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⑨モモナと春のネム

 

山は霞に角が取れ、川はとろりと流れる春。
モモナとまるるが土手の上を歩いていると、何やら見えてきた丸こい形。
近づいてみるとそれは、へこんで膨らんで、いびきをかいています。


 眠る人はモモナが覗き込むと、あくびをしながら目を覚まし、「こんにちふあ~っ、目を覚ましたら素敵な出会いが待ってたなあ、やい」と背伸びをしました。
「こんにちは、私はモモナ、この子はまるる」
「ぼくたち旅をしてるんだよ」
まるるがしゃべるとその人はニッコリ。
「ぼくはネム、うたた寝旅暮らしをしてるだよ」
「それって……寝ながら歩くの?」
まるるが聞きました。
「眠たくなった時に、眠たくなった所で寝るんだけんど、まだ寝ながら歩いた事は無いなあ……うん。」
「じゃあ、どんな時に眠るの?」
「そうだなあ、今は川が子守歌を聴かせてくれたから、ちっと横になってただよ」
「私も!原っぱにある大きな木の下で眠ったとき、葉っぱのカサカサいう音にぐっすりだったよ」
モモナがそう言うとネムさんはポンと手を打ちました。

「木じいかい!木陰で眠らせてもらったよ。夢の中で根っこがからまって困るって言うで、ほどいてやったら、喜んでくれて」
「夢の中で?」
「ほうさ。だいぶスッキリしたって、枝に引っかかっていた帽子をくれただよ」
「不思議だね」
「不思議ずら?」


「ネムさん、他にはどんな場所で眠るの?」
「ほうだね、こないだは橋の上で眠ったね。風通しが良くて、爽快な気分だったよ」
「通る人に蹴飛ばされなかった?」
「それがね、目が覚めたら、腹巻きの上に投げ銭がしてあったさ」
モモナは大笑い、ネムさんも楽しそうにお腹を揺すりました。





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