全世界全部恐怖

健康な人の何倍のエネルギーを使って生きてるんだろう
障害者になってから
近所のスーパーですら果てしなく遠く感じる
息が切れる
他人に怯えながら
必死で涙をこらえて買い物を遂行する
電車に乗るなんてもってのほかだ
あんな密室に他人と閉じ込められたら
パニックになる
だからどこにも行けない
だからどこへも行けない
スーパーとの往復ですら耐え切れずに
道端にしゃがみ込んで泣いてしまう有り様
親切な人が大丈夫ですかと声をかけてくれるけど
私にはそれすら怖い
お礼も言えないまま逃げるように走り去る
また息を切らしながら
世界が恐ろしいのだ
世界中全てが恐ろしくてたまらないのだ
産まれてこのかたトラウマだらけの半生を送ってきた
記憶の扉を固く固く閉めても
漏れ出してくる悪夢たち
頭では分かってる
この世は私を虐げたような人間ばかりではないと
でも病気になってしまったよ
有り余る傷のせいでおかしくなってしまったよ
もう手遅れなんだ
三日月がきれい
月が好きだ
優しいから
悲しいから
寂しいから
壊れた人間も許してくれるから
カーテンを閉め切って
昼間は乱暴者の太陽からどうにか逃れようと足掻いてる
夕暮れになってくると少し気持ちが落ち着く
今日も生き延びた
いつまでかはわからないけど
いつ崩壊してしまうかはわからないけど
その時まで月を待つ
強い酒をあおりながら
吸殻で一杯になった灰皿にまた捻じ込んで
でも今夜は月が見えない
ぶ厚い雲の向こうにいるはずの
恋人を必死で呼んでいる
あなたくらいそばにいて
お願いだから姿を見せて
好きだから
優しいから
悲しいから
寂しいから
私を許しに来てよ
雨が降り始めた
今夜は会えないのね
ひとりぼっちなのね
涙がぽろぽろこぼれて
煙草の火を手のひらで消した

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