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とあるブースターの視点からの横浜ビー・コルセアーズ航海記:Bリーグ2年目(2017-18)

*2023.05.17、関連するトピックのビーコルマガジン記事へのリンクを追加。

前回↓はBリーグ初年度のビーコルを語ってみました。今回はBリーグ2年目(2017-18)です。

2年目の船出

前シーズンは全体ビリ2の成績で降格の瀬戸際まで追い込まれたビーコルは大きな賭けに出ます。まずはロスターから見てみましょう。

旅立っていった海賊

  • 岩田涼太 → 三遠ネオフェニックス

  • 堀川竜一 → 香川ファイブアローズ

  • ファイ パプ 月瑠 → ライジングゼファー福岡

  • 喜久山貴一 → バンビシャス奈良

継続海賊

  • 細谷将司(マーシー)

  • 川村卓也(タク)*先日のCS QF 横浜 vs 川崎をバスケットLIVEで解説されていた方がタクです。

  • 高島一貴(キング)

  • 蒲谷正之(カバさん)

  • ジェフリー・パーマー(JP)

  • 湊谷安玲久司朱(アレク)*キャプテン

  • 満田丈太郎(ジョー)

  • 山田謙治(ケンジ)

  • 竹田謙(タケさん)

  • ジェイソン・ウォッシュバーン(Jウォッシュ)

やってきた海賊

  • 佐藤託矢:通称"サトタク"。背番号15。京都ハンナリーズより加入。京都ではキャプテンも務める。かつてのJBL新人王。2009年に負った足の大怪我により数年プレイできない状態に。ビーコル加入後も足をかばいながら貴重なビッグマンとして奮闘。2021年信州ブレイブウォリアーズで引退。

  • 田渡凌:通称"リョウ"。背番号21。NCAA ディビジョン2のドミニカン大学から入団。U24日本代表。兄は2022-23はサンロッカーズ渋谷に所属した田渡修人。父は長きに渡って東京の強豪校の京北高校を率いた田渡優というサラブレッド。2022-23は熊本ヴォルターズ所属。

  • ハシーム・サビート・マンカ:背番号34。後述。

新たなHC(ヘッドコーチ)に指名されたのは前シーズンにアソシエイトコーチを務めた古田悟。アソシエイトコーチに前シーズンはアシスタントコーチを務めた尺野将太。契約選手発表会見の模様はこちら。

この会見から遅れたシーズン開幕直前、リーグを震撼させるニュースが飛び込んできます。かつてのNBAドラフト2位のハシーム・サビート・マンカ、通称"サビちゃん"がビーコルに加入します。

契約選手発表+サビちゃん初登場の記事。

タンザニアの巨人

Bリーグでは"マンカ"の名称で選手登録していたサビちゃんは221cm、123kgでタンザニアのダルエスサラーム出身。高校からUSAに渡り、NCAAトーナメントで2度の優勝(当時)を誇る強豪コネチカット大学に2006年に入学します。同期で入学したのが、2022-23は千葉ジェッツの帰化選手としてプレイしたギャビン・エドワーズです。1年生の時から平均3.8ブロックという強烈なスタッツを残したサビちゃんは、3年次には平均4.2ブロック、10.8リバウンド、13.6点と攻守で大活躍しチームをNCAAトーナメントのFinal4へと導きます。ちなみにこの年に同大に入学してきたのが、後にNBAのオールスター・プレイヤーとなるケンバ・ウォーカーです。

2008-09シーズンのビッグ・イースト・カンファレンスのPlayer of the yearとDefensive Player of the Year、全米バスケットボールコーチ協会が選ぶDefensive Player of the Year、オールアメリカンの2ndチームに選出されたサビちゃんはNBAドラフトに臨みます。
2009年のドラフト1位は後のオールスター・プレイヤーでスラムダンク王のブレイク・グリフィン、2位でメンフィス・グリズリーズが指名したのがサビちゃん!
ちなみに3位で後のMVPのジェームズ・ハーデン、4位にこの年の新人王のタイリーク・エヴァンズ、5位にスペインの神童、2019年FIBAワールドカップMVPのリッキー・ルビオ、7位に"あの"ステフィン・カリーが指名される中、NBAであまり活躍できなかったサビちゃんはドラフトの歴代ワースト2位指名となじられたりすることもありました。。
NBAで数チームを渡り歩いた後、Dリーグ(現在のGリーグの前身)のグランド・ラピッズを最後にコートから離れていたサビちゃんが選んだのが海賊ビーコル!
Dリーグ時代のサビちゃんのハイライト。こんな選手がビーコルに来るのか。。とワクワクしました。

ビーコルマガジンのサビちゃん紹介記事。

嵐の中の航海

強烈なブロック力を誇るサビちゃん、オフェンス・マシーンのタク、ゴール下を攻守で支える大黒柱のJウォッシュ、昨シーズンのチーム得点王JP、この4人を中心に、ケミストリーの高い残留した10人と、実力のある新加入の3人で構成されるロスター。私的にはかなりの躍進を期待して開幕を迎えました。が、港を出るや天候が怪しくなります。。

VS滋賀との開幕節2戦目@横浜文体の勝利に沸くブースターから心酔される大海賊タク
写真提供 by 妻

キャプテン・アレク負傷

このシーズン、キャプテンを務めたのが湊谷安玲久司朱、通称"アレク"です。名門洛南高校ではウインターカップの決勝で歴代最多タイ記録となる40得点を叩き出してチームを優勝に導いたレジェンドです。
前シーズンのアレクはオフェンスでは柔らかなシュートフォームでチームの武器の一つとなっていましたが、ディフェンスでは横に俊敏な動きができず問題を抱えていました。
しかしキャプテンとなったこのシーズン、開幕戦で見たアレクは前シーズンとはまるで違う動きと熱さを見せます。苦手なディフェンスでも一生懸命脚を動かし、チームを鼓舞する声掛けを飛ばします。元々もの静かな性格のように見受けられたアレクがここまで変わるのか。。と開幕戦の雄姿を感激をもって眺めていたことを覚えています。
しかし喜びもつかの間、2017.10.09、シーズン4戦目のアウェイ北海道戦で右足アキレス腱断裂、全治6カ月程度の大怪我を負います。
そして嵐はなおも続きます。。

大黒柱Jウォッシュ負傷

当時と現在とでは、外国籍選手の登録数、オンザコート数が異なっていて、外国籍選手(帰化選手含む)の登録数および試合エントリーは3名まで。B1では1~4Qに出場できる外国籍選手の総数が6枠で、同時に2名まで起用できるルールでした。例えば1-2-1-2といった具合に。
ゴール下で強さを出しつつもミドルショットを決める力もあるJウォッシュは、インサイドで強烈な存在感を放つサビちゃんとは最高のコンビになると思っていました。特に外国籍選手2名をクロージングで起用する際は、他チームの外国籍をタレントで上回る力を持つと。
しかし、アレクが負傷したシーズン4戦目を終えた練習中に、Jウォッシュが左アキレス腱を負傷してしまいます。
そして2017.11.07、怪我の治療のため双方合意での契約解除が発表されました。。

ベテランビッグマン参上

Jウォッシュの契約解除と時を同じくして、ウィリアム・マクドナルドの契約合意が発表されます。通称"ウィル"。背番号45。USA出身。アルゼンチンのボカ・ジュニアーズより加入。206cm、120kgの巨体を活かしたポストプレイが持ち味です。加入時の年齢は38歳で、ベテランらしい巧妙な技はありつつも、トランジションやディフェンス面では後手に回る場面もありました。

嵐はやまず

さらに負傷は続きます。11.11の富山戦でJPが右膝内側側副靭帯を損傷し、一ヶ月ほど離脱。翌11.12の富山戦後、タケさんが左橈骨遠位端骨折と診断され、一ヶ月半ほど離脱。。

再びHC交代

選手の負傷が続く11.28、前シーズンに栃木ブレックスを優勝に導いたトーマス・ウィスマンをアドバイザーとして招聘します。

それでも勝ち星は増えずに12.22、古田HCの契約解除と昨シーズンに続き尺野将太のHC就任が発表されました。
2017年は8勝20敗。前シーズンよりも勝率を下げて年を越し、10連敗も経験して、最終戦績は18勝42敗。去年より2つ勝ち星を増やしましたが、全体ビリ3で残留プレイオフ(残プレ)に突入します。

嵐の中の光明

うまくいかないことだらけでしたが、幾筋か希望の光もありました。
今シーズンから本契約選手となった満田丈太郎(ジョー)が42試合でスターターを務め、身体能力とディフェンスの鋭さを武器に台頭してきました。
そしてサビちゃん。大学時代から得意にしてきたブロックは平均2.3でリーグのブロック王に。琉球戦の1試合8ブロックは今でもリーグの歴代最多記録(タイ)です。

ブロックをきめた後の「ボールどこまで飛んでったかな~」ポーズが出ると、会場は大盛り上がりでした。

残プレ1回戦 vs 西宮

このシーズンは最下位とビリ2がB2からの昇格チームである島根と西宮、次がビーコルでビリ4が再び富山でした。
2018.05.11、ビーコルは横浜文体(現在建設中の横浜BUNTAIの前身)で西宮を迎え撃ちます。
一ヶ月ほど前、ビーコルは平塚で西宮に2連勝していました。細谷将司(マーシー)、竹田謙(タケさん)、田渡凌(リョウ)の3人をインフルエンザで欠く中、一戦目は35点差、二戦目は蒲谷正之(カバさん)がシーズンハイの15点の大活躍で9点差で勝利しました。
それもあって、正直なところ西宮には負けないだろうと大半のブースターが高をくくっていたところに、あの男が立ちはだかります。

ビーコルキラー、岡田優再び

前シーズンの残プレでビーコルを難破させた張本人の岡田優は、このシーズンも富山でプレイしていましたが、ミオドラグ・ライコビッチ新HC(2022-23はB2山形のHC)との折り合いがうまくいかなかったか年末から年明けにかけてDNP(不出場)が続きます。
01.26、電撃的に西宮への期限付き移籍が発表されました。背番号は30。

B1の洗礼を受け、降格の足音が聞こえてきた西宮にとって岡田優の獲得は頼みの綱でした。しかし彼をもってしても残プレ回避はならず、挽回のチャンスを狙っていたはず。

Game1、その岡田優が爆発します。必殺仕事人のタケさんを向こうにまわして21点8アシスト。さらに元海賊戦士のドゥレイロン・バーンズも21点を叩き出します。ビーコルはタクが29点8アシスト、サビちゃんが14リバウンド6ブロックと攻守のエースが活躍しても追いつけず、3点差で敗北します。
ちなみに西宮の背番号47は後に海賊戦士となる土屋アリスター時生。

まさかの展開に言葉を失う選手たちとブースター。次、負けたらB2降格です。

Game2、 背水の陣で臨むビーコルですが、またも岡田優のオフェンスが炸裂。2Q途中までのチーム39点のうち岡田優で16点、3は4/6。ビーコルが誇るディフェンスの名手タケさんとジョーが必死にマークしますが、彼のショットが放たれるたびにビーコルブースターの悲鳴がこだます中、次々とボールはゴールに吸い込まれていきます。
しかし、前半終了間際に大きな事件が。タクのショットを防ごうとした岡田優が負傷。後半は、試合の流れもあってかほぼ出場せずでした。
西宮はバーンズが29点、かつて能代工業の大エースだった梁川が14点と気を吐きますが、ビーコルはタクが15点11アシスト、サビちゃん18点、JPが17点、マーシー17点とバランスのよいオフェンスで21点差をつけて勝利します。脚を引きずりながらも奮闘するサトタクの攻守の貢献も光りました。

ついに決着は、前/後半5分ずつのGame3へ。Game2の後半を回復にあてた岡田優が再びビーコルを苦しめ、前半はビーコル8−西宮11と西宮がリードして後半へ。
後半はビーコルが反撃し、サビちゃんが自らが外したFT(フリースロー)を押し込み、残り02:37でついに逆転。タクのフローターで点差を離すものの、残り34秒で西宮の道原が3をきめ1点差に。残り4.4秒、2点差でタクが2本目のFTを外すとサビちゃんが弾いたボールはビーコル陣内にいた道原の元へ。
ビーコルブースターの悲鳴と西宮ブースターの歓声がこだます中、道原が放った高く弧を描くロング3は。。。リングに弾かれ、ビーコルが劇的勝利!!

応援しているビーコルブースターすべての身が縮むような薄氷の勝利でした。
負傷のため、このシーズン満足にプレイできなかったキャプテン・アレクの目からとどめることのできない涙が流れていました。

そして舞台は片柳へ。

片柳

片柳とは何か。蒲田にある日本工学院専門学校の地下4階にあるアリーナのことです。ひたすら地下へ地下へと降りて行った人々が目にするのは。。天井の青い空。荘厳な空気が漂う神秘の場所。

片柳アリーナ

画像は日本工学院専門学校の下記サイトより。
https://www.neec.ac.jp/kamata/facility/2ndbuilding/katayanagi_arena/

残留プレイオフ2回戦、前シーズンは中立地として代々木第二が選ばれましたが、このシーズンはここ片柳で一発勝負の幕が上がります。

その相手は。。運命のいたずらか2年連続で富山グラウジーズ。
このシーズン、ビーコルを含むビリ3圏内チームは早々に残プレ行きが決まりましたが、残り1チームは最終節まで北海道、三遠、大阪、滋賀、富山のどこになるかわからない状態でした。
レギュラーシーズン最終戦の直接対決で滋賀に敗れた富山が残プレ行きとなり、リーグ最下位の島根と残プレ1回戦で対戦します。
このシーズンわずか11勝に終わった島根に対し、ビーコルブースターが戦前に西宮に抱いていたような、負けるわけがないという驕りが富山になかったかどうか。。
Game1、富山はホームで20点差をつけられ惨敗します。試合終了後、エース宇都直輝(2022-23はB2バンビシャス奈良)は怒気を抑えられず、誰も近寄らせない形相で去っていきました。
Game2でやり返し、ビーコル同様Game3までもつれたものの、なんとか島根を下した富山が片柳にやってきます。

2018.05.19、負けられない戦いにビーコルと富山のブースターが片柳に押し寄せ、さらに当時の大河チェアマンを始めとするリーグ関係者も大一番を見届けようと駆け付けます。
前年とは違い、今回はビーコルと富山のブースターの数も熱量もきっちり互角。ティップオフ前から両チームのコールリーダーが指揮する激しい応援合戦が繰り広げられました。B-ROSEも緊張の面持ちでその時を迎えます。

Tip off。まず走ったのが横浜。1Q残り01:40までに19-5と先手を取り、タクは9点を奪取。2Q残り05:22では32-16のダブルスコアまで行きますが、ここから富山が反撃に出て、前半終了時はビーコル41-富山34。2Qの後半からは流れを持ってこようとする富山と渡すまいとするビーコルの綱引きの連続。宇都が速攻から高速ドリブルでレイアップを放てば、ジョーが追いつき強烈なブロックをお見舞い。悲鳴と歓声が一瞬で切り替わって感情が増幅され、ブースターたちも息ができない程の興奮状態に。
前半終了後、これは誇張や幻覚ではなく、「は~~~~」と両ブースターが深く息を継ぐ音が片柳に響きわたりました。。

後半、エース宇都が牙をむきます。速攻で走り始めたら誰も止められず、ボールラインはどんどん下がり、たまらずヘルプに出るやフィニッシャーのサム・ウィラードへさばかれます。
3Q残り07:07、ウィラードのジャンパーでついに同点に。そこからは一進一退の攻防が続き3Qの終わり、エース宇都と対峙するはエースキラーのキング高島一貴。1on1の攻防で宇都はキング高島にアンクルブレイクをかまし、ウィラードにこの日22点目をダンクできめられ、富山が2点リードで勝負の4Qへ。
4Qは富山がリードを続け、なかなか追いつけないビーコルでしたが、ジョーのアシストからマーシーのレイアップ、速攻からサビちゃんのダンクで点差を詰め、ついに残り01:10、タクのドライブにディフェンスが収縮したところをJPにパス、美しい放物線を描くJPの3がきまり逆転!気魄がこもったJPとタクのハイファイブたるや!!
残り15.2秒、タクのFTで3点差をつけたところで富山がタイムアウト。同点狙いの3をシューターの大塚裕土(2022-23はB3アルティーリ千葉)に託します。が、キング高島の絶妙なディフェンスできめきれず、ジョーが3の苦手な宇都にうまくタフショットを打たせて、再びキング高島が相手にボールをぶつけマイボールに!
ついに、大激戦をビーコルが制します!!!!

勝利の瞬間、タクが両拳を突き上げて倒れこみながら天井の青空を仰いで咆哮し、そこにキャプテン・アレクが駆けつけ抱きしめます。
ビーコルブースター界隈ではこの勝利をこう呼びます、"片柳の歓喜"と。

個人的には、現地観戦した中でベストゲームを上げよと言われたらこの試合を迷わず選びます。とにかくものすごいテンションとシーソーゲームとライバルとのストーリーが詰まった最高の試合でした。

敗れた富山は、前年のビーコル同様、B2プレイオフ3位と横浜アリーナで対戦することになります。相手は熊本ヴォルターズ。これもものすごい試合でした。。

前シーズンから一つステップアップして残プレでB1に残ったビーコル。Bリーグ3年目、同じ轍は踏むまいとチームは改革に挑みますが。。それは次回にて。

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