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『罪男と罰男』を観た話

OFFICE SHIKA PRODUCE
罪男と罰男 大阪公演@ABCホール
2020年3月21日(土)昼公演

『罪を犯す男、罰を引き受ける男。
二人の再会は、世界を変える魔法の電話に繋がってゆく。
「思い返せば、いくつ罪を犯してきたのだろう」オレオレ詐欺をしている電話口から、孫に会いたいと懇願するお婆ちゃんの声を聞いた時、日出男はそう思った。そして罰を引き受けてくれた旧友・武男を思い出す。
再会した武男は、世界中の罰を受けて瀕死の状態であった。』
罪男と罰男 公式サイトより 

 色んな舞台、舞台だけではなく色々なものが予定通りに開催されることが当たり前ではなくなっている昨今。本当にありがたいことに、大好きな鹿殺しさんの『罪男と罰男』を観に行くことができました。本作、“魔法”というワードがあらすじに登場してはいるけれども、摩訶不思議な非日常というわけではなく。自分の人生の中にも近いものを見つけられるような、救いを見出せるような、そんないつも通り(いつも通り?)の優しい丸尾さんワールドでありました。

 菜月さん演出も好きなんですが、今回は丸尾さん演出で、それもめちゃめちゃめちゃめちゃ好きでした。舞台だなぁということをガンガン脳に叩きつけてくれる。パイプ椅子一つでパチンコ屋、学校の教室、交通事故......と次々に表現されていくのが面白くて、私は舞台を見てんだなぁと大興奮しました。テレビドラマじゃ絶対に観られない表現方法たち。なんて幸せなんだろう。

 一回しか観てないので、理解が間違ってるかもしれないのですが。私なりのストーリーの解釈は、こんな感じ。この世には大勢の人々がいるけれど、みんな互いのことなんか無関心。でも本当は、この世には他人はいなくて、みんな同じ量子からできている存在。そう考えると、この世にいるたくさんの人々は他人だけど“自分自身”でもあると言える。こんなふうに思うと、世の中と自分との繋がりが感じられる気がして、生き方も見えてくる。善行も悪行も個々人で完結するわけじゃなくて、誰かの罪は誰かの罰になって、誰かの善は誰かの恩になる。この世には他人は居なくて、『僕』しかいない。

 量子力学は恥ずかしながら全然知らない世界だったので、舞台を見てその片鱗に触れることができて良かったなぁと思いました。私は、時折どうしようもなく孤独になりますし、武男みたいに、他人と自分が同じものからできてるとは思えないけれども。だた、そういう考え方もあるんだってことを知れて、今後の自分の考え方を前向きにできる一つの材料を得られた気がします。

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 おたまじゃくしから鷺沼恵美子さんが好きだなって思っていたのですけど、罪男と罰男を見てその気持ちが更に強くなりました。お芝居を、愛して、研究して、全部曝け出して見せてくれる姿勢が初めて見た日から本当に好きです。舞台の上での生命力がビシビシ伝わってくる方だなと思います。表現したいっていう強さが、彼女の芝居にはある。舞台の終盤、己の前で膝をつき、泣き崩れて懺悔する日出男を見つめるときの顔に、倍以上の人生を歩んだ老人にしか出せないはずの赦しの色がしっかり浮かんでいて、意味がわかりませんでした。どんな役作りしたらあの顔ができるんだろうなって、めちゃくちゃに感動して、ボロボロボロボロ泣きました。

 勿論、主演さんたちみんな素晴らしかったのですが、個人的な感想として、鷺沼さんのお婆ちゃんが
『若者が、「老人とはこういうもの」だと想像して再現してみただけ』
のキャラクターだったら、あんなに会場が泣いてなかったように思います。話し方とか、さりげない仕草とか、思考回路が鈍っている感じとか、【お婆ちゃん】でした。鷺沼さんだいぶお若いはずなんだけど、完全にお婆ちゃんでした。かと思いきやアドリブで全身ミサイルをして頭から飛んで、スカート脱げたとか仰るので本当に好きとしか思えませんでした。鷺沼さんが出ると絶対に鷺沼さんしか見ない。大好きだ〜。

 「お婆ちゃんの喋り方研究します!」

と、秋終わりくらいに鷺沼さんがLINE LIVEでおっしゃっていたのですが、それを完全に有言実行されていて、役者魂とか芯の強さとか、目標を決めてきちんと達成してくる『人間としての素晴らしさ』みたいなのにやられました。 『決めたことを実行して成果に繋げられる人になりたい、ならなきゃ!ならなきゃいけないのに、なんで自分はできない!』って苦しんでたここ数日だったから、余計に私自身に刺さりました。『やってのけてる人がいる』っていうことがわかって、めちゃめちゃ力になりました。

 こういう風に、人の魅力とかエネルギーを画面越しじゃなく生で観られる(触れられる)から、舞台って最高だなって、改めて感じられた日でもありました。だって編集で誤魔化せないものね、積み重ねたものがそのまま出る。一歩間違えたら意図したものが何一つ伝わらないかもしれない、そんなスレスレのところで、役者さんたちは自己表現してくれているんだなぁと感じます。映像にも舞台にも優劣はないけど、私は舞台のほうが圧倒的に"好き"です。

 他の皆さんも全て素晴らしかったです。電話ボックスで叫ぶ松島さんは、焦りと苛立ちがリアルで観てて息切れしました。あの方本当にリアルな演技されますね、そこに在るかのような……。いまちょうど仮面ライダードライブをプライムビデオで観ているところなので、より一層楽しめそうです。岡本さんは、本当に可愛くて滑舌が美しくて、喜怒哀楽の表現が自然で、見ていてものすごく心地が良かったです。体を張ったアドリブにも笑わせていただきました。絹也さんも安定して好き。怖いものなにもないんじゃないかというくらい攻めてきはるし、演じてないように演じる人が私は大好きなので、絹也さんの芝居はたいそう好きです。鹿殺しメンバーが本当に好き。そして、丸尾さん。冒頭にも書きましたが、丸尾さんだなぁという脚本で愛しくてたまりませんでした。丸尾さんはとっても優しい人だなと感じ取っています。今回怖い役してたけど優しさが隠しきれてなくて、すごく好きでした。

 まとまらなくなってきたのでこの辺りで。終演後に近くの席の男性が目に入ったのですが、涙の残る腫れぼったいお目目をされていて、「(わかります……)」って握手しに駆け寄りたくなりました(笑)今年の11月の鹿殺し本公演が今から楽しみです、絶対に行くぞ!

 読んでくださった人がいたら、ありがとう。ではまた!
 

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