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ラディカルマーケットと私有財産

ラディカルマーケットという本を読みました。基本的な論旨は「市場は自然発生するものではなく人間が人工的に成立させているもので、ルール次第によっていかようにもなりうる。この市場のポテンシャルを最大限に活かすことでもっと良い社会を作ることができるのではないか」というものです。じゃあどのあたりがラディカル(急進的)かというと、以下の三点を重視している点でしょうか。

・社会主義=中央による計画経済ではなく、資本主義との違いは私有財産の扱いに関することだった。
・独占は健全な競争を阻害するので良くない。独占には私有財産も含まれる。
・テクノロジーの活用により昔はできなかった社会デザインが可能になっている。

市場というものに着目し、資本主義では当然とされる私有財産制に疑問を投げかけ、まさに急進的な案を提示しています。かといって国家が財産を持ち分配する様な話ではなく、むしろ個人の欲がドライブとなる市場という機能は社会の発展にとって極めて重要なのでそれを最大限に活かそうというアイデアが書かれています。

一例ですが、例えば土地などの財産は私有(個人的に所有)することができます。このおかげで家を建てたり、別荘を買ったり、会社のビルを建てたりと自由に投資をすることが可能になっていますが、一方で大して活用されていない土地を持っている人のところに何か大きな建築物を立てようとしても、交渉がうまくいかないなどの問題があります。このような局面ではどれだけ小さい土地の所有者であってもごねればごねるほど交渉が有利になります。また行政や大企業が持っている放置されている土地、所有者がどこにいるのかわからないような空き地などが活用されればもっと新しい挑戦をしたいホテル業スタートアップなどが生まれやすくなります。

そこにラディカルな案をぶつけています。以下の三つが要点です。
・まず土地の値段を申告する
・その土地に対しある一定比率を課税する(10%とか)
・申告された土地の値段で誰でも土地を購入できる(外国人の購入規制など調整必要)
というものです。つまりこの案では、本人が売りたくないと思ったら売らなくて済む様な独占的な私有財産を認めていません。すぐ買われるとわかっていたら誰も投資しないんじゃないか、金持ちがどんどん土地を買い漁ってしまうんじゃないかなどいろんな疑問が浮かびますが、主な疑問は回答しつつやってみて調整するしかのがいいと結論付けています。驚くのはこのアイデアを全ての資産(絵画や家具など!)に適用できると言及している点です。
それ以外にも一人一票制度に切り込み、一人ずつにボイスクレジットという一票を分割した様な投票権を配り、それを重要だと思われる案件や立候補者に投じていくというアイデアも披露しています。また移民制度や、上場市場における機関投資家の存在感の大きさとその弊害をいかに解決するかなど非常に刺激的です。

その根本のアイデアは「市場とは自然なものではなく人工物であるから、常に何を社会善とするかを議論し仮決めしながら、それを最大化するためにルールに調整を加える必要がある」というものです。考えてみると既に私たちはすでにこのfacebookのようなプラットフォーム企業が作ったマーケットの中で企業に決められたルールに従て行動し、そのルール変更ごとに人々の行動が変わることを知っています。ああ、そういえばfacebookなどに投稿されたデータを正確にするためタグづけしたりすることを我々は無償で行なっていますが、利用者の外では有償で外部に委託しているそうです。だったら利用者がfacebookに投稿すること自体を有償化した方がいいんじゃないかという案もあります。それがあれば僕も少しは儲かります。

歴史的に計画経済がうまくいかないことは証明されていますが、その理由を著者は論文を引用し「情報の欠如」だと言っています。つまり、具体的に市場で何が求められ、何が足りないかを吸い上げることなど不可能だったから計画経済は破綻したのだと。市場の素晴らしい点は、自分が作っているものが最終的に何になるかわからないのになぜか自分の顧客のニーズに応えていると全体がうまくいくという機能だと思います。

ところが、将来的に人々の動きが情報として掴むことができ(データ)、分析され適切なサービスが自動的に提供されるならば(人工知能)、部分的にでも計画経済になっているのではないか、一部のテックジャイアントが志向しているのはそれに近いのではないかと著者は指摘します。計画経済には活力が発生しませんが無駄も発生しませんから、昨今のSDGsやデータとAIの掛け合わせが目指すのは、原料からの全ての流れが最適化された部分的計画経済なのかもしれないと思いました。

素人からの視点だとこんなものですが、ぜひ専門の方達、特に新しいマーケットをデザインしようとしている方たちがどう読まれるのか感想を伺ってみたい本でした。


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