所沢市母子殺害事件公判傍聴記・2022年3月18日(被告人:大谷竜次)

2022年3月18日
さいたま地裁第五刑事部合議係
301号法廷
事件番号:令和元年(わ)第854号等
罪名:窃盗、殺人、死体遺棄
被告人:大谷竜次
裁判長:小池健治

この日は、大谷竜次の判決公判である。S・Yは犯行に関与していたのか、大谷は無罪となるのか、裁判所がどのように判断するか、注目された。
14時25分の段階で、23人ほどが法廷前に並んでいた。14時38分に29人となり、打ち止めとなる。14時40分に入廷が許される。
開廷前、ビデオカメラによる二分間の撮影が行われる。
弁護人は、髪を真ん中で分けた中原潤一弁護士、ショートカットの中年女性である梅田弁護士、角刈り眼鏡の中年男性である市川弁護士。開廷前に、三人で何か話をしていた。
検察官は、目の座った痩せた中年男性、髪を真ん中で分けて固めた青年、ショートカットの眼鏡の中年女性、髪を七三分けに分けた青年の四人。
書記官は、髪の長い痩せた中年女性。
14時48分、小池健治裁判長らが入廷する。裁判長は、眼鏡をかけた柔らかい髪の中年男性。裁判官は短髪の青年と、短い髪を立てた痩せた中年男性。裁判長らが入廷してから、ビデオカメラによる撮影が行われる。
記者席は10指定され、7席が埋まる。
撮影が終わってから、裁判長たちは、いったん奥へと引っ込む。また、撮影後に、被害者参加代理人の髪をセミロングにした初老の女性、ショートカットの中年女性が入廷する。
被告人は、車椅子を刑務官に押され、入廷する。傍聴席の方をちらちらとみている。弁護人にあいさつし、入廷した。頭は丸坊主にしており、引き締まった体格である。黒い長袖のジャージを身に着けており、白いマスクをつけている。入廷後、すぐに縄を外される。しばらくして、手錠も外された。
謎の老人と、中年女性、眼鏡をかけた女性が、書記官の隣に座る。
14時58分、裁判長たちは裁判員を伴い、再び入廷した。
そして、15時より、大谷竜次の判決公判が開廷した。

裁判長『始めます。被告人、前へ』
被告人は、車椅子を押され、証言台の前に出る。
裁判長『大谷竜次』
被告人『はい』
裁判長『窃盗、殺人、死体遺棄について判決を言い渡します』

主文:被告人を、懲役28年に処する。未決拘留日数1100日をその刑に参入する。

被告人は、主文の瞬間、特に反応を見せなかった。裁判長は、朗読を続ける。
判決言い渡しの間、検察官四名は、終始メモを取る、PCを打ち込むなどしていた。カタカタ、というキー操作音が、法廷内に響いていた。

理由
犯行に至る経緯。2月7日22時39分から2月8日5時までに、被害者二人とS・Yとの間でトラブルが生じ、Aが包丁を持ち出した。被告人は、包丁を手に取った。
第一・被告人は、激情し、Aを18.1センチの包丁で多数回突き刺し、Aは肺肝損傷で死亡した。
第二・2月8日午前5時までの間、S・Yと共謀し、Bを湯水に沈め、Bを殺害した。
第三・S・Yと共謀し、Aの死体を浴槽に放り込んだ死体隠匿、遺棄。
第四・現金を窃取しようと企て、みずほ銀行において、B名義のカードを挿入しATMを作動させ、57万3949円を窃取した。
次は、争点について。
第一、第二、第三の犯行について、2月7日午後10時39分から2月8日午前5時までの犯行時間帯。Aへの包丁による殺人①が行われ、Bを湯水に沈めた殺人②が行われ、死体遺棄、争いはない。弁護人は、犯人がS・Yと述べている。
窃盗罪は、現金引き出しに争いはなく、窃盗罪の成否を争う。
殺人①は実行し、殺人②は関与したが、単独で実行したとは言えない。S・Yと共謀した。死体を遺棄したと認められる。説明困難な事実関係を含んでいる。S・Yと共謀して実行したと認められる。また、現金引き出し、許容されるものはない。
判断
殺人①、2月8日午後1時48分頃、B方の浴槽に、被害者二人の遺体が入っているのをAの妻子が発見した。2月8日午前5時、AはMさんへのおはようのメッセージを送っていない。被害者宅には、K、B、S・Y、被告人がいた。犯行時間帯には、A、B、S・Y、被告人しかいない。
Aの死因鑑定結果、上腹部を一回刺され、背中、右側胸部を刺され、失血死した。防御創はない。Aの遺体は、事後的に拭き取られた。1階、2階には、被告人とS・Yの足跡があった。
チェックシャツを着ていたのは、被告人と推認される。ストーブ、トートバックには、高さ2~30センチ。押しつぶされた箱には、Aの血液がしみていたもの、乗ったと推認される血のシミがあった。Aは、B方の一階六畳話和室南側で刺され、殺害された。うつぶせになったと推認させる。
チェックシャツを着ていたものが犯人と推認される。右袖には多数の飛沫血痕。Aの血液とDNA型が一致した。人の胸腔内は陰圧であり、体内に刺さった刃物を抜くと血液が球体となって飛び、飛沫となる。血液が付いた物体を振ると、一直線に付着する。着衣と刃物は近接している。飛沫血痕は、ポケットの内側にまである。かなり近接した場所より、刺したと言える。
被告人の着衣は、Cはチェックシャツを日常的に着用していたと述べる。2時から3時ごろ、Kは被告人が着ていたと述べる。犯行時も着ていたと推認できる。S・Yの着衣は発見される。S・YとAの関係に照らし、犯行時以外に、ついたとおもえない。切りつけられた後、着衣をして符合する。犯行時、S・Yが着衣を着ていたことを推認される。
切りつけられた点、S・Yの証言、直ちに信用しがたい。S・Yが介護に不満を漏らすのは不思議でないが、いきなり包丁を持ち出すことは、考えられない。Aが、S・Yが道を間違えるとライターの火を顔に近づけており、Aが刃物を持ち出してもおかしくない。
以上、被告人がチェックシャツを着ていたことが強く視認される。
弁護人の主張、S・Yが被告人に犯行の責任を擦り付けるために、衣服を遺留したとしている。しかし、S・Yがチェックシャツを着てその後、自分の服に着替えたことになるが、本件は突発的犯行であり、衣服を何度も着替える暇があるとは思えない。S・Yの服一式、現場に遺留されている。血のついていない靴下、偽装とは言えない。弁護人の主張は抽象的である。
犯行時、被告人がチェックシャツを着ていたと推認される。
被告人の左手に創傷があったこと、いつできたものか不明であり、Aの殺害に強くかかわったこと、創傷は結び付かない。
被告人、偽装工作を行っている。Aの勤務先に電話をかけ、出勤しない旨を伝え、生存装うメッセージを送信した。種々の偽装を行っている。Aの殺害に関与したことが疑われる。しかし、深く考えず行う事も考えられ、強く犯行と結びつけるものではない。
チェックシャツ着用していた人物が犯人と推認され、被告人が着ていたので犯人と推認され、手に創傷あること、偽装工作相まって、犯人と強く推認させる。
S・Yは被害者を強く怨んでおり、被告人に動機はない、と弁護人は述べる。S・Yは頻繁に実家に帰っており、殺そうとするまで強く怨んでいたとは言えない。
被告人は、恩義を感じていても不自然ではなく、不満、恨みを抱く理由はない。しかし、明確な動機がないからと言って犯行に至らないとは言えない。
被告人は、A殺害の犯人と認められる。
殺人①の実行行為のS・Yの関与。被害者は、背中とわき腹を刺された。場所近接し、興奮して刺している。背中や右わき腹に刺突ないことからも、連続した一連の行為と考えられる。S・Yに飛沫血痕はなく、全ての刺突行為を行ったのは被告人と考えられる。
BがAを刺したと被告人とS・Yは述べており、不自然な内容で、口裏合わせ疑われる。しかし、疑いかかるの避けようと、S・Yが口裏合わせをしたとしても不自然ではない。
被告人が、刺突行為全体を行ったと考えて、矛盾はない。A殺害の過程、S・Yが声掛けなどしている可能性はあり、共犯の可能性はある。しかし、被告人が犯行を行ったことは間違いない。
Aへの刺突行為が、防衛行為となりうるか。Aの兄でさえ、S・YをAがいいように使っていたと述べている。包丁落とすなどしても、S・Yへの攻撃に出かねない。しかし、被告人は24回めった刺しにしている。被告人はもっぱら攻撃の意思に出ている。防衛とは言えない。
殺人②について。Bは全裸で溺死している。肌着袖部分、入り込んでいる。Bのおむつ、全て引きちぎられ、遺留されている。ハルシオンが検出されている。異常外はない。Bはハルシオンを飲み、裸にさせられ、溺死させられた。Aの後に殺された。Bは自宅で入浴する習慣はない。
被告人、犯人であるか。チェックシャツに、右脇部分、BのDNA型と一致する。皮膚片は、十分な接触ないと、付着する可能性は低い。
犯人はBを浴槽に運び、溺死させた。Aの飛沫血痕付着し、腕まくり部分には、チェックシャツを着た犯人は、遺体移動の際に付着した。
被告人がそのままチェックシャツを着ていた。S・Yは多くのハルシオンを処方されており、S・Yが殺したものとする。しかし、突発的犯行である。S・Yが飲ませたのであれば、ハルシオンを捨てなかったことは不自然である。ハルシオン摂取の理由は不明だが、S・Yが計画的に飲ませたとはいえない。
B殺害のS・Yへの関与。被告人は殺害に関与した。S・Yの関与について、殺人①に関与した疑いは濃い。死体遺棄への関与、S・Yは認めている。S・Yは、Bが自殺したとの虚偽供述を行っている。口裏合わせ、S・Yの関与を推認させる。

ここで、白い服を着た初老の傍聴人と若い傍聴人の二人が退廷した。S・Yの知人だろうか?言渡しは続く。

AとS・Yの関係を考えると、被告人は殺人②について、S・Yと意思を通じていたことが推認される。
着衣を脱がせることは困難。チェックシャツの細胞片から、被告人が水に沈めたとしても、行為の全て単独で行ったのが間違いないとまでは認められない。殺人②、S・Yと共謀の上、行った。
死体遺棄について。AはBの上に死体を遺棄されていた。着衣一式に血液付着していた。A殺害、S・Yの何らかの関与により、被告人が行った。両名、遺棄に関わったと推認される。意思を通じ、遺棄を行った。
窃盗。S・Yは、Bが全額使っていいようなことを言ったと述べていたが、信用できない。口座の残金全額を引き出しOKするとは考えられない。S・Yはそのような承諾がなく、被告人が誤認することもない。
以上、第1~第4について、事実が認められる。
量刑の理由
本件は、B家において、Aの背部、右側胸部を包丁で多数回突き刺して殺害し、Bを湯に沈めて殺害し、現金を引き出した。
Aを24回も突き刺し、強い殺意に基づいている。経緯については、AとS
・Yの間のトラブルが原因。Aにも包丁を持ち出した落ち度がある。刺突はもっぱら攻撃の意思に基づいており、一定程度汲むべきだが、軽減に限度がある。計画性なく、場当たり的。
Bは、ハルシオンの影響により、無抵抗になった状態で沈められており、強い殺意に基づく。何の落ち度もないBを殺害している。
結果は重大であり、遺族の激しい処罰感情は当然である。
死体遺棄は無残であり、窃盗も相応に悪質である。
S・Yの関与疑われるが、格別刑を軽減する事情にならない。被告人は軽度精神遅滞だが、格別刑を減じる事情ではない。
二人を殺し、B殺害は身勝手である。量刑傾向の中で重い。計画性なく、Aに落ち度あり、有期刑がふさわしい。
反省はない。一般情状で組むべき点はない。
主文の懲役28年に処するのが相当。長期の経過により、起訴されており、未決拘留期間を有利に考慮した。
主文のとおり、判決する。

裁判長『以上になります。不服あれば控訴できる。14日以内に。今後のこと、よく弁護人と相談を。以上』
言渡しは15時30分までの予定だったが、15時42分までかかった。
被告人は言い渡しの間、マスクをいじるなどし、ずっと前を向いていた。閉廷度、角刈りの弁護人と話をしていた。

判決には、いくつもの疑問点があった。
一点目、計画性のない犯行というのであれば、Bは、ハルシオンをいつのまされたのだろう。曖昧に済ませて良い点ではないのではないか。
二点目、Aともみ合いになって包丁が被告人の手に渡った、とするが、果たしてそのような経緯の犯行で、Aに防御創ができない、ということがありえるのか。
三点目、被告人の動機が、曖昧に思える。被告人は、知的障害、反社会性パーソナリティ障害があるが、暴力性や攻撃性は指摘されておらず、これまでの前科は人に言われて指示の下行った、暴力の伴わない行為である。いきなり激高して人を24か所も刺して殺す、というのは、やや不自然に思える。
こうした不自然な点に加えて、控訴審では、被告人のものではないDNAが、犯行に使われたチェックシャツの襟に付着しているのが解った。
控訴審はあっという間に結審してしまったが、どのような判断を示すのだろうか。

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