干支捨て山のぬいぐるみ


干支の世界では、各動物の特徴で生まれながらに仕事が決まっています。
例えば、子(ねずみ)は、すばやい動きが特徴。
そのためチューチュー便という宅配員が生まれながらの仕事です。

また学習能力が高い特徴を持つ申(さる)は、学校の先生、正義感が強い戌(いぬ)は、警察官といったように各干支ごとに18才になるとつく職業が決まっています。

しかし、その特徴から外れてしまう落ちこぼれ干支が、いることはあまり知られていません。
今回は、そんな落ちこぼれ干支のお話です。

干支は、18才になると各職場に新人として配置されます。
そして、3か月間新人研修を受けるのです。
この研修で落ちこぼれの烙印を押された干支は、新人研修終了後にクビに。
そして、その干支達が行くのが山の奥深くにある通称「干支捨て山」。

そこには、小さな小屋がありクビになった干支達が送り込まれ何をするでもなく、一日をぼーっと過ごしていました。

そして今年も、クビになった干支12匹がその小屋にやってきました。
動きが丑(うし)なみに遅い子(ねずみ)。
勉強嫌いの申(さる)。
正義感は強いけど優しすぎる戌(いぬ)など職場の適性に合わなかったためクビになった12支は、連れだって干支捨て山の奥にある小さな小屋に向かいました。

到着するとそこには先輩達がぽけーっと、ただ時間が過ぎるのを待っていました。
今年の干支12匹も、しばらくは先輩干支と同じように怠惰なときを過ごしていましたが、ある日
戌(いぬ)が

「俺たちも何かできないかな。」
と言うと、
「何か仕事がないかなあ?」「すぐに出来ることがいいよね!」
口々に発言し始めました。

それを聞いていた辰(たつ)が
「人間界の友達に流行りを聞いてみましょうか。干支界だけでなく人間界でも売れるものが作れれば、お給料を自分達で生み出せますよね!」
そんな冷静な辰(たつ)の発言に残りの干支は
「その考えはいいかも!」「人間界に聞いて来てもらってもいい?」
と辰(たつ)にお願いをしました。

すると辰(たつ)は、大きく頷き人間界に大きな身体をうねらせながら出発していきました。

そして2日後
辰(たつ)は、大きなリュックサックを背負いもどって来ました。

大きなリュックサックからはキレイな布やボタン、リボン、レース、そして12セットの裁縫道具が出てきました。

「これは?」
丑(うし)さんが尋ねると、

「人間界では、ぬいぐるみというものが長きに渡り老若男女に好かれているらしいんです。そこで、私達干支のぬいぐるみを作って試しに人間界で販売をしてみませんか?上手く販売できれば、外貨が手に入りますよ!」と辰(たつ)は、丁寧に説明しました。
しかし、干支11匹の顔は不安の色を隠せませんでした。

その「ぬいぐるみ」というものがどんなものなのか想像すら出来なかったからです。
辰(たつ)は、そうなるのが分かっていたようで
「作り方は、人間界の友達に動画を撮ってもらってきたよ。それに、ぬいぐるみを作るのに必要な材料や道具も12セット借りてきたからとりあえず作ってみませんか?」
その辰(たつ)の問いかけに、1匹、2匹・・、3匹と頷きました。

そして辰(たつ)のスマホで、ぬいぐるみの作り方を必死な形相で観ながらのぬいぐるみ作りがスタートしました。
マンガを描くのが趣味の上手い寅(とら)が12支の絵を書いてくれたので、それを台紙に写した後に縫って目や鼻にボタンを付けたり、可愛いリボンを耳に巻いたりすることで個性をつけることに。

しかし、そこは完全に初心者が作るぬいぐるみ。
1週間かけて出来上がったのは、可愛いさからはほど遠いものでした。
出来上がったものをみて誰もが不安を倍増させていました。
しかし、辰(たつ)だけは、違いました。
「せっかく作ったのだから、とりあえず人間界の友達に持っていくよ!」
そして、辰(たつ)は、11支の不安そうな瞳を背に人間界に再度旅立ちました。

残った11支は、初めての細かな作業に疲れ果ていつの間にかゴンゴン、ゴンゴンと眠り込んでしまいました。

すると

「おおおおおおおおーーーーーーーいいいいいいいいい!!!」
まるで地割れがするような辰(たつ)の声で、びっくりして目覚めた11支。
声の方をみると髭を大きくうねらせ満面の笑顔の辰(たつ)が佇んでいました。

そして、11支が皆目覚めたのを確認すると、背中のリュックサックをひっくり返すと
人間界の1万円がたくさんハラハラと落ちてきました。
ビックリ仰天する11支に辰(たつ)は、言いました。
「人間界の雑貨屋さんにぬいぐるみを置いてもらったら、即完売したよ!1つ1万円で売れたから1万円ずつ取ってね。銀行に行ったら干支札と両替ができると干支銀行でも確認してきた!あと、追加注文が入ったけど、どうする?」
と矢継ぎ早に嬉しいニュースを11支に話すのでした。

まさかそんなことになろうとは、思っていなかった11支は、びっくりして目を剥いたまま暫く微動だにしませんでした。
どのくらい時間が経ったのでしょうか。

巳(ヘビ)が、
「やりたい・・・。」
と呟きました。とぐろを巻いた身体には、さっき辰(たつ)がリュックサックから11支に配った1万円札がしっかりと握られていました。

その姿を見た他の干支達も、次々巳(へび)と同じことを呟くと、辰(たつ)のもとに駆け寄ったのでした。

そして、辰(たつ)が新たに持ってかえってきた布やボタンなどを使ってぬいぐるみ制作に昼夜を問わず取り組み続けました。
そうして1週間後、新たに出来たぬいぐるみを携えて再び辰(たつ)は、人間界に。

すると以前よりも早く辰(たつ)が帰ってきました。
そして前回と同じように、リュックサックから1万円をひっくり返すと
「バカ売れでした!友達がこれからも作って欲しいと言うけどどうする?」
と聞くと皆、笑顔で頷き辰(たつ)が持ってかえってきた布を各々選び、もくもくとぬいぐるみ作りに邁進するのでした。

そんなふうに、新しくやって来た干支が楽しそうに何かを作っている姿を見て小屋でのんべんだらりんとした生活を送っていた先輩干支達が次第に参加をするようになりました。

そして、とうとう小屋の中を干支のぬいぐるみ工場に改装するまでに。
すると今まで死んだ魚のような目だった先輩干支もランランとした目になりさらにぬいぐるみの生産力がアップし人間界では、干支のぬいぐるみは、流行りを越えて子供が産まれたらプレゼントする定番商品に。

しかし、干支捨て山がそんなことになっているとは知らず、今でも干支の世界では今でも毎年各干支から1匹ずつ干支捨て山に送られています。
そして干支捨て山の中で起こっていることを知らない干支界の人達は、「干支捨て山に行くらしいよ(笑)。」と今でも嘲笑っているのでした。

終わり


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