短編「四階」

ホラーです。



昔からよく見る夢がある。
エレベーターに乗っていると、四階の扉を開いてはいけないと感じる。
夢なので、ゾンビのようなものがいることに気付いている。
ビルは十七階建てだったり、七階建てだったりとその都度違う。
けれど、エレベーターは同じだ。
大きさも匂いも壁の色味も同じ。
そして、決まって下りのエレベーターだ。
エレベーターに乗る前に四階は危険だと気付くことがある。
そういう時には、一階までノンストップのエレベーターに乗る。
エレベーターに乗ってから危険だと気付くこともある。
そういう時はたいてい満員で、四階が押してある。仕方なく後ろの方から手を伸ばして、なんとか五階や六階のボタンを押して、降りる。そして、四階を通過するエレベーターに乗り換える。
一度だけ、四階で扉が開いて、前の方にいた人たちが、叫び声をあげて襲いかかってくるゾンビのような異形のものたちに引きずり出されたことがある。その時には何とか扉を閉めることができた。あんな思いは、もうしたくない。
時々、非常階段を使ったらどうなるのだろうと思うことがある。ゾンビは四階から上には上がってこないし、下にも下がってこない。階段もいけるんじゃないかと思う。けど、怖くて試したことはない。

新橋にある取引先での商談が終わった。
「いやあ 古いビルですからなあ 耐震工事ができて安心ですわ」
「はい。来週の同じ曜日、3/18から始めるので、またその時にお伺いします。それでは失礼致します。」
「送っていきましょう」
「いえ、ここで結構です。トイレに寄りますので」
「ああ そうですか。それは却って失礼しました。」
「いえ、それでは失礼致します。」
深くお辞儀をする。
トイレを済ませてエレベーターの前に立つ。
なにか嫌な感じがする。
夢で見たエレベーターが上がってくる気がする。
ここまで来るときには、気づかなかった。エレベーターがすり替わるなんていうことはあるんだろうか。チンという古い到着音がして、扉がすーっと開く。誰も乗っていない。エレベーターに乗って一階を押そうとすると、既に四階が押されていた。
ぞぞ 右頬を寒い虫が這いあがって行った。
慌てて開を押すが扉は閉まっていく。閉まりそうになる扉にものすごい勢いで腕を入れて 無理矢理に外に出る。
ふう どういうことだ 誰もいないのに
エレベータは、大きさも匂いも色味も夢の中と同じだった。
そう言えば、一階の案内板には四階の情報も記されていたはずだが思い出せない どうする
このエレベーターは四階をもう一回押すと 停止を解除できるタイプか?
わからない。
エレベーターは二台あるが、四階を通らないエレベーターは設置されていないようだ。
五階で降りるか それでどうする 非常階段か
四階から乗るボタンを奴らが押すことはないはずだ 
だから、一階を押せば、大丈夫なはずだ はずだ
他の人が来るのを待つか?その人が四階を押したらどうする?
そうこうしているうちに取引先の担当者がやってきてしまった。
「あ どうも」
「ああ どうもどうも。これから昼なんですわ。」
「あ じゃあ外に?」
「実はこの上に食堂がありましてね。いつもそこでとることにしとるんです。」
「そうなんですか」
「あ 下来ましたよ」
下行きのエレベーターの扉がすーっと開いた。
「どうしたんですか。乗らないんですか?」
「いや じゃあこれで」
「はい。」
エレベーターには誰も乗っていない。一階を押そうとすると、既に四階が押されていた。
ぞぞぞぞ 背中の上の方を寒い虫が這いあがって行った。
扉が閉まるとすぐに四階を押した。四階のボタンが暗くなった。解除できたようだ。ふうう 大きく息を吐いて階数表示を見つめる。
十六階 十五階
もうすぐ四階 というところで揺れた
「うわ」 
エレベーターが大きく横に揺れる ロープがこすれる音もするし 箱自体がきしむ音もする。ロープが切れて地下に急降下 叩きつけられるんじゃないかという恐怖に襲われた。
そして 暗くなった。くそ
スマホの灯で操縦板を照らすと、非常ボタンを押した。
「はい ガガー はい」
「エレベーターが止まったんですが。あと停電で」
「はい ガガー 近くの階に非常停止しているはずです。保守点検の会社が向かいますが、いま何階ですか?ガガー」
「たぶん、四階 だと思います」
「四階 ですね」
微かに笑いが混じっていたように聞こえたが気のせいだろうか
「あの 五階か三階で開けていただくことはできませんかね」
「いえ ガガー それはできません ガガー 四階でお待ちしています ガガー」
ブツッ
それきり応答はなかった。
二十分もすると、外から何か異音がしはじめた。
なにかを叫んでいるように聞こえるが、とても人間の出す声ではない。
扉から目を離せないでいると、ガンッと音がして、扉に隙間が開いた。ガンッ 隙間はどんどん広がってくる。そして、

                   <おしまい>



ホラーを書くのは初めてです。
書いていて、怖いです。

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