見出し画像

書物の帝国(購書日記2020.10.28)

職場で購入した本

フレドリック・ブラウン『シカゴ・ブルース』(創元推理文庫)
ジョージ・タケイ『<敵>と呼ばれても』(作品社)
・ヴィクトル・バタジオン編『「悪」が変えた世界史』(原書房・
丸山俊一・NHK「欲望の資本主義」制作班『欲望の資本主義4 不確実性への挑戦』(東洋経済新報社)
日下三蔵編<SFショートストーリー傑作セレクション(全4巻)(汐文社)
平林純『なんでもPYTHONプログラム』(技術評論社)

書店にて購入した本

鈴木宏昭『認知バイアス』(講談社ブルーバックス)
デイヴィッド・ランシマン『民主主義の壊れ方』(白水社)

読了本

ジョージ・タケイ『<敵>と呼ばれても』(作品社)

人種と国家

スタートレックのミスター・カトー役で知られる日系俳優のジョージ・タケイさんが、第二次世界大戦の最中、ルーズベルト大統領の命令により、敵性日系人というレッテル張りをされて、強制収容された体験談を綴ったグラフィックノベル。戦争を体験した人たちが亡くなっていく中で、アメリカの負の遺産を体験した日系人の生の声を知ることができるのは大変貴重である。

5人家族のタケイ家はLAでクリーニング店を営んでいた。ところが日本との戦争により、ある日突然財産を凍結され、強制収容所に送られる。そこでの生活は決して楽ではなく、創意工夫によって生活を営んでいく。幽閉生活の中で、アメリカ国民としての日系人たちは、自分たちのルーツによって苦しめられる。どんなにアメリカに帰化しても、日系人は周囲より、敵性外国人として見做されていた。合法化された人種差別と自由を制限される不当な状況に耐え忍ぶ人々。

タケイさんは子供視点で強制収容所の生活を振り返りながら、家族を守るために父親と母親が苦闘し、自分たちのアイデンティティに対して葛藤する姿を描く。一方で子供たちは、強制収容所の中で適応する(この姿は、戦後満州から命からがら引き上げてきたちばあきおさんの姿とも重なる。ちばあきおさんの場合は、かくまってもらった中国人の家の中で弟たちのために絵を描いていた)。一方で、アメリカ国民なのに、アメリカから追放されそうになる母親の話など、トランプ政権下で行われているアラビア系の人々の入国拒否などの問題にもつながっている。

民主主義の偉大さと国家の暴力の恐ろしさ

理不尽な状況に置かれても、民主主義の偉大さを信じ、家族のために生きてきた父親の姿に感動してしまった。過ちはあったが、ルーズベルトは良いことをしたと肯定する父親。その後、日本人の強制収用は過ちであったと、大統領がきちんと謝罪し、補償できる国であるアメリカの素晴らしさにも触れられる。一方で日本はどうか、戦後の中国・韓国への対応を見ていると悲しくなってくる。どの国でもある。自分たちと属性が違うからといって、差別することがいかに愚かで、分断を引き起こすのかを考えさせられる。仲良い隣人が急に敵対的になる、その恐怖など。国家による誤った権力行使の事例として、心にとどめておきたい一冊である。

岩村充『ポストコロナの資本主義』(日本経済新聞社)

ポストコロナの経済政策、国家の在り方を考える

FTPLやブロックチェーン、暗号通貨の本質についてこれまで一般向けに様々な書籍を出版し、啓蒙してきた著者の本。COVID-19後の経済について、財政出動、移動制限、PCR検査、プライバシー監視、付加価値税の提言など、多岐にわたった議論がなされている。

まずCOVID-19に関する現状を取りまとめており、ダイヤモンドクルーズ号の事例が人々に行動変容を促したことで、感染拡大がひどくならなかったという僥倖に恵まれたこと。その一方で感染拡大を防ぐために、スマートフォンによる追跡調査システムは、個人情報の観点から政府によるプライバシー侵害の懸念があることを指摘。ただし世界の方向性はパノプティコン的な監視社会の方向性にむかっているとする。

著者の専門でもある財政・金融については、今後の財政規律の観点から日銀保有国債の変動金利付き国債への転換を促し、将来の財政に備えておくことや、税制を改革して付加価値税(金融取引にも適応)を創設し、その分所得税を縮小することなどが提言されている。その際には控除等で、二重課税を防ぐことを提言している。またZOOM等のオンラインコミュニケーションツールは、大きく企業や国家、それを取り巻く世界を一変させる可能性があることを示唆している。

興味深い提言が多く書かれていて、ポストコロナ後に国家が何をなすべきか、グローバリズムとの兼ね合いから考えることのできる一冊。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?