オールセン八千代

こんにちは。デンマークと携わって早20年になり、学んできたこと、考えたことなど、そろそ…

オールセン八千代

こんにちは。デンマークと携わって早20年になり、学んできたこと、考えたことなど、そろそろ発信していきたいなと思いました。デンマーク現代史を主に勉強しましたが、好きなことを書きたいと思っています。その分、間違っていることがありましたら、どうぞご指摘よろしくお願い致します。

最近の記事

デンマークはフレデリック国王もビジネスパーソン?

1月14日の突然のマルグレーテ女王からの交代劇で、フレデリック(フレゼリク)10世王が誕生したが、早速、1月31日、王としてポーランドを訪問するという外交デビューが飾られた。通常は新国王の初の外国訪問は、王妃を伴っての近隣国への訪問とされているが、今回は2週間での高速の交代であったため、発表前に決まっていた王太子時代の予定をこなすということで、一単独でのポーランド訪問となった。 訪問の一つの大きな目的としてはポーランドとデンマークの軍事協力関係の強化であり、ラース・ルケ・ラス

    • 驚きばかり!デンマーク女王の退位とフレゼリク王の即位

      2023年の大晦日恒例のマルグレーテ2世女王のスピーチで、突然の退位が発表され、しかも唖然としている間に、たった2週間後の1月14日に本当に退位し、フレゼリク(フレデリック)新国王が即位となりました。このスピーチで女王はイスラエルの侵攻に明確に反対を示すなど政治的な発言がありましたが、退位の発表にせっかくの内容が一気に吹き飛んでしまいました。 報道によれば、フレゼリクすら3日前に女王の退位を聞いたとされています。また、英国のような戴冠式はなく、メテ・フレズレクセン首相立ち合い

      • 『結婚/毒 コペンハーゲン三部作』を読んで

        トーヴェ・ディトレウセン/枇谷玲子訳 みすず書房 2023年 始めの数ページはやや詩的な独特な文章にとまどったものの、慣れるとともに引き込まれ、一気に読んでしまった。この本はある「普通」の女性の半生を語った本である。時を超えて、語られる物語にはトーヴェの息づかいを隣に感じ、彼女と自分が同化していく。 実際、インタビュー映像の中のトーヴェは、ごくごく普通のデンマーク人女性に見える。晩年の彼女はどこにでもいるデンマーク人のおばあちゃんだ。 第二次世界大戦以前のデンマークでド

        • FLEE

          アフガニスタンから「逃げてきた」アミンを描いたデンマークの映画、『FLEE』を観ました。 アミンが実際に体験した、1990年代前半のアフガニスタンからモスクワを経て、コペンハーゲンに辿り付いたというストーリーを、インタビュー音声とアニメーションという形式で描いています。 アニメは苦手だなという私ですが、この映画に関しては、アニメだからこそリアルに描けたのであり、同時に、映画の言いたかったことを伝えきれたのではないかと思いました。淡々と描かれた人物がシンプルに動く手法と、鬼気迫

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          『パーフェクト・ノーマル・ファミリー A Perfect Normal Family』

          (監督・脚本:マルー・ライマン/ キャスト:カヤ・トフト・ローホルト、ミケル・ボー・フルスゴー、リーモア・ランテ、ニール・ランホルト、ジェシカ・ディネジ/原題:En Helt Almindelig Familie/2020年/デンマーク) 1990年代終わりのデンマーク。13歳と11歳の姉妹カロリーネとエマは、夕食の席で突然、親の離婚を告げられる。理由は、父親トマスが「女性」になるため、というものであった。サッカー好きの勝気な少女エマには、何のことやら、まさに晴天の霹靂。物

          『パーフェクト・ノーマル・ファミリー A Perfect Normal Family』

          『アナザーラウンド Another Round』

           なんといっても、マッツ・ミケルセン(デンマーク語の発音ではマス・ミケルセン)のダンスシーンがあるというので、待ちに待った日本公開だった。  スリリングなドラマに満ちた展開や予想もつかないようなどんでん返し、というタイプの映画ではない。しがない高校教師である4人のおじさん達の、普通の人生。先の見えた人生は、どこまでもくすんでいて、まさに中年のクライシス状態だ。体の不自由な犬と暮らす独り身の者、妻とすれ違っている者、小さな子供達の世話で精一杯の日常を過ごしている者、離婚した者、

          『アナザーラウンド Another Round』

          デンマーク・サッカー代表チームとミカエル・アンカーの絵を重ねて

          私はサッカーに詳しくはないが、6月12日のEURO2020のグループ予選での前半終了間際、クリスティアン・エリクセンChristian Eriksenを襲ったアクシデントには、大変ショックを受けた。翌日のデンマーク紙の見出しで、「彼は死んでいた」というチームドクターの直接的な言葉を読み(実際に10分ほど心停止していたとのこと)、ことの重大さにまたショックを受けた。 ピッチ上で倒れたエリクセンは、応急処置を受け、40分後の正式なドクターからの「意識を戻った」との発表の上でゲー

          デンマーク・サッカー代表チームとミカエル・アンカーの絵を重ねて

          ヒュゲ Hygge について

          「ヒュゲについて説明するのは、難しい」とデンマーク人は皆、口を揃えて言います。それでも説明してみてと頼むと「うーん、一言では言えない」、「外国人に説明するのは難しい」などと一拍置いてから、大抵の人は「親密な人達との楽しいお喋りの温かな時間、かな?」と言います。ちょうど日本語の「侘び・寂び」のようにいろいろな背景があっての言葉なのでしょう 7-8年前くらいから世界でブーム」になったこの「ヒュゲ」という言葉、確かに、デンマーク人は一日に何回も使います。ヒュゲリな時間だった、ヒュ

          ヒュゲ Hygge について

          『ある人質 生還までの398日』

          『ある人質 生還までの398日』 2013年から14年にかけて、ISの前身組織に誘拐されたデンマーク人カメラマン、ダニエル・リュー・オデセン。彼の13カ月にわたる拘束の日々を描いた映画で、昨年度のデンマークでの映画館動員数がナンバーワンでした。デンマーク映画界のアカデミー賞であるロバート賞やボディル賞をいくつもの分野で受賞しており、デンマーク人からもお勧めされたこの作品。観たいのはやまやまでしたが、残虐シーンや暴力シーンが怖いことと、まだ私自身もショックを受けた当時の記憶が生

          『ある人質 生還までの398日』

          『わたしの叔父さん (Onkel / Uncle)』

           2019年の東京国際映画祭でグランプリを受賞した、デンマークの映画『わたしの叔父さん』が今、恵比寿などで上映中で、観に行ってきました。昨年の映画祭で観て、かなりユニークな映画だと思ったのですが、1回目に観たのと、2回目に観たのとではちょっと見方が変わりました。ちょっと私なりの感想を書いてみたいと思います。 1. 1970年頃までのデンマークのライフスタイル  この映画の舞台は一貫して南ユトランドのトゥナー(Tønder)の酪農農家で、牛小屋と叔父さんと姪のクリスの住む家の

          『わたしの叔父さん (Onkel / Uncle)』

          デンマークの現女性首相、メテ・フレデリクセンのこと

           世界で女性の首相はそろそろ珍しくなくなってきていますが、現在のデンマークの首相もデンマーク史上2人目の女性首相になります。昨年2019年6月に総選挙があり、メテ・フレゼリクセンは41歳で首相の座に就き、首相として1年余りが経過しました。彼女はデンマーク国の首相であり、二人のティーンエイジャーの子どもの母親であり、一度離婚した後は6年間シングルマザーの経験もし、1年以上にわたって3回も延期の末、今年の夏にやっと2度目の結婚式ができた新婚の妻でもあります。  フレゼリクセンは

          デンマークの現女性首相、メテ・フレデリクセンのこと

          デンマークの1968年 続き

           前回はデンマークの1968年の若者を中心とする変革のうち、学生の動きを見てみました。今回は、ヒッピーの若者達の動きを追いたいと思います。 ・ ヒッピー文化の若者達  1960年代前半の世界では、社会実験や蜂起はまだ普通の若者のものではなく、理性主義的でエリート意識のある一部の作家や知識人のものであり、挑発的言動は文化的急進主義左派の特権でした。彼らは多くの経済的支援を得ていたエリート芸術家であり、そうした者達への反発と共に、1960年代後半になると、それまでに既にあった既

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          デンマークの1968年-『ザ・コミューン』の背景

           前の投稿で映画『ザ・コミューン』をご紹介しましたが、この映画の背景となる1968年から1970年代のデンマーク社会は、世界的な若者の蜂起、学生運動の波に影響され、1968年はデンマークでもターニングポイントになる年でした。それまでのデンマークは家父長的、権威主義的社会であり、異なる古い価値観が続いていて、現在、彼らが誇りにしているような平等な社会ではありませんでした。  デンマークは他のヨーロッパ諸国からの影響と共に、国内の経済的な理由もあって、この1968年がターニングポ

          デンマークの1968年-『ザ・コミューン』の背景

          デンマーク映画 『Kollektivet ザ・コミューン』

          今年の「トーキョー ノーザン ライツ フェスティバル 2020」にて、デンマーク映画を3本観たのですが、3本とも全く違うタイプながら、非常に面白いものばかりでした。1本ずつご紹介しますね。まずは『Kollektivet ザ・コミューン』から。  舞台は1970年代のヘレロプ(コペンハーゲンから20分ほどの、大きなヴィラの多い高級住宅地)。倦怠期を迎えていたカップル、アンナとエリックは「きっと面白くなるはず」というアンナの発案で、エリックが相続した大きな屋敷で見知らぬ人達

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          デンマークのリカレント教育 続き

          デンマークの具体的なリカレント教育を前回はご紹介しました。続いて、今回はその背景についての分析とまとめを掲載します。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 3. デンマークのリカレント教育の背景  ここまで具体的な施設や機関について見てきたが、こうしたデンマークのリカレント教育が成立する背景として、大きく4つの要因があると筆者は考えている。 ① 就業における資格の必要性 デンマークでは未経験の職に就く場合、また、新たな業務に転職する場合

          デンマークのリカレント教育 続き

          デンマークのリカレント教育

          機会があって、デンマークのリカレント教育についてまとめてみましたので、ご紹介したいと思います。文章がちょっと硬いのですが、デンマークならではのユニークな教育の機関についてなども書いていますので、ご興味がありましたら読んで下さったら嬉しいです。 文章が長いので、2回に分けてアップします。 ------------------------------------------------------------------------------------- 1.はじめに:

          デンマークのリカレント教育