逃避行

一番大きなカバンに詰められるだけ着替えを詰めたら
さあ逃避行へ
僕たちを誰も知らない街まで
一缶の紅茶を分け合いながら
追っ手など居やしない
誰からも逃げる必要などないのに
僕らはここにいては駄目だった
うらぶれた観光地
かつての賑わいが死に絶えた街
あてもなく彷徨った挙句
古びたホテルにチェックインした
君の服を荒々しく剥ぎ取り
僕らは何度も交わった
こうする為だけに生きていられたらいいのに
僕の上で激しく動きながら
君は熱い吐息と共に漏らした
何日間そうして過ごしただろう
着替えが尽きる頃
僕らはもう元の生活に戻るという選択肢を捨てていた
枯れた観光地に仕事などない
八方ふさがりだった
逃避行の最後はどうなるの
僕の胸に頭を乗せて君が問う
何もかも終わるんだよ
きつく抱き締めながらきっぱりと答えた
断崖に激しい水しぶきが上がっていた
凍るような海がどこまでも広がっていた
君は幸福そうに微笑んでいた
空に向かって僕は笑った
ピクニックにでも来たかのような気持ちだった
黒い雲が二人を見ていた
きつく手を握りながら崖の淵へと近づいて行った
幸せだね
声が重なった瞬間
ほんの少し体がよろけた

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?