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移住・転職で手にした、宝物のような時(熊本県南阿蘇村地域おこし協力隊/藤岡 政人さん)



藤岡 政人さん

産業観光課南阿蘇鉄道復興支援プロジェクト

大阪府東大阪市出身。家具職人として10年、鉄道製造の職人として10年を過ごした後、南阿蘇村へ。2019年11月着任。3年の任期を終え、2022年11月から延長期間に入った。妻のおすすめスポットは、杖立温泉(小国町)。

どこまでも続くかに思える線路を、丁寧に点検。災害で線路に影響があったときも、いち早く現場に駆けつけて対処する。

電車をつくってよ!

藤岡政人さんの転機は、鉄道好きの甥の他愛ないひと言によってもたらされた。注文家具の職人だったという藤岡さんは、甥にとって「なんでもつくれる人」だったようだ。無邪気な言葉に真剣に応えて、藤岡さんは列車を製造する職人になる。木から鉄。ものづくりという意味では共通する部分もあるものの、扱う素材の性質からしてまったく異なる分野への挑戦。けれど藤岡さんは、「自分には鉄が合っていたみたい」と話す。

すべての工程に人の手が介在すること。妥協を許さないミリ単位の正確性が求められること。ひとつの目標に向かって、チームで力を合わせること。それらに藤岡さんなりの「正直さ」を見出し、楽しさと大きなやりがいを感じていたという。

家族の光が、一番大切

充実した仕事を手にした藤岡さん。一方で、家族や暮らしに焦点を当ててこなかったことに気づき始める。子どもが生まれる頃に生活を見直し、大阪府を離れて妻の地元である熊本県へ移住することを考えるようになった。

移住先候補に挙がったのが、観光でよく訪れていた阿蘇地域。水の良さに感動したこと、妻が温泉好きだったことが気持ちを後押しした。阿蘇周辺で鉄道関係の仕事を探したところ、村の地域おこし協力隊の募集を発見し、応募。南阿蘇村へ移住する。

それから丸3年。日に焼けた顔をくしゃくしゃにして、「家族の光が一番大事」と話す、藤岡さんがいる。あまりにもまっすぐな言葉が懐に飛び込んできて、腹の底にしっかり落ち着くような感覚がした。

家族と共にいる時間を大切にしたい。そのために、生活の場や仕事を変化させてきた藤岡さん。だから、仕事を離れれば、完全オフモードが鉄則だ。

正直に向き合うこと

軸を置くのは家族。だからと言って、仕事を疎かにするような藤岡さんではない。主な業務である点検作業では、一歩ずつ歩きながら専用の器具で線路を叩き、状態を確かめる。こうして、枕木のズレがないかなどを調べているのだという。「地域の方のご協力あっての仕事だから、コミュニケーションを取っていきたい」と、通りかかる住人への挨拶も欠かさない。「地味な仕事でしょう(笑)。でも、線路脇で作業しているときにトロッコ列車が通ると、乗っている子どもたちが手を振ってくれる。それがとてもうれしい」。

家族と仕事。正直に向き合うことで得られた今が、藤岡さんの宝物だ。


南阿蘇鉄道は、住人の生活に密着した交通手段。2023年の全線開通に向け、「もっときれいに整備したいですね」と藤岡さん。
使い込まれた道具たちが、誠実な仕事ぶりを証明してくれる。

南阿蘇村地域おこし協力隊 ヒトコト録


2023年2月発行。南阿蘇村地域おこし協力隊の活動報告会の一環で作成しました。内容は取材時のものです。
取材・文・編集/家入明日美
撮影/みんな
表紙デザイン/南阿蘇フィルム
本文制作・印刷/城野印刷株式会社

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