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いつまで使わずにいられるのか現代に問う【オッペンハイマー】#107

オッペンハイマー   2024年/アメリカ



【ストーリー】

赤狩り、オッペンハイマー事件を軸にして、彼が原爆の開発に至り手にした栄光と国家安全保障上の危険人物とされ没落していく様子を描く伝記映画。 



【解説というか、レヴューというか】

世界で最初に原爆を造った、J・ロバート・オッペンハイマーの半生。彼にしか見えない世界を私たちに想像させる映画です。

プライベートをまる裸にされてしまう




事件を解明しながら映し出さるのは、オッペンハイマーという人物。若い頃の精神不安定な状態や、詩や文学に触れカリスマ性を持った人間が徐々に描かれます。ロバートは愛国心、左翼的な関わりなど矛盾を抱えながら「マンハッタン計画」を指揮していく。
映画は人物像の他にも、難しい局面にあった時代も描いている。ナチスドイツが先に原爆を手にするかもしれない危機であった。こうゆう状況が、学者として成果を上げ国家に利益を与えたい愛国心と繋がる。


その原爆開発を進めていく様子は衝撃的だ。
町が一から作られ、そこに研究者ら2000人が住む。
現代人が見ると、これほど恐ろしい光景はない。

実験が成功する場面は圧倒される。このシーンばかりは苦しく、身が焼け焦げそうだ。自分が日本人である事を強く実感させられる。

天才の人生は過酷



原爆の父を描きながら映画は、戦勝国アメリカも映し出す。公職から追放されていた彼の名誉が回復するシーンは事件同様、ご都合主義な国家を露骨に感じさせる。その民衆は自滅させる破壊力を知らないまま、戦争を終結させたとしてロバートを盛大に讃えていた。責任も取らせてもらえない原爆の父は無力さににひれ伏してしまう。激しく動揺する後悔の念は、至極痛ましい。


「なぜ戦わない?」何度も問う妻のキティ
原爆投下国アメリカとは、、考えさせられる



この一貫性がないような複雑な主人公をはじめ、その他の科学者や軍人、政治家も完成された人なんていなかった。そういう不完全さを見せて、未熟な人類が世界を破壊できる危険性をさしている。

それはいつまで使わないでいられるのか?
抑止力とはいつまでもつのか?
アインシュタインとオッペンハイマーは必然で起きる未来が見えている。この映画は現代にそこを問いているのだと思う。それが例え核保有国でなくても。

既に分かっていた二人



監督のクリストファー・ノーランは、映画という方法で世界を変えられるか挑戦したのだ。そしてこの難しい内容をオッペンハイマー事件を軸に、エンタメとして成立させている。それはとても凄いこと。たいへん大人の学びになる作品で、邦画やアニメじゃ作り得ない映画なので見逃してはいけない。

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