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『コンフィデンスマンJP〜プリンセス編〜』を観た帰りに嗚咽した話。

土曜日、訃報を聞いて衝撃を受けた。
頭の先から爪先まで、血の気が引いていく感覚がした。
「嘘やろ?なんで?」
それしか言葉が出なかった。
すごく好きで追っかけをしていたわけでもないし、出演してる作品全て観ているわけでもなかった。
訃報を聞く2、3日前に『コンフィデンスマンJP〜ロマンス編〜』を観終えたばかりで、すごく面白くて、ドラマを観ようと夫と話していたばかりの訃報だった。

「好きな俳優はこの人!」というのが全くないのでファンというわけではなかったが、顔は好みだったし、何より演技はとても上手い俳優だと思っていた。
キンキーブーツの曲をFNS歌謡祭で歌っているのを見た時も、とてもすごいと思った。
なのに。

ただただ「もったいない」と「どうして」しか浮かばず、でもファンというほどでもなかったので泣くに泣けず、落ち込んだ気分のまま数日を過ごした。
その間、心無い報道に胸を痛め憤り、仲間の追悼の言葉を聞いては悲しみに暮れていた。
堪えきれず少し涙を零すものの、私なんかが泣いてはいけないような気がして、泣くのを我慢していた。

公開初日、たまたま時間が出来たので夫に「つらくなるかもしれないけど『コンフィデンスマンJP〜プリンセス編〜』を観たい」とお願いした。
久しぶりに夫婦2人で映画館を訪れた。
人はまばらで、1席分空けての鑑賞なので独りで観に来ているような気持ちになった。

映画はとても面白くて素晴らしかった。
スクリーンの中のジェシーはとてもキラキラしていて、誰もが恋に落ちてしまう恋愛詐欺師のジェシーが、そこにはいた。

それと同時に「もうこのジェシーには2度と会えない」と思ってしまい、絶望した。
「もったいない…こんなにも素敵なジェシーを演れる人なのに…」
と、涙が溢れてきたが映画館ということもあり、ちょっと涙が流れた程度しか泣けなかった。

見終わった後、帰りの車で夫が『Pretender』をかけた。映画の感想を話しながら、やっぱり私の感想は、こんなにも素敵な役を演じれる俳優さんが、独りで苦しみ抜いて悲しい最期を迎えてしまったことが残念でならなかった。
この気持ちを夫に話した途端、猛烈に悲しくて悔しくて私は車内なのをいいことに慟哭した。
泣きじゃくる私を見て夫は「めっちゃ泣いてるやん。でもそうやな、悲しいしもったいないよなぁ…またジェシーが活躍するの観たかったなぁ…」と言ってくれた。
そのせいで私は余計に泣いた。
いい歳の3児の母が嗚咽を漏らすのを聞きながら、夫は黙って運転してくれていた。

彼は私の存在すら知らないし、私も彼の本当の姿は知らない。
けれども、彼を知る人達が語る彼の姿は、本当に優しくて儚くて、そしてとても、愛されていたことが伝わってくるのに。彼にだけ、届かなかった。

もう彼の新しい姿を見ることは出来ない。
天使のような彼は、本当に天使になってしまった。

私は車の中で気が済むまで泣いた。
そして、泣くだけ泣いたら、もう泣くのはやめようと思った。
たくさんの人が悲しんで泣いている姿を見るのは、気遣い屋だったという彼が心を痛めるかもしれない。
たくさん泣いたおかげで、そう思えた。

悲しくてつらいことが起きた時、我慢しないでたくさん泣いてしまったほうが、気持ちは前向きになれるのかもしれない。
だから我慢はしてはいけないんだよ、と彼が教えてくれたのかもしれない。
そんな都合のいいことを思いながら、これからも彼が魂を込めて作った作品を観て、泣いたり笑ったりしようと思う。

どうか、安らかに。
素晴らしい俳優への感謝と追悼の意を込めて。









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