寄せ鍋

鍋を囲んでいた
それが最後の記憶だ
肉も魚もどっさり入った豪華な寄せ鍋
几帳面な彼が鍋奉行をしてくれるので
私はただ食べて飲んで笑っていた
彼も笑っていたはずだ
あの楽しかった思い出は
彼をこの世に留めるのに
少しも足りなかったのだろうか
葬儀には出席しなかった
白くなった彼の顔なんて見たくなかった
あの日ほかほかの鍋の湯気で
赤く染まった彼の笑顔を
最後の記憶にして取っておきたかった
重篤なうつ病の彼の部屋を訪ねると
まずは私も裸になって彼を風呂に入れ
ゴシゴシと溜まった垢を洗い流す
もう欲情し始めてる彼をなだめて
布団まで連れて行きセックスをする
彼は何度も私を求めた
性欲だけがそうさせているのではないと理解してた
天涯孤独の施設育ち
どうして私なんかに彼の穴を埋められただろう
戦友だと思ってたのは私だけだったのかな
私は彼の心に少しも入り込めてなかったのかな
彼の衝動が落ち着くと裸のまま二人で煙草を吸った
私たちはヘビースモーカーで
同じ煙草を吸っているのがちょっと嬉しかった
鍋の〆にあらゆる具材から旨みが出たおじやを作る彼に
少しだけ違和感を感じてた
何故だろうこんなに贅沢をして
まるで最後の晩餐みたいに
気のせいだろうと首を振った
おじやはとてつもなく美味しかった
これすごいね
これすげえな
冗談で奪い合うようにして笑いながら食べた
ねえ笑ってたじゃない
あの時もう決めていたの
もう私はあなたの体を洗ってあげられないの
これからは誰の胸で泣けばいいの
煙草に涙がこぼれて火が消えた
あなたの匂いがした
荒々しいキスで交換し合った
私たちの匂いがした

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