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大地の歌のサル

 サル痘がいつのまにかエヌボックス、いやいやエムポックスに改称されていますが、ウィーンやベルリンで猿といえば誰が何と言おうとマーラー「大地の歌」ですね。ショスタコーヴィチやベンジャミン・ブリテンも大好きだったと伝えられる曲ですが、その第1楽章で猿の姿、叫びを描写する部が終結前のクライマックスを形成します。オーケストレーション上は、慎重にトゥッティを避けてはいるんでしょうが(ティンパニがいなかったり)大オーケストラの音量でどう頑張ってもテノール独唱はかき消されがちになっちまう。マーラーご自身で一回も実演してないのは大きい筈す。この楽章は交響曲「第八番」同様に冒頭からハイテンションでズバッと始まるしテノール泣かせなのでは。
 私実演聴いたのは一回だけ、ローレンス・フォスター指揮バルセロナ交響楽団で、独唱は誰だったか失念しましたが、オーケストラの音量のコントロールに腐心していた印象が強かったです(いちばん記憶に残ってるのは「告別」で入りを間違ったアルトをすぐさま左手で静止したとこなんですがね)。だからこそ室内楽や室内オーケストラバージョンも録音されたりするのかも。ルーツである新ウィーン楽派には金銭的事情が大きかったんでしょうが。
 もしかして実演にいちばん近いバランスで録音されてるのはインバル指揮フランクフルト放送交響楽団の録音なのではと勝手に思ってます。デンオン録音のコンセプトがワンポイントマイクでの録音が基本てことになってたんで(ただ本録音は一気に進められた全集よりかなり遅れてされたものでも録音方式については明記してないですが)。オーケストラが強奏すると完全に聞こえなくなることはないものの、だいぶ押される。シュライアーさんの声質がかなり独特なのでそのおかげでやっと聞こえてくるような気もする。

 余談ですがヤノフスキ指揮ドレスデン・シュターツカペレのラインの黄金でローゲを歌って以降、性格的テノールのイメージが強くなった彼が起用されたことに違和感が強かった。ハインツ・ツェドニックやグラハム・クラーク、ゲルハルト・シュトルツェが大地の歌を唄うか?という話ですが、もし唄ってるなら是非聴いてみたい、サル感が増しそう。冗談ですって、彼らは何を唄ってもそうなる訳でなく、器用だからこそクセ強く唄う事ができるって事(ウェーベルン若書きのリートを初めて聴いたのはFMでツェドニック、とても上手かった)ぐらい分かってます。でも想像するといいですね、シュトルツェ流の大地の歌、絶対面白い。
 今後、これまで聴いた事がないような見事なバランスコントロールで目の醒めるような演奏を聞かせてくれるのではと期待するのが「第三番」と「第五番」の驚異的な(しかもライブ!)録音をリリースしたフランソワ・グザヴィエ=ロト指揮ケルンギュルツニッヒ管弦楽団のコンビです。この曲に関してはレ・シエクルではない方がいいと思うのですが。ただもしかするとピリオド楽器だとテノールの負担が減るような結果になったりして。それ本気で言ってる? 誰がモンキーやねん。

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