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自分の小説世界を広げるために 南アジア 西アジア篇

日本に暮らして日本の小説を読んでいると どうしても日本の小説世界が枠として意識されがちになると思います。
日本では 「この小説変わってるー」と思われても、
世界中の読み手は「どこかで読んだ技法や表現だな」と思っているかもしれません。
日本生まれの日本育ちで日本にしかルーツがない作家だから狭いということにならないように 海外に旅行や移住などをできればいいのですが、諸事情でできない人もいますよね。上村もそうですが、海外の小説を読むことでなんとか埋めようと思っています。
今日は南アジア(インド スリランカ パキスタン バングラデシュなど)や西アジア(アフガニスタン イラン イラク トルコなど)にルーツのある小説や詩で面白い、変わってるという作品を書きますね。フランスやアメリカに住んでいる作家でもルーツやアジア オセアニアの文化圏の影響が色濃い作家の小説や詩ということです。

南インドと言えば、インドのタゴールさんですね。1941年にアジア人として初のノーベル文学賞を受賞しました。上村は「裁き」「帰っておいで」「最後のやくそく」などの詩を読みました。詩のリズムを小説にも生かしたいと常々思っています。 

サルマン ラシュディさんの「真夜中の子供たち」ブッカー賞。世界に向けてのデヴュー作品だそうで、インド独立の瞬間の真夜中の一時間に生まれた子どもたちは特異な能力を持っていたという設定のマジックリアリズムの歴史小説です。インドの歴史と共に、彼らも成長します。パキスタンやバングラデシュが離反し、戦争に巻き込まれていきます。とにかくパワーを感じる小説で、奔流に飲まれるという感覚があります。
イベリア半島の最後のイスラーム王国であるグラナダ王国の系統の人が語り手の「ムーア人の最期のため息」も面白いと思いました。作者はインド出身で、パキスタンへ、英国へ、今はアメリカ在住だそうです。命を狙われているので、外国を移動しながら暮らしています。

ジュンパ ラヒリさんの「停電の夜に」(新潮文庫.短編集)日本でもベストセラーになったので読んだことのある人も多いと思います。表題作は、停電の夜に夫婦が隠していたことを話すという内容で、「真実か挑戦か」の真実だけのような感じですね。夫婦とは言え知らないことはたくさんあるでしょうから、気持ちのすれ違い、価値観の違いなんかも露わになってしまいます。著者はインド系のアメリカ人で英国生まれです。最近イタリアに移住したような。

ショイヨド ワリウッラーさんの「赤いシャールー」バングラデシュの話で、あまりに貧困なので故郷を捨てて放浪した末に、ある村にたどり着いた男性が、イスラームの知識と聖廟の守り人としての立場で、村に確かな権威を築いていくんです。村の人は昔からの風習も守っているし、そうそういうことを訊いて従順なムスリムの生活をするわけでもないんですけど、事あるごとに相談をしたりはするんです。適切なこともあれば、間違ってしまうこともある助言や指示の中で、自分の俗っぽさを強く意識しながらも、指導者として村で生きていく話です。けど、けど、ああ 後は書きません。

マーシャ・メヘラーンさんの「柘榴のスープ」(白水社)イランから三人で英国に移住した姉妹が、故郷の味のスープを住人に飲ませることで、幸福が広がっていくという話です。親切な人もいるし、よそ者に冷たい人もいるという村ですが、少しずつ優しい心が広がっていくんです。魔法を使っているわけでもないのに、魔法のような効果があるのが引っかかるんですけどね。ジュリエット ビノシュ、ジョニー デップの「ショコラ」という映画を思い出しました。
イラン出身。アメリカ在住。

アティーク・ラヒーミーさんの「悲しみを聴く石」(白水社)ゴンクール賞.戦場から戻った夫が寝たきりで、ほとんど意思もないような感じになっています。その夫に向かって、妻は献身的な看病を続けるんですけど、だんだんと生きている人にはしないはずの告白をしていくんです。緊張感がずっと続く演劇的な話です。著者はアフガニスタン出身で、フランスに亡命しています。

ザカリーヤー ターミルさんの「酸っぱいブドウ」。短編集で、架空の街区を共通の舞台にしたショートショートのゆるやかな連作です。時折、キャラが他のショートショートにも顔を出します。何とも奇妙で奇怪な話が多くて、遺体の引き取り手を見つけられない運転手を気の毒に思って、遺体が自ら車を出ていく話や、精力絶倫の野獣のような夫を持つ友人の愚痴を聞いて、ひそかに野獣を誘ってみなくっちゃと考えている女性の話、国で一番の歌手になってくれとカリフに頼まれたところで、警官がやって来て、人が殴られている時の叫び声が聞こえたと通報がありましたという話などが印象に残っています。シリアの作家です。政情不安な国なので、政治批判は勇気がいるのでしょう。外国で書いたりすることもありますが、故国に戻って書いたり、出版したりもしているそうです。

アモス オズさんの「スムヒの大冒険」(未知谷.1997年.122頁)
イェルサレムの11歳の少年が叔父さんから自転車をもらったことで、空想の大冒険に旅立つという物語です。郷愁を誘われるような感じですね。イスラエルの作家で、ノーベル賞の有力な候補と言われています。

オルハン パムクさんの「雪」(藤原書店、またはハヤカワ文庫)12年ぶりにドイツから故郷トルコの辺境都市に戻った主人公が、政教分離やイスラームとの関わり、男女の価値観の違いなどを意識しながら観察する風の小説です。ノーベル賞を受賞した作家です。

これから読んでみたいのは
アルンダティ ロイさんの「小さきものたちの神」(1998年)ブッカー賞 女性の作家です。インドのケーララ州を舞台に描かれる家族の栄華と没落、カースト制に抗って成長していく双子の兄妹の話だそうです。 
ウィクラマシンハさんの「時の終焉」。三部作の最後です。第一部が「変わりゆく村」で、第二部が「変革の時代」ですが、読んでいません。スリランカの作家です。
ショウカット スィッディッキーさんの「神の街」(2006年.p571) パキスタンの汚職を扱った小説のようです。   
イランのゾヤ ピールザードさんの「復活祭前日」もタイトルが気になるので読んでみたいと思っています。  
サアダーウィーさんの「バグダッドのフランケンシュタイン」。イラク2006-2007内戦を扱った小説だそうです。                         


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