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カリスマに潜む狂気【TAR/ター】♯092



TAR/ター  2023年/アメリカ



【ストーリー】

リディア・ターは世界最高峰のオーケストラ、
ベルリンフィルで主席指揮者になった初めての女性。
天才的な能力と自分をブランド化した
プロデュース能力で地位を確立。努力も惜しまなかった。
そんなある日、秘書のフランチェスカから、
かつて指導していた教え子の思わぬ知らせが入る。



【解説というか、レビューというか】

芸術、文化界の現場にはパワハラとかセクハラが多いらしい。
まさに今、あの芸能事務所がそう。
時勢が合ってるのは偶然だろうけど、
『TAR』はクラシック界という高尚な場で起こる
パワセクハラを描いた映画です。

ケイト・ブランシェットが演じているセクハラオヤジのリディア・ターは、ひどく上品。

文学、音楽、美術、演劇、舞踊、映画は
現状を越えようとする精神の冒険。
それが芸術なんだってどこかで聞いた事がある。


まるで神のように



リディアはクラシック音楽という世界で栄華を極めています。

自分を消して、自分自身が譜面になる芸術性は
とても高く評価されています。

表現者の人格が色濃く出るこの芸術界。
日常生活でも自己を高めていく作業をしているのだが、
その世界に酔いしれ過ぎると、
道徳性を失う可能性がある。
リディアがそうです。
そういう強い才能がある人に大きな権力を持たせると、
自分は尊敬される人間なんだっていう感覚が、
音楽家としての能力と、個人的な感情に区別を付け難くさせる。


自分の才能に自惚れたリディア・ターは、
利己的な行動を次々と取っていきます。
嫌な人は排除し、有能なはずの部下を正当に評価しません。
重要な助言を周りの人から貰っているのに、
自分の意思決定だと思い込む。
その振る舞いは横暴です。


上品に横暴する権力



才能を置いたカリスマは、権力だけが走り出します。
次第にリディアは孤独に陥いる。

人が奏でる音を完璧にコントロールするけど、
暴走してしまった権力は止められない。
そうなったらもう壊れるか、
壊すしかないのです。

地に堕ちたリディアのたたずまいに見える結末は、
女性が上り詰めるには、
男性的に振舞わなくてはいけなかったり、
権力者に媚びて才能を目立たせていたり、
一度でも失敗すると戻れない世の中も過去になりつつある。
今はそういう過渡期であると、それとなく教えている。

SNSという武器で市民権を得た弱い立場の者が、
権力者というモンスターをハントし、引きずり下ろして喜ぶ。
次に世を支配するのは、SNSで共感を多く勝ち取った者。


正しさより、『人気』、でジャッジされいる
なんて問われている気がする。



【シネマメモ】

権力を持った人の判断には、その人の性質がかなり出る。
ひとりの人に権力を持たせると絶対に腐敗するから、
パワーを分散させて交代もさせて、
役割をはっきりさせるのだ。



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