水川純

サイケデリック愛猫家 ✟ 詳細はプロフィール参照

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散文詩 / Guanfacine

ジェニファー、2人のホセ、ステファン、ソフィア、ユルゲン、ミーチャ、キム、そしてほかのすべての人々が成し遂げる仕事に敬意を表する。 [系統図1.意識] ・あなたがたとその仕事は、私に「いま(という点)」と「ここ(という点)」を与えた。 ・あなたがたとその行為は、私のはかなく所在ない人生に的確なプンクトを与え、それは文節という形をとって意味という線を創造した。 ・私はその線を辿ることで他者の存在に思いを寄せる。 ・同時にほかの者に於いても、自身に備えられた線を辿り私の存在に思

    • パナシェ/男と女/内田百閒

      シネマヴェーラで若尾文子の出ている『涙』いう映画がかかっているというので渋谷へ繰り出した。上映時間まで1時間程あり、空腹だったため食事するべくドゥ・マゴに入った。喫煙はテラス席のみ可能とのことで、少し肌寒かったが仕方無く屋根の下、柱の近くにある席に座った。テラス席にはわたし以外誰もおらず、中庭に植えられた植物に雨の当たる音と、どこか遠くで女の人の歌う声が微かに聞こえた。カミングスの詩の「雨よりも優しく触れるその手よ(nobody, not even the rain, has

      • ねこぢるうどん/街の光/ボルヘス

        自宅の近くにあるT公園に行く。理由は無い。転がっていた石で花びらや蟻を磨り潰して遊んでいたところ、クラスメートのWくんがわたしに気付き話しかけて来た。泥のついたサッカーのユニフォームを着ており、練習帰りなのだなと思った。「面白いジジイが居るから来て」とWくんに言われついて行った。 T公園は小さな林のような一角があり、そこには何十人ものホームレスがテントを張って生活をしていた。冬場に凍死体を見たことも何度かあった。Wくんが紹介してくれたジジイも勿論ホームレスだった。肌も服も黒ず

        • 田植え/夢/親切心

          大学卒業後、農業を始めた友人が居り、田植えを手伝って欲しいと言われたので快諾し、埼玉県北部へ行った。快特だか準急だかよく分からないがそういった電車に乗ったが、二時間近く掛かった。よくこんな距離を八年も通ったものだと思う。通えなかったから卒業まで八年要したのだろうが。 梅雨入りしたというのに陽の光が燦々と降り注ぐ絶好の田植え日和だった。てっきりズボンを膝まで捲り水田に足を浸して田植えするのだとばかりと思っていたが、水は張らないと説明された。近隣の農家にやり方を訊いてみたが、誰も

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        散文詩 / Guanfacine

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          散文詩 / suvorexant

          遅れてやって来た言葉は波となり渦を産み出す。鼓膜と聖歌のセックス。30年前のイメージ、40年前のイメージ、連なる列車、誰も微笑んでいない乗客たち。複数の暗闇が光の糸を手繰り寄せ、中央に鎮座する髭面の男がそのすべてを操作する。 撮影しろ、記録しろ。複製不可能な現在など存在しない。すべての過去が現在へと目掛けて投射し、すべての未来が現在へと遡及する。 神の思し召し──触れたい方はご自由に。 音の中に於いて、時間は古代から地球の終わりまで自在に行き来する。永遠にこだましない響き

          散文詩 / suvorexant

          國友公司『ルポ歌舞伎町』感想

          これまで『ルポ西成』『ルポ路上生活』を著してきた國友氏の新刊。氏のルポの特徴は、その場に足繫く通うとか、数日間潜入するとかでは無く、実際その土地に居を移して住民として生活を送るというものだ。本作も歌舞伎町のヤクザタワーに転居し、取材対象として歌舞伎町の人々と出会うというよりは、同じコミュニティで生活する者どうしの出会い、さながらご近所付き合いのような形で人との繋がりが生まれていく。 ホス狂風俗嬢の話は、かつて風俗で働いていた経験があるので懐かしかった。といっても、私が主に働

          國友公司『ルポ歌舞伎町』感想

          散文詩 / methylphenidate

          私は記憶/記録よりも産出/生成を重視している。だから一瞬前の出来事ですら取り出すことは出来ない。しかし無意識のうちに堆積してゆく。夜が否定した光を太陽が肯定すること。昼間に「夜に見る夢」を見るausscheidenこと。 私たちの知るというはたらきは、血液となって地球を循環する。生体反応は火山の噴火としてあらわれる。対象は非対象性そのものであり、そこで現在は揺らぐことも奪い去られることも無い。思考は最も硬い鉄をいとも容易く切り裂く。噴出する体液にはそれぞれ番号が割り振られる。

          散文詩 / methylphenidate

          雷/酩酊/デヴィッド・リンチ

          小学生の頃、今以上に雷が怖かった。母親がヒステリーを起こすくらいの雷嫌いで、更にいえば母の母(つまり祖母)が本当にヒステリーを通り越しきちがいとしかいいようが無いくらい雷が鳴ると大騒ぎするので、我が家の女たちに脈々と受け継がれている性質なのだろう。テレビ番組の「奇跡体験アンビリーバボー」で飛行機事故と同じくらいの頻度で落雷事故の再現ドラマを見させられていたせいで、恐ろしさはより根深いところまで刷り込まれていたが、一方で「雷は高くて尖っているところに落ちる」「雷が鳴っている時に

          雷/酩酊/デヴィッド・リンチ

          ジョン・カサヴェテス『ラヴ・ストリームス』感想

          『ラヴ・ストリームス』("LOVE STREAMS")は1984年にジョン・カサヴェテス(John Cassavetes, 1929-1989)により生み出された作品である。本作は、監督であるカサヴェテス本人が演じるロバート・ハーモンと、カサヴェテスの妻であるジーナ・ローランズ(Gena Rowlands, 1930-)演じるサラ・ローソンという姉弟を中心に展開される。 流行作家であるロバートは、ビヴァリー・ヒルズにある自宅に複数の若い女を雇い、まるでフェリーニの『8 1/2

          ジョン・カサヴェテス『ラヴ・ストリームス』感想

          太宰治『皮膚と心』感想

          太宰治は、とにかく短編が良い。とりわけ女性の告白体小説の手法で書かれた短編は秀逸な作品が多く、その手法で書かれた作品のみを集めた『女生徒』という短編集が刊行されているほどである。 主人公である女性たちは、女性としての共通点を持ちながらも、それぞれがまったくの別人だ。男性作家が作り上げる女性は、飽くまでも“母として”“恋人として”など、ある特定の役割や年齢に縛られたテンプレート通りのキャラクターがほとんどである。勿論、女性作家が書いた男性もまたテンプレート通りであろうこと、その

          太宰治『皮膚と心』感想

          e.e.カミングス アメリカン・ブリティッシュ・アート・センターで開かれた個展カタログより

          e.e.カミングス アメリカン・ブリティッシュ・アート・センターで開かれた個展カタログより

          Annabel Lee

          Edger Allan Poe “Annabel Lee” It was many and many a year ago, In a kingdom by the sea, That a maiden there lived whom you may know By the name of Annabel Lee; And this maiden she lived with no other thought Than to love and be loved by me

          Annabel Lee

          ボリス・ヴィアン『心臓抜き』──心臓は停止し、天国は閉ざされる

          『心臓抜き』(L'Arrache-cœur:1953)は、改題される前の草稿では『女王と小娘たち』というタイトルであった。またこの段階では、著者ボリス・ヴィアン(Boris Vian, 1920-1959)自身の自伝的要素が強い作品だったという。クレマンチーヌは彼の母親であるイヴォンヌの面影が色濃く投影されており、クレマンチーヌ=イヴォンヌはまさに「女王」として三人の子供たちに権力を振りかざすエゴイスティックな悪の存在として描かれていたのである。 しかし、完成した『心臓抜き』

          ボリス・ヴィアン『心臓抜き』──心臓は停止し、天国は閉ざされる