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丸山ゴンザレス『世界の混沌を歩く ダークツーリスト』感想

※2022年10月執筆。

メキシコの麻薬戦争に潜入取材したら麻薬カルテルからめちゃくちゃ怖い脅しをされた話は、『人怖』で読んだのだったか。そこに至るまでの流れが、写真も交えて詳らかに記されているので、既知の話だが初見のように慄然とした。生きて帰って本当に来られてよかったね……。
警察が麻薬カルテルを放置している為、地元住民が武装して自警団を結成するも、カルテルのメンバー(現役含む)が加入しており、結局麻薬カルテル化してしまっているという、まさにミイラ取りがミイラになる話は非常に衝撃的かつ絶望的だ。自警団側の言い分としては、「それでも自分たちが居るお陰で地元は守られている。一部のメンバーがドラッグビジネスに手を染めているのは、必要悪だ」ということらしいが、一般市民からしたら堪ったものじゃないだろう。地獄が終わったと思ったらまた次の地獄が待っているなんて。

アメリカに於ける大麻合法化の流れがカルテルに与える影響も、一長一短のようで複雑な気持ちになった。現実は「やらないよりはやるほうがマシ」程度のようだ。メキシコという一つの国家を事実上牛耳っているくらいの巨大かつ強大な組織なのだから、そう簡単に解決出来る問題では無いのだろう。
メキシコのドラッグビジネスに関わる人々が言う「アメリカ人の大学生がハイになるために俺たちは作っているんだ」という言葉は、以前にも別の本で読んだが、色んな感情が噴出して追いつかない。換言すれば、「アメリカ人の大学生がハイになるために」、大量のメキシコ人が殺されているということだからだ。
これまで目にして来た様々な映像がフラッシュバックする。どんなに私たちの住む日本から遠い国の、知らない場所で起こっている出来事であるとはいえ、そこは断じて異世界では無い。「世界の裏側」という言葉が指す“世界”とは、間違い無く自分たちが生きるまさにこの世界を指している。

数日前、日本国内の大麻合法化に関するニュースを動画にしてくれていた。動画を見れば分かるように、医療用大麻解禁が決定したわけでは無く、そういう方針で進めていくことになったという段階であり、また、飽くまでもCBDやTHCの成分を含んだ医薬品の解禁に限定されている。しかし、日本人として日本という国の“性格”に鑑みると、医療用ですら解禁の動きが起こるのは10年、20年先のことだろうと思っていたので驚いた。
私は、嗜好品としての合法化はどちらでも良いが(まあ、酒より健康的なのは実感として明らかだが)、医療用としての大麻解禁は速やかに実現するべきだと考えている。てんかんを患っている知り合いが何人か居るので、一日でも早く治療の選択肢が増えて欲しい。

薬物に対するタブー視が強い我が邦にあっても、大麻合法化の流れは無視出来ないレベルになっているのを肌で感じる。動画内でも言及されていたが、アメリカからの外圧で、嗜好品としても認可される可能性があるというのは同感だ。悲観的な考え方だが、保守的で時代遅れな日本という国が変わるとしたら、そういった外的な要因によるものしか思い浮かばない。

クレイジージャーニーや、以前読んだ『GONZALES IN NEW YORK』でも登場したアメリカ国内の地下住人について。好きなテーマなので、こちらも詳しい内容が読めて良かった。
地下住人たちが「まともな神経では地上では暮らせない」という意見を述べたのを受け、丸山ゴンザレス氏は「ドラッグの流行が関係するのではないか」と予想する。先述の通り、アメリカ国内で流通している薬物の多くがメキシコ産である。アメリカの若者がハイになる為に、と嗤う麻薬カルテルの者たち。麻薬戦争に巻き込まれ殺されるメキシコ国民。そして、クソみたいな現実から逃れるべくハイになり続けた末、家や仕事を失いホームレスになるニューヨークの若者。世界中どこにも明るい未来が見えない。“そこ”を目指そうという努力も、誰からも感じられない。一切を見限るか、自己を抑圧するか。
確かに著者が言うところの「うねり」「混沌(カオス)」は感じるのだが、どちらも悪い意味で、である。今後どうなるのか期待を持てる国を挙げるとすれば、グリーンラッシュ真っ只中のタイくらいだろうか。

最後の佐藤究氏との対談。佐藤究の本、読みたいと思って読んでいないな。いつになったら私は小説を読めるようになるのだろう。氏が「丸山ゴンザレスの文章にはポエジーがある。それを読者は無意識に感じ取るからジャーナリストなのにこんなにファンが居る」と分析しており、その通りだと思った。
今まで読んだ丸山ゴンザレス氏の著作の中で一番面白く、読み応えがあった。

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