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ジェフリー・アーチャー著『ケインとアベル』自由の価値観を取り戻す

先日アップしたジェフリー・アーチャー著『ケインとアベル』。

自分の中の熱量がまだ高いのでもう少し書きたいと思います。

なぜか書いていたら詳しいあらすじになってしまいました。

本当の理解者でありながら、ライバルとしてお互いを傷つけ合う運命の2人です。

同じ日に生まれたウィリアム・ケインと、アベル・ロスノフスキ。

僕は最初アベルのストーリーに惹きつけられましたが、読み進めるとウィリアムのストーリーにどんどん引き込まれていきました。アベルはかなり野心的で荒々しい部分があるので、ケインのスマートな感じが好きでした。

上巻の内容をまとめていきたいと思います。


ヴワデグ・コスキエヴィッチからみた『ケインとアベル』

登場人物

ヴワデグ・コスキエヴィッチ:主人公、東ポーランド出身
フロレンティナ:ヴワデグの姉で仲がいい
ロスノフスキ男爵:ヴワデグの住む地域の領主
レオン:ロスノフスキ男爵の息子
家庭教師たち:レオンの先生

ヴワデグは東ポーランドで猟師の子供にひろわれ、貧乏な猟師の家で育てられています。小さな小屋に大人数で住むコスキエヴィッチ家。本来なら血のつながっていない子供を育てる余裕はないのですが、母と一番上の姉フロレンティナがヴワデグを気に入ります。

ヴワデグは生まれながら乳首がひとつしかなく、母はこれを神の印と運命的なものを感じます。

この地域はロスノフスキ男爵の城を中心に村人が生活をしています。ヴワデグはコスキエヴィッチ家のほかの子供と違い、勉学に秀でていました。このウワサを聞きつけたロスノフスキ男爵。男爵にはひとり息子のレオンがいるものの、競争相手がおらずレオンの成長を心配します。そこでヴワデグに学友になってもらおう、という話が持ち上がります。

この時ヴワデグのしたたかな面が現れます。

ヴワデグは大事なお姉さんフロレンティナをどうにかお城に連れていきたいと考えます。そして持ち前の頭の回転の速さを使い、男爵にサラリと交渉し見事成功します。

ヴワデグはレオンの学友なのでお客様あつかいです。親友となったレオンと一緒に贅沢な暮らしを堪能するヴワデグ。フロレンティナは下働きなので立場は違いますが、一緒に楽しく暮らしていました。ヴワデグは、もはやコスキエヴィッチ家になんの未練もなくなってしまいます。

第1次世界大戦

しかし、第1次世界対戦によりドイツ軍が侵攻してきます。この時、レオンがヴワデグを助けるために亡くなってしまいます。死んでしまったレオンが幸せなんじゃないか、と錯覚するくらいヴワデグはここから凄まじい経験をしていきます。

城が占領され、ヴワデグや城で働いている人たちは捕まり地下牢での4年間の幽閉生活が始まります。ロスノフスキ男爵は精神的に参ってしまっていたため、ヴワデグが「どんな状況でも生きるチカラ」と「リーダーシップ」を発揮し、地下生活の精神的な柱になります。

4年間の幽閉生活は自由がなく、食べ物も満足に得られず、地下牢の住人たちがだんだんと少なくなっていきます。そして、ロスノフスキ男爵にもその時が訪れます。

最後にヴワデグを呼び、自分の服をめくります。ロスノフスキ男爵には乳首がひとつしかありません。このときヴワデグがロスノフスキ男爵の私生児であったことが判明します。

ロスノフスキ男爵はヴワデグを自分の息子と確信していました。ふたりの家庭教師を呼び、「ロスノフスキ家のすべてをヴワデグに譲る」という遺言の証人になってもらいます。そして、美しい銀の腕輪をヴワデグに渡し、息を引き取ります……。

ソ連軍の侵攻

城の外で銃撃戦がはじまります。ポーランド軍が来てくれたかと思ったものの、ドイツ軍と入れ替わりでソ連軍が侵攻してきます。ソ連軍はドイツ軍よりも残忍でした。ヴワデグたちは、極東ソ連まで連れて行かれ強制労働させらることになります。この時、若い女性たちがソ連軍の餌食になってしまいます。このシーンは読み進めるのがツラいです。

ヴワデグが姉として慕い、初恋のような感情を持っていたフロレンティナがソ連軍の兵士たちに強姦されそのまま息絶えてしまいます。

失意の中のヴワデグたち。東ポーランドから連れ出され、逃げ出すチャンスもなくシベリアまで連れて行かれます。列車に乗って移動している時、ヴワデグはほかの労働者にナイフで襲われてしまいます。太ももを刺され、まともな医療が受けられず、一生片足を引きずる後遺症が残ってしまいます。

そして、シベリアに到着してしまいます。

この時ヴワデグは、たったの12歳でした。

シベリアから脱出

ここから脱出劇がはじまります。「きっと脱出できるんだろうな」と思いながら読んでいてもハラハラするシーンの連続で、スピード感があります。

このシーンには心の美しい人々が登場します。どんなに悲惨な状況であっても救いがあり泣けます。悲惨な状況だからこそ、当たり前の優しさがズシリと身にしみます。

自由の価値に関して考えさせられます。

ヴワデグを助けてくれる人々

フランス人医師:逃走の計画を立てる
ロシア人の女性:モスクワで助ける
ロシア人の少年:スリ仲間で心を許せる存在
イギリス大使館の高官:窮地から救う
ポーランド領事:アメリカ行きを決意させる

最悪の状況まで転がったヴワデグの人生に、フランス人医師が関わり光が見えてきます。フランス人医師も捕虜となっているのですが、脱出するには年をとりすぎているとヴワデグにすべてを託します。そこに策略や裏はなく、完全なる善意でヴワデグを助けます。その証拠にヴワデグは男爵からもらった銀の腕輪を差し出しますが「いつかヴワデグの役に立つ」と優しく断ります。

シベリアからモスクワ行きの列車に忍び込めたヴワデグ。しかし、列車の中では身分証明書のチェックが行われています。ここではロシア人の女性がヴワデグを「自分の息子である」と嘘をついてくれます。それだけでなく、モスクワではヴワデグに食事、服を与えてくれました。

久しぶりの入浴。久しぶりのベッド。もはや枕では寝られなくなっているヴワデグ。このロシア人女性はヴワデグを息子として育てたい、とさえ言ってくれました。このシーンは心が温まります。ですが、彼女の旦那さんがヴワデグを追い出してしまいます。

そしてロシアの最西端までたどり着きます。ここではロシア人の少年と出会い、生きるために一緒にスリを行います。ふたりの息はぴったりで、しばらくの間一緒に生活を送ります。ですが、ヴワデグの目的地はトルコです。少年に引き止められても決意は変わりません。

少年がヴワデグを手伝い、うまく船に乗り込みトルコまで向かいます。ただ船の倉庫に忍び込んだものの、そこにはネズミがいます。真っ暗になるとネズミがヴワデグを食べようと襲います。「ヴワデグはやっと休める!」と思ったのに、まだまだ安心できません。

そうして、やっとの思いでトルコまで到着します。

トルコについたときフランス人医師からもらっていたお金を使おうとしますが、紙切れ同然でした。そのため、ロシアで身につけたスリの技術でオレンジを盗んでしまいます。この盗みがバレてしまいヴワデグはつかまります。イスラムの厳格な掟により手を切り落とされそうになるヴワデグ。

ちょうどそこにイギリス大使館の高官がいました。たまたまヴワデグの銀の腕輪が目に入り、ヴワデグのことを助けてくれました。この高官がイギリス大使館まで連れていってくれて、食事や洋服、寝る場所を提供してくれます。食事をスコットランド人の女性が作ってくれるのですが、食事のシーンでじーんとしてしまいます。

そして、ポーランド領事館まで連れて行ってもらい、ついに脱出が成功します。

この時出会った人々とヴワデグとのやりとりが、ズッシリと響きます。食事がこんなにもおいしいのか、ベッドがこんなにもありがたいものなのか……。日常がとても美しく感じる描写です。

ヴワデグの持つ人間としての魅力が彼らを引き寄せたように思います。

アベルと名前を変えニューヨークへ

【 同郷の友人 】
イェジー・ノヴァク:ポーランド出身で親友となる(アメリカ名はジョージ)
ザフィア:ポーランド出身の可愛い女の子

しばらくポーランド領事館で働いたヴワデグ。本当はポーランドに戻りたかったものの、もはや戻るのは不可能と悟ります。幸せだった生活、故郷を捨てなければいけない境遇。

アメリカで人生をやり直すことを決意します。

ニューヨーク行きの船で同郷のポーランド人たちと友達になるヴワデグ。イェジーはヴワデグが今まで縁遠かった、色恋について詳しく、いろいろ人生に必要なことを教えてくれました。イェジーはアメリカではジョージと改名し新しく生きていく決心をしています。

そして、美しいザフィアと出会います。初めての恋です。

名前を入国審査で聞かれます。ヴワデグはいつまでも答えることができません。そのとき係官が銀の腕輪を見つけます。そこには「アベル・ロスノフスキ」という文字が。

こうしてヴワデグはロスノフスキ男爵の名前をもらい、アベルとして新たな生活を始める決意をします。

ヴワデグの逃走劇は生まれたときから始まっていたように思います。ヴワデグの人生に関わった人が、ひとりでも欠けていたらニューヨークまで到着することはなかったんだと思います。

プラザホテルでケインとすれ違う

成り上がるきっかけを与える人物がいます。

デーヴィス・リロイ:リッチモンド・ホテル・グループの総支配人

ニューヨークではジョージの知り合いのもとで働いていましたが、アベルは要領の良さを発揮しプラザホテルの職を手にします。働きながら学校に通い能力をどんどん高めていきます。

このとき株の取引もはじめます。アベルはプラザホテルのウエイターとして働いていて、レストランの客の要人たちが会社の情報をやりとりしています。その点に気づいたアベルはこの情報を使い、株でどんどん儲けていきます。この悪知恵の使い方がアベルの特徴です。

アベルはウエイターとしてとても優秀でこの働きを見つめる人物がいました。リッチモンドホテル・グループのオーナーであるデーヴィス・リロイです。

リロイはアベルをシカゴのホテルの副支配人としてヘッドハンティングします。

そんな中、ふたりの若者とその家族がプラザホテルで楽しく食事をしています。寄宿学校を卒業したウィリアム・ケインがお祝いをしていました。そこに給仕するアベル。

ケインがふとウエイターの手元をみると、銀の腕輪が光ります。その腕輪が鮮明に印象に残ります。

お互いに「この人物はどんな人なんだろう…」という印象を与えます。

これがふたりの初めての出逢いです。

ウィリアム・ケインからみた『ケインとアベル』

主人公のウィリアム・ケインはボストンの名家で生まれます。ウィリアムはアベルと同じ時代に生まれたと思えないくらい恵まれた生活を送り、名門学校からハーヴァード大学へ行き銀行家となります。

ただし、ケインのストーリーもとても波乱に満ちています。

登場人物

ウィリアム・ケイン:主人公
リチャード:父。ケイン・アンド・キャボット銀行頭取
アン:母
アラン・ロイド:ケイン・アンド・ギャボットの銀行家。ウィリアムの後見人
ミリー・プレストン:アンの親友。ウィリアムの後見人

ウィリアムはボストンの「ケイン・アンド・キャボット銀行」の頭取の息子として生まれます。母であるアンは跡取りとなる男の子が生まれ一安心。ただ難産だったため、これ以上子供を持つことは難しいだろうと医師から告げられます。

ウィリアムは生まれたときから銀行家になる道筋が決まっていて、どの学校に行くかまで決まっています。

若くして頭取になった父リチャード、美しい母アン、そして厳格な祖母のもと何不自由なく成長していきます。幼少期から数字に強く、将来を期待されていました。

ウィリアムが5歳の時、銀行のロンドン支店で問題が起こります。リチャードはウィリアムに世界を見せるため家族を連れイギリスに旅立ちます。旅行はとても実りあるものでした。

ですが、帰国の前日にウィリアムが「はしか」にかかってしまい、治るまでロンドンに滞在することになります。リチャードはボストンに戻る必要があったため一足先に帰ることに。

数日後、街中が船の事故の話題で持ちきりになっています。

リチャードがアメリカに帰るために乗っていたのは「タイタニック号」でした。この事故で帰らぬ人となってしまいます。

ここでウィリアムは一気に大人になることを迫られます。莫大な遺産を受け継ぐウィリアムに対し、祖母がさらに厳しくなります。そして、ウィリアムにとって父親を超えることが人生の目標になりました。ウィリアムはリチャードとまったく同じ道を歩むことになります。

資産運用の才能

学校に通い始めるようになったウィリアム。成績はトップです。

アベルに比べると信じられないほどのどかな生活なのですが、少年期からお金をどう儲けるかとか、株をどう運用するかといった話が登場します。このストーリーにすごくワクワクしました。

祖母から資産運用のノートをもらい、ウィリアムは自分で資産の運用を始めます。株の取引を始めるときも、まずはシミュレーションからと堅実さを持っています。

こうした運用だけでなく、実際のビジネスにも興味を持ちます。

9歳の頃、ウィリアムの学校でマッチ箱のラベル収集がブームになります。ウィリアムは高額で取引されるラベルを不思議に思います。そしてふと「みんなと交換しているだけでは儲からない」と気づきます。

小学校に出回っているマッチの種類は多くありません。それに気づいたウィリアムはマッチの製造会社の社長にマッチのラベルを集めているという手紙と返信用の切手を添えて送ります。すると多くの会社がマッチを送ってくれるだけでなく、切手代をそのまま返送してくれました。

こうしてレアアイテムを手に入れたウィリアムは高値で売ります。そしてブームは去るだろうと思ったウィリアムは、一気にすべてを売ってしまいます。そして本来の10倍の利益を得ることに成功します。

運用失敗からの逆転

儲けたお金で実際の株を購入します。情報誌のオススメ株を購入しますが、利益の半分を失ってしまいます。この反省から「株は自分で判断して買う」というウィリアムの資産運用ルールが決まります。

ただ、損した分は取り戻したいと思います。ちょうど夏休みということもあり、あるビジネスを思いつきます。旅行者のためにタクシーの代わりに駅からホテルまで荷物を運ぶ仕事です。

5ドルで簡単なリアカーを作り、タクシーの20%の料金で運ぶビジネスはとても順調で、株の損を取り戻すことができました。ただタクシーの運転手からは大ブーイング。脅されてしまいます。

ウィリアムはここで知恵を働かせます。タクシーの運転手たちに「辞める代わりに1人50セントずつ出してほしい」と交渉します。そして、リアカーは上級生に5ドルで売ることに成功し、さらに利益を得ることができました。

少年時代にお金を稼ぐ術を見つけたウィリアム。ウィリアムは中学からお小遣いはいらない、と祖母たちに宣言します。その時祖母にブローチをプレゼントするのですが、外箱だけが有名なお店のもので中身は安物でした。

ブランドに価値があると気づいたウィリアムの悪知恵です。ただ、きっとおばあちゃんたちは価値に気づいていたと思います。それでも感心したんじゃないか、と思います。

寄宿学校 - 生涯の出会い

マシュー・レスター:ウィリアムの生涯の親友
ヘンリー・オズボーン:アンの2番目の夫
トーマス・コーエン:法律事務所の弁護士

ウィリアムは12歳で父リチャードも通った寄宿学校に入ります。ルームメイトはレスター銀行頭取の父を持つマシュー・レスター。一生の友人になります。寄宿学校ではウィリアムは特別扱いされることがなく、自由な環境で勉強に専念できました。

ここからウィリアムはリチャードの持つ記録をどんどん塗り替え、父親を超えるという目標をどんどん達成していきます。

夏休みになるとウィリアムはマシューの家で過ごします。マシューの父は、ニューヨークのレスター銀行の頭取です。ウィリアムはレスター銀行を見学し、ケイン・アンド・ギャボット銀行よりも規模が大きいことに魅了されます。

そして「将来、レスター銀行の頭取になる」と宣言します。

反抗期

母親のアンはリチャードの死後、恋愛から離れていましたが周りから再婚をすすめられていました。あまりピンとこないアン。

そんな時、親友のミリー・プレストンからヘンリー・オズボーンを紹介されます。ハーバード大卒のハンサムなオズボーンと恋に落ちます。そして出会ってから10ヶ月でふたりは結婚します。

ですが、ウィリアムはこの結婚には大反対でした。特にオズボーンが気に入りません。

アンがオズボーンと結婚したことで、家に帰ることが嫌になるウィリアム。自分で小遣いも稼いでいるので、ますますアンと疎遠になっていきます。

アンはウィリアムとオズボーンの関係をどうにか修復したいと考えています。しかし、アンの財産を頼りにし、ヒモ状態のオズボーン。アンはオズボーンに弱く、お金が必要といわれると気づいたらお金を渡しています。

そうこうしているうちにアンの妊娠がわかります。これはふたりで計画をしていたことです。とはいえ、医師はアンの妊娠には大反対でした。もうひとり産めばアンの命が危険になる、と考えていました。

そして不穏な手紙が届くようになります。「オズボーンが浮気をしている」と。

最初は気にしていなかったものの、オズボーンの不審な点が気になり始めます。心配になったアンはかなり抵抗があるものの、ヘンリーの浮気調査を探偵に頼みます。

オズボーンの企み

オズボーンが目をつけたのは病院建設のビジネス。業者の選定入札のために、50万ドルをアンにお願いしてきました。アンにそこまでの大金はもうないため、オズボーンはウィリアムが相続する遺産に目をつけます。

そもそもアンはウィリアムが相続したリチャードの遺産に手を付けることはできません。ですが、遺産の元手から株式投資による利子で利益がたくさん出ていました。法廷相続人であるアンと名付け親のアラン・ロイド(ウィリアムが将来引き継ぐケイン・アボット・キャボット銀行の頭取)、ミリー・プレストン(アンの親友)のうち2人が了承すれば、貸し出せるという条件があるのをオズボーンは知っていました。

ウィリアムは母の結婚当初から弁護士のトーマス・コーエンにオズボーンの身辺調査を依頼していました。オズボーンの浮気を把握済み。母の財産を盗ろうとするオズボーンの不穏な動きを悟ったウィリアムはアラン・ロイドに秘密裏に接触します。ウィリアムはオズボーンが入札で敗れるという情報もすでに持っていて、母の友人でもあるアラン・ロイドに融資の反対を説得してもらいます。

アンはウィリアムがボストンに戻ってきていることを人づてに聞き、驚きます。そして自分に会いに来てくれないことにショックを受けます。

アラン・ロイドからアンに、病院建設の件で連絡がありました。オズボーンが銀行に融資を求めてきているとの相談でした。アラン・ロイドはアンを心配します。ですが、アンの決断を尊重することを決心し、強く融資の反対を提案することができませんでした。

入札失敗

病院建築業者の正式発表がある日、アンは探偵からの最終報告を受け取ることになっていました。オズボーンを信用し報告は聞かないと決心していましたが、なんとなく不安になります。

そして報告を聞きに行きます。

ここでオズボーンが、親友のミリー・プレストンと浮気をしていたことがわかります。さらにヘンリー・オズボーンは偽名、戦死者の戸籍を盗み、ハーバード大卒の経歴もウソ、結婚詐欺を行ったり、前科を持っていることもわかります。

ウィリアムの手回しにより、病院の建築業者にオズボーンの会社が選ばれませんでした。

アンはここで産気づいてしまいます。もともと子供を生むのが難しかったアン。生きる気力を完全に失ってしまい、アンは帰らぬ人となってしまいます。それだけでなく赤ちゃんも生まれることはありませんでした。

このシーンでは『スター・ウォーズ:エピソードⅢ』のナタリー・ポートマンを思い出してしまいました。子供を生んだあと、アナキンの変化を受け入れられず衰弱しきってしまい生きる気力をなくしてしまう……。

病院に駆けつけるウィリアム。時すでに遅し……。疎遠であったものの大好きだった母の死を受け入れることができません。そこにミリー・プレストンの家から何も知らないオズボーンが戻ってきます。

ウィリアムはオズボーンに二度と家に近づくな、と警告し関係を絶ちます。

結局、遺産目当てだったオズボーン。アンとオズボーンに子供ができてもその事実は変わりませんが、オズボーンはこの事実をわかっていませんでした。そして、アンに無理をさせてしまい、結果的に死を導いてしまったのです。

新たな人生へ

アラン・ロイドはアンの死の責任が自分にあると、説得すらしなかった自分を責め、頭取を辞任することを決意します。

ですが、ウィリアムに引き続き頭取のままでいてほしいと頼まれます。こうしてふたりはお互いに信頼し合う仲間となります。

父の死、母の死を乗り越え、寄宿学校では優秀な成績をおさめ、マシューとともにハーバード大学に入学が決まります。そのお祝いにニューヨークのプラザホテルで、ケイン家とレスター家でお祝いの食事会を開きます。

ウィリアムはそこで働くウェイターの美しい銀の腕輪に目をとめます。そこには読めない文字が……。

「アベル・ロスノフスキ」との初めてのすれ違いです。

そして下巻へと続きます。

大長編

『ケインとアベル』には続編があります。

『ロスノフスキ家の娘』という題名で、これはアベルの娘の話です。しかも、『ケインとアベル』の下巻と『ロスノフスキ家の娘』の上巻は同じ時系列のため、別の視点で『ケインとアベル』の下巻を楽しむことができます。

1980年代にドラマ化もされていて、大きい声では言えないですが youtube に日本語版がアップされています。

こちらの評判もすごくいいです。

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