には株価がどんどん高くなっていくので、入社時に1株あたり$1で1万株買える権利をもらったとして、10年後に株価が1株あたり$101になっていたとすると、差額で100万ドル儲かるということになります。

Googleのような大企業やstripeのような後期スタートアップはRSU(譲渡制限付き株式ユニット)というものを配っていますが、初期のスタートアップではSOを配るのが一般的です。初期スタートアップはGoogleなどと比べてキャッシュフロー的に余裕がなく、現金で高い給与を払えない分SOで埋め合わせるというのが一般的です。

vestingとexercise

SOの付与については4 years vesting with 1 year cliffというのが一般的です。4 years vestingというのは入社したタイミングで4年分のstock optionの量とexercise priceが決定されるということです。1-year cliffというのは在籍丸1年のタイミングで最初の1年分が付与される(1年以内に退職すると権利が消失する)という意味です。1年たったあとは、1ヶ月ごとに残りの分(一月あたり1/48)がもらえます。例えば48000 optionsを4 years vesting with 1 year cliffとすると、入社1年目で12000 optionsが与えられ、その後はひと月ごとに1000 optionsづつ追加で与えられます。会社によっては毎年更に追加でもらえたり、昇進のタイミングで追加されたりします。僕が過去に在籍した会社は年ごとの追加はありませんでしたが、パフォーマンスに連動する形で何回か追加のSOを少額もらいました(新しくもらった分はその時から4 years vesting with 1 year cliffが始まるのでちょっと管理がややこしい)

vesting(付与)の次のタイミングとしてexercise(行使)があります。SOがvestされたタイミングではそれはただの権利に過ぎず、仮に会社がIPO(上場)してもそのまま換金はできません。換金のためにはSOをexerciseして株に変換しないといけません。

SOを行使するためにはそのSOに記載されている金額を払う他、fair market value(資金調達のたびに第三者機関が決める)とexercise value(SOを行使するのに必要な金額、SO付与時のfair market valueより低めに設定されている)の差額に税金がかかります。例えば1株あたり$1のoptionを1000もっていて、exerciseの時点では株のfair market valueが$5だとすると、$1000を現金で払う他に、$4000=(5-1*1000)について税金がかかります。税金の扱いは週によって異なり、例えばカリフォルニアだとISOという初期スタートアップに対するSOだと所得税より優遇された別の税制がありますが、それにqualifiedしないSOだと所得税と同じ扱いになります。

退職時のSOの扱い

なおSOはあくまで権利なので使わないと消滅します。会社に在籍してる限り権利は消失しないが、退職後90日以内に行使しないと消えるというのが一般的です。権利を行使して株に変換しておくと、当然会社をやめても自分の株は手元に残ります。

一方で、上述のように権利を行使するにはお金がかかりますが、株を現金化するのには一般的には会社がIPOするか買収されるのを待つ必要があります(と、いうのが一般的な見解だと思ってたのですが、実は会社が急成長してるスタートアップだと、プライベートで株を買ってくれる機関投資家もいたりします。退職前に知りたかった。)また、もし会社の成長が止まってしまい株価が仮に下がったり、会社が思わぬ値段で買収されるようなことがあれば、税金の払い損ということも論理的にはありえます。特に買収のケースはトリッキーで、基本的に買収の際は投資家の持っている優先株がそれぞれ特別な条項(例えば買収の際は投資額の3倍で買い取る、などの条項がついてたりする)で買い取られたあと、社員が持つ一般株の買い取りになるので、社員へのリターンがすくなることがありえます。

そのため、キャッシュに余裕がない場合はスタートアップを退職した際にSOを行使しないということもありえます。実際僕も前職を退職したタイミングで一部のSOを行使しないまま放棄しました。

これは例えば新卒でスタートアップに入って頑張る人などには大きな問題になっていて、coinbaseやpinterestは退職後7年間はSOを保持できるようにしています。自分のつとめる sardine もcoinbaseにならって7年にしています。

初期社員のSOとリターン

初期社員としてスタートアップに入った場合どれくらいSOがもらえるのか、はあまり明確な答えがないトピックに思います。人によって割合で議論したり株数で議論したり金額で議論したりするところも話をややこしくしています。

アメリカだとpave.comというスタートアップが給与のベンチマークデータを集めるサービスを提供してたりします。自分でも見てみようと思ったのですが、自社のHRサービスを接続しないとデータが見れないようになってたので確認できませんでした。

SOの量については弊社もfirst-time foundersなので正直手探りな感じがしていて、投資家からアドバイスを受けたりしてるみたいです。資金調達のたびにSO用のプールを例えば3%とか確保して、次回の調達までに雇う人でそれを分け合うかたちになります。

自分がバリエーション$10-15Mほどのスタートアップをひとりめのシニア/リードエンジニアとして面接したときの提示額は、だいたい0.6-1.2%の提示=だいたい1000万円相当のオプションを四年にわけてもらうということになります。スタートアップが後期になればなるほどリスクは軽減されバリエーションが上がるため、当然もらえる割合は減っていきます。

完全に取らぬ狸の皮算用ですが、$10Mの会社の株を0.8%もらい、もし会社が成功して、このあと5回の資金調達(seriesA - E)をし、そのたびに20%株が希薄化し、最終的に$1BでIPOするとすると、$10M * 0.008 * 0.8^5 = $2.6M(3億円くらい?) の株を手にすることになります。もし会社が大成功して$10Bになれば$26Mなので別荘がいくつか買えそうです。

LyftやUberがIPOした2019年には5000人以上が1億円を手にしたというニュースがある一方で https://finance.yahoo.com/news/lyft-uber-slack-airbnb-ipo-millionaires-123523288.html 古い記事ですが会社がIPOしたけど https://www.bloomberg.com/news/articles/2015-12-17/big-ipo-tiny-payout-for-many-startup-workers そんなに大した収入がなかったという記事があったり、ケースバイケースぽい感じがします。正直、収入の期待値という意味ではGoogleやNetflixのビッグテックに勤めつつ、趣味でエンジェル投資をするのが一番なのでは?と思ってたりします




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?