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幕張の空に響く女神の声・谷保恵美(たにほ・えみ)さんを語らせて!

「谷保さん、今年で引退なんだって」

夫から知らされた衝撃的なニュース。

夫婦ともにプロ野球ファンである我が家では「谷保さん」の名前だけで十分、いったい誰で何をしている人なのか説明は不要。

プロ野球ファン、特にパ・リーグファンなら「知らない人はいない」と言っても過言ではない(あくまで個人の希望的観測)。

ロッテの本拠地で、33年間ウグイス嬢を務めてきた人だ。(※ロッテオリオンズ時代も含むため、ここでは「千葉ロッテマリーンズ」ではなく「ロッテ」とした)

これまでアナウンスを担当したのは2100試合。しかも1894試合連続アナウンス継続中という、まさにウグイス界のレジェンドである。

ロッテが2位になったことにより、ポストシーズンも美声が聞ける

最初に断っておくが、私は北海道日本ハムファイターズのファンだ。

それでも今、谷保さんの「連続アナウンス継続中」と書けることを素直にうれしく思う。

パ・リーグではすでにオリックスの優勝が決まっており、もしロッテが2位にならなければ、谷保さんの声はもう聞けなくなってしまうところだった。

しかし最終戦で2位が確定し、パ・リーグのクライマックスシリーズ第1ステージが、ロッテの本拠地であるZOZOマリンスタジアムで開催されることになったのだ。

ここで、プロ野球に詳しくない方のために、現在のプロ野球のシステムについて少し説明を。「そんなのいらないよ」という方は、次の章まで読み飛ばしてほしい。そして「間違いを見つけて指摘してやる」という意地悪な性格の方も読み飛ばしてほしい。

現在の日本プロ野球のシステムとは?

細かいルールを書き出すときりがないので「ざっくり」になるが、現在の日本プロ野球は、以下の3部構成でおこなわれている。

(1)レギュラーシーズン

セ・リーグとパ・リーグ、それぞれ6チームずつ総当たりのリーグ戦を、約半年にわたっておこなう。途中、リーグをまたいだ「セパ交流戦」もあるが、交流戦での勝敗も、それぞれが属するリーグ戦の成績にそのまま反映される。

それぞれのリーグで最終的に1位となったチームが「リーグ優勝」という称号を手にする。

(2)クライマックスシリーズ(略して「CS」とも呼ばれる)

それぞれのリーグで、レギュラーシーズン1位~3位になったチームが試合をおこない、日本シリーズに進出するチームを決める。

ファーストステージは、2位と3位のチームが「2位チームの本拠地」にて戦い、先に2勝を挙げた方がファイナルステージへ進む。2位になって本拠地で試合ができれば大きな興行収入を得られるため、たとえ優勝を逃したとしても、2位になることには大変意味がある。

ファイナルステージは、優勝チームとファーストステージから勝ち上がってきたチームとで「優勝チームの本拠地」にておこなわれ、先に4勝した方が日本シリーズへ進む。ただし、優勝チームには1勝のアドバンテージがあり、3勝すれば日本シリーズへ進出できる。

(3)日本シリーズ

セパそれぞれのCSを勝ち上がってきたチームで戦い、先に4勝した方が日本一となる。

つまり、レギュラーシーズンで優勝を逃しても3位までに入ればCSに出場でき、勝ち進めば日本シリーズに出て日本一になれる可能性がある。

違う見方をすれば、リーグ優勝しても、CSを勝ち抜けなければ日本シリーズには出られない。

CSの是非については、いまだにファンの間でも議論が繰り広げられているが、それが今の(というかここ20年ぐらい?)プロ野球のシステムなのだ。

ちなみに「20年ぐらい?」と濁したのは、セ・リーグとパ・リーグでCS(導入当時は「プレーオフ」と呼ばれていた)の導入時期にズレがあるため。パ・リーグは2004年、セ・リーグは2007年からだ。

ここまで読んで「どこがざっくりやねん」と思った方、申し訳ない。これでも精一杯、あれもこれも端折って短くしたつもり。

逆に「ほんまざっくりやな」と思った方、来シーズンが始まるまで語り合えるかもしれないが、やめておこう。

谷保さんの声はマリンスタジアムの象徴だった

前置き(?)が大変長くなって恐縮だが、ロッテが2位になったことで、少なくともあと2試合は谷保さんの声が聞けることが確定した。

現在のプロ野球において、試合中のアナウンスは必ずしも女性ではない。選手紹介のときなどは、DJ調の男性ボイスでおこなう球場もある。

ただ、個人的にはオーソドックスな「ウグイス嬢」のアナウンスが好きだ

谷保さんのアナウンスには独特のイントネーションがあるため、ある意味、オーソドックスではないのかもしれない。

それでも、マリンスタジアムへ行き「ああ、マリンに来たな」といちばん感じるのは、練習中の打球音を聞いたときでも、選手たちの姿を目にしたときでもない。

谷保さんの伸びやかな声を聞いたときなのだ。

選手たちは、翌年も同じチームでプレーする保証はない。引退やトレードなどで、チームを去ってしまうことはままある。

しかし「マリンスタジアムへ行けば谷保さんの声が聞ける」、この揺らぐことのない状況は、もう何年も何十年も、ファンに安心感を与えてくれていた。

それが、もう来年からは聞けない。

プロ野球の球場の中で、私がいちばん多く足を運んでいるのは、おそらくマリンだ。

しかし出産後は観戦数が激減。子どもが変な魚(かつてマリンに出没していたキャラクター)を怖がって行きたがらず、必然的に私も足が遠のいてしまった。

来年は久しぶりに行けそうだったのに、来年、そこに谷保さんはもういない。

初めて味わうこの喪失感、来シーズンが始まれば、すんなり受け入れられるようになるのだろうか。

狭き門に自分から飛び込んでいったからこそ今がある

球場に響くアナウンスは試合になくてはならないもの

「野球場のウグイス嬢になる」、そんなあこがれを持ったことのある人は少なくないのではないか。しかし、それを実現するために実際に行動をおこした人はどれだけいるだろう。

谷保さんは地元北海道での短大時代、12球団すべてのチームに問い合わせていたそう。ウグイス嬢はそう頻繁に入れ替わるものではなく、球団職員の募集自体がなかなかない業界だ。それでもあきらめることはなく、3年ほどたったときに、ようやくロッテオリオンズの職員として採用されたのだという。

すぐにアナウンスの仕事に就けたわけではなかったが、先輩の術を学ぼうと、事務職員の仕事をしながら、球場へも足を運んでいた。その努力の甲斐あり、まずは2軍の球場に呼ばれ、やがて1軍のアナウンスを任されるようになった。

30年以上も続けてこられたのは「やはり野球が好きだったから」という谷保さん。もちろん、続けるためにおこなってきた努力は計り知れない。

美声を響かせる最後の日まで見届けたい

千葉ロッテマリーンズのレギュラーシーズン最終戦の舞台は仙台だった。

本拠地・千葉での最後の試合後、谷保さんはアナウンス室の荷物を片付けずにいたそうだ。

理由は「2位になれば、また本拠地でマイクの前に座ることになるから」

その思いは通じ、ロッテは見事に2位を勝ち取った。つまり、谷保さんのウグイス嬢としての仕事はまだ終わっていないのだ。


パ・リーグのCSファーストステージが、全国の地上波で放送される可能性は、残念ながら低いだろう。

しかし、BSが見られる環境にある方は、ぜひ見てほしい。いや、聞いてほしい、ファンを魅了し続けたウグイス界のレジェンド・谷保さんのアナウンスを。

私も自宅で、あの美声をじっくり堪能させていただきたいと思う。


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