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日記:据え膳食わぬは男の恥物語

ブックオフの100円棚で、姫野カオルコさんの「ガラスの仮面の告白」を買う。エッセイ。近くのパン屋さんでチーズフォカッチャを食べながら読む。「『男性と一式の寝具で寝て何もなかった数の世界一』というものが、もしギネス・ブックにあったら、うまくいけば載れるんじゃないかと思う。大学生時代など、いったい何人の男性と寝ただろう、グーグーと・・・。」(「リボンの騎士」より)姫野カオルコさんの文章を初めて読む。新人の時は「ドスケベ作家」「ヘンタイ女子大生作家」「異常性欲作家」と呼ばれていたとのこと。昨日、「初体験物語」を読みたくてアマゾンで検索し、377円したので一度保留にしたんだけど、この日記を書いている途中に注文する。いろんな初体験が文章になっているらしい。(「はじめて見た生ダリの絵に興奮して、力強いくしゃみ(唾液含む)をあびせかけてしまった・・・」(タイトル不明)など)届くのが待ち遠しい。

「男性と一式の寝具で寝て何もなかった数の世界一」を読んで思い出す。タイトルをつけるなら「女性と一式の寝具で2日間寝て何もなかった」話。

僕は東京にいた。1か月前くらいに知り合った女の子Y(僕より7歳年下)と一緒に家で食事会をしようということになった。2人きりではない。僕の男友達3人も一緒。男4人、女1人の計5人。その頃僕は料理にはまっていて、それでいて一人暮らし(白猫がいたけど、当然、僕の料理を食べない)だったので誰かに料理を食べさせたくてしょうがなかった。4,5日かけて自家製ハムを作ったり(冷蔵庫で寝かせて、毎日、豚肉をくるんでいるキッチンペーパーを取り替えた)、エスカルゴバターを作るために大量のパセリを無駄にしたり(乾燥したパセリをペースト状にしようとしていた。生パセリでやんなきゃダメだった)、手のかかることにも惜しみなく時間を使っていた。

Yは東京から少し離れた場所に住んでいたので、前日から僕の家に泊まることになっていた。「そっちの方が楽だからいいよね」と何も考えずに提案した。僕にも当然、下心というものがある。だけどその時は食事会を開きたい気持ちが相当に強かったのか下心が働いてなかった。その結果「1か月前に知り合った7歳年下の女の子を部屋に泊めちゃダメでしょ」という道徳(?)も働かなかった。

金曜日の夜。仕事終わりに家の近くの書店でYと待ち合わせ。一緒に家に帰る。ワンルームの部屋。「ベット使っていいよ。俺ソファーで寝るから」と僕。「悪いから、ソファーでいいよ」とY。「まあ、人のベッドに寝るのが嫌な子もいるよね」と思って、その通りにする。僕は仕事で疲れていた。電気を消して、ベッドの中でウトウトしてきたときに、Yがベッドの横に立っていた。掛け布団の端をつかんでいる。それから、Yはするすると布団に入ってきた。季節は冬。寒い。僕はYのことを「空気を読めない人」と理解していた。空気が読めないから布団に入りたがってるんだなと思った。「ソファーで寝るのは寒かったから温かいところに入る。ああ、自然なことだな」と。そんなこと考えてたら、いつのまにか寝ていた。グーグーと。

土曜日。食事会の当日。ここでもあまり考えがなかったことに気づく。「Yは食事会した後にどうやって帰るんだろう」と。夜に食事会が終わって、Yは帰る術がない。もう一泊部屋に泊まる。洗い物を手伝ってもらって寝る準備をする。昨日の教訓を活かして、Yに毛布を余計に一枚渡す。寒くなければベッドに入ってくる必要がない。Yが毛布を受け取る。何も言わない。「これでいい」と思った。が、電気を消して僕が布団に入ってすぐ、横にYが立っていた。「え?」と思った。まだウトウトしてないから意識もはっきりしている。考える。「昨日は寒かったから、ベッドに入ってきたんだろうけど、じゃあこれは一体何なんだろう。毛布も渡したし、エアコンもつけてるし・・・」僕は考えがまとまらないから何も言わない。Yも何も言わない。言わないけど、昨日と同じようにするするとベッドに入ってくる。会話はない。「これ、どういう状況?」っていろいろ考えてたら、そのまま寝てしまった。グーグーと。

日曜日。僕が起きると横にYはいなくて、窓際にあるパソコンで音楽を聴いていた。バッファロードーター。「おはよう」と声をかける。今まで見たことのない「気まずそうな顔」をしている。目線を合わせない。うつむいている。今までのYでは考えられない。Yのその顔を見たときに察する。「あ!そういうことか」と。

僕はYのことを「空気を読めない人」と決めてかかっていた。普通の人とは違う行動をとる。だから布団に入ってくる。温かいから。飼ってた猫と同じ。それくらいに思ってたんだけど、どうやら違ったようだ。結果的に空気を読めていなかったのは「僕」だった。それ以来、Yとは一度も会っていない。

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