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商業施設は公共の場所?

 ジェンダー平等、男性の育児休暇取得率のアップなどが叫ばれるようになって久しい。家事や育児などの家族生活に関わることを「手伝うよ」と特に男性側の配偶者が言おうものなら「当事者意識が低い!’手伝う’ではなく、当たり前にやるものとして捉えるべきだろう」とすぐさま突っ込まれる世の中になった。
 世の中には旦那さんや奥さん、どちらか片方に家事や育児をどちらかの「役割」として尊厳をもって割り当てて、謙虚さを表現するために「手伝うよ」と言っている方もいるかもしれない。事前に話し合いで役割を分担したのに、何も頭ごなしに「本来はお前の仕事だよ!」とキレまくらなくても良いではないか、と思っている人もいるのではないだろうか。
 実は、突っ込まれたりキレられたりするのは、そこに事前合意のない「理不尽」が含まれていて、その想定できなかったイレギュラーへのガッカリが心身に響いてる場合と、それを口に出さずに我慢して役割を遂行している場合に起こりやすい。「え?だって、君がやるって言ったよね?」なんて前提条件は、キレてる本人も重々承知に違いない。伝えたいことは、「今の状況ではその条件は無効!」という事だろう。大切なのは「信頼してるから任せたよ」ではなく、「一緒に解決しよう」という姿勢なのではないだろうか。

 さて、一昨年の大雪時に色々な角度から除雪について調べ、弊誌Vol.1号を発行したのだが、札幌市除雪の歴史、政策化してきた変遷、また除雪業者北友舎さんの業務に同行して町内会や個宅の除雪を取材させてもらった。そこには時代ごとに工夫してきた先人たちの姿が垣間見られ、あたたかな関係性を紡ぎ感謝・協力する姿を目の当たりにして身近な「除雪」についてかなり学ばせてもらったつもりだった。

 そして迎えた昨冬。「除雪」の目が養われた状態で冬を迎えると、さらにいろいろな不思議に気づくようになる。この地下鉄の入口はなぜ常にこんなにきれいなのか? バス停の雪かきは誰がやっているのか? マンションのような集合住宅はどのタイミングで一斉に排雪をしているのだろう…?冬も遊べる公園の駐車場はどこが除雪をするのか?排雪場所になっているこの土地は公共の場所なのか?夏はどうなっていたっけ?…ひとたび興味関心が向くと、色々な「あいまい」が見えてきてムズムズする。

とくに、多くの人が集まるショッピングモールなどは大規模小売店立地法によって都市空間を形成する役割も担っているので、自治体の条例などで「公共領域」を含むことが義務付けられている。…と、いうことは…、自分たちで個人の家の除雪をすることは当たり前だが、その存在自体が公共性を帯びていると、いったいどこからどこまでがそのショッピングモールの役割で、どのラインから公共的な都市としての役割へと切り替わるのだろうか?

 これは家庭の家事を夫婦どちらが担うか問題に似ている。私たちはついつい、行政や公共物とは法整備によってしっかりとした規定や基準が定められているに違いない、と思い込みがちだが、そもそも、法と言うのは、あいまいな部分に線を引いていく作業であった。「機械除雪」という概念が札幌市民に根付き始めたと同時に、目の前の問題に対して対処、適応するために様々な政策が提案され、実行されてきた経緯がある。現代の状況をよく把握する必要がありそうだ。

 雪もすっかり解けて春らしい日差しが路面を乾かす頃になった四月のある日、私はまた北友舎さんへと足を運んだ。ちょうど北友舎の岩瀬社長から、紹介したい仲間がいる、と言われていたのだ。その人は土井さん。岩瀬社長にとって北友舎を支える強力なパートナーだ。除雪業者としては大手がたくさんひしめき合っている中、後発として北友舎を立ち上げた岩瀬社長と土井さん。お互い手作業のきれいさと小まめな気配りを認め合い、そこを売りにすることで独立できる、と踏んだ仲だ。
 土井さんが担当するのが札幌市の複合型商業施設の除雪。かれこれ16~17年、総商業施設面積36,773 m²を数人のアルバイトと共に土井さんが担っている。
 一応、毎年入札で業者選定され、除雪の仕事を請け負う形だが、この施設には歴史的建造物もあり、広い敷地に個性的な各施設が立ち並んでいる。冬場の従業員入り口や搬入口、お客様用の出入り口なども複雑な配置。
「人が変わると一から段取り組まなきゃいけなくなるから難しいんだよね。」
という事で、実際に除雪を担う土井さんは過去の実績を認められ、長年現場担当者としてこの施設の除雪業務を一手に請け負えているらしい。管理や発注・受注を担う業務はデータの蓄積と共有で仕事を引き継げるが、実際にモノ・コトと面して熟練した技術を要する仕事と言うのは、そう簡単には引き継げないという事だろう。そこで、この施設の除雪について実際どのような点に気をつけ、どの範囲まで除雪しているのか、直接土井さんに聞いてみた。(次記事に続く)


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