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Google Bardに法律相談してみた。

 こんにちは。

 東京で弁護士をやっています。取扱案件のほとんどが、企業法務案件でして、海外のクライアントや弁護士から相談を受けることも多くあります。

 以前、ChatGPTが話題になった際に、法律相談をしてみたのですが、個人的はとてもワクワクしました。
 この数日は、いろいろなAIが爆速で展開されている印象ですが、日本でもBardが使えるようになったと聞いたので、早速使ってみました。


登録して、いざスタート!

 すでに、様々なウェブ記事やブログや動画投稿などで紹介されていますが、最初にGoogleアカウントを通じてウェイトリストに登録し、使用開始OKの案内を待つスタイルのようです。
 私は、今日のお昼休みにウェイトリストに登録しましたが、数分で開始OKの通知が来ました。

早速、質問①

 Bardも、今日現在では英語のみ対応しているようです。そこで、前回ChatGPTにしたのと同じ質問をしてみることにします。
(どうしてこのような質問をしたのか?等の理由や、ChatGPTの回答については、ChatGPTに法律相談してみた。|柴田 睦月|noteも併せてどうぞ。)

What reason is required for a Japanese company to fire an employee?
著者作成

 このように質問したところ、答えが3パターンでてきました。
 私が相対的に一番いいと思ったのは、下記のDarft 1の回答です。

In Japan, it is very difficult to fire an employee. The law requires that there be a valid reason for termination, such as:
・The employee has committed a serious breach of contract, such as theft, fraud, or violence.
・The employee is unable to perform their duties due to illness or injury.
・The company is facing financial difficulties and needs to reduce its workforce.
・The employee has been found guilty of a criminal offense.
If an employee is fired without a valid reason, they may be able to sue the company for wrongful termination.
In addition to the legal requirements, it is also important to consider the social and cultural context of Japan when making a decision to fire an employee. In Japan, there is a strong emphasis on loyalty and commitment to one's employer. Firing an employee can be seen as a betrayal of trust, and it can damage the company's reputation.
For these reasons, it is important to carefully consider all of the factors involved before making a decision to fire an employee in Japan.
Google Bard, April 19, 2023, https://bard.ai/

 他の2つのドラフトも、なかなか良かったのですが、①例示ではなく断定調であったり、②企業側に立って正当な解雇と言えるためにはどのような事実が認められる必要があるのかを論じているのに、最後の方で、解雇される心配があるのであれば弁護士に相談してくださいと、被用者側のスタンスで相談を促していたりという箇所があったので、そういった観点の比較で上記のDarft 1を、今回の私的お気に入りにしました。

 ただ、それってわりとハイレベルな要求と言えるようにも思います。そのまま使うことはできないから多少の手直しは必要というだけで、回答に使っている素材や、回答のフレーム自体はとても綺麗で、よくできています。

 さらに言えば、Darft 1にない良い記述もありまして、Draft 3にはこんな記述もありました。

It is important to note that the validity of dismissal in concrete cases can be difficult to gauge. It is therefore recommended that employers consult a labor lawyer before proceeding with dismissal.
Google Bard, April 19, 2023, https://bard.ai/

 単に弁護士への相談を促すばかりではなく、早め早めの相談を、適切なタイミングを具体的に示しながら説得的に叙述しているのはなかなかハイレベルだと思いました。

 また、Bardのデキるな~と思ったポイントとしては、参照したウェブページ等のリンクもつけてくれるところです。
いわゆるできるアソシエイトは、きちんとしたドラフトを上げてくるのもさることながら、参照した文献を見やすく工夫してドラフトと一緒にレビューに回してくれますが、まさにそれ。

 Bardは速度が遅いというようなことも一部で言われているようですが、この3つのドラフトを参照資料も添えて持ってくるあたり、全然このスピードで大丈夫よ~!と言ってしまいたくなりました。

 ChatGPTを使った際にも思いましたが、AIに仕事が取って代わられるのかどうかという議論はもはやナンセンスだと個人的に思っていて、AIをどう使えるのかということを考えてワクワクするのがいいなと思っています。
そういった私から見ると、昨今のAIというのは、リサーチが得意なできるアソシエイトがいる感じと捉えています。
 弁護士たるもの、人様の人生を背負っているのですから(企業法務でも必死に働いておられるご担当者様の大きな責任と思いを共有させていただいていると思っています)、自分が担当する案件のプロダクトに関しては、一切の妥協なく検討して、プロダクトとしてご納品します。なので、いくら信頼しているアソシエイトであっても、ほかの弁護士が作成したものをそのまま外に出すということは、少なくとも私にとってはあり得ない話です。
 間違いを見つけるためのダブルチェックをするということもそうですが、もう少しエモーショナルな観点も含んで、自分の脳みそから取り込んで、自分の血や涙を通してろ過するというイメージでしょうか。自分の思う「正義」に適うか、私の大事なお客様が喜んでくださると思えるかというような、いわゆる自分が醸成してきたリーガルマインドでスキャニングするということをします。
 そうすると、少なくとも今の段階では、AIに、そのまま使える回答は求めていないわけで、素材をきっちり用意していただければよいわけです。そういう意味では、Bardもとても使い勝手が良い相棒だと思いました。

さらに、質問②

 これもChatGPTにもしたのと同じ質問です。法律相談ではないですが、法律事務所運営ではしょっちゅう話題に上がるネタなので、今回も聞いてみます。

What are effective ways for law firms to share know-how internally?
著者作成

 こちらについては、下記のDraft 2が一番いいかなと思いました。

There are many effective ways for law firms to share know-how internally. Some of the most common methods include:
Knowledge management systems. These systems allow law firms to store and share information in a central location. This can include anything from legal research to case studies to best practices.
Training programs. Law firms can provide training programs to help employees learn new skills and stay up-to-date on the latest legal developments.
Mentorship programs. Mentorship programs can help new employees learn from more experienced colleagues.
Communities of practice. Communities of practice are groups of employees who share an interest in a particular area of law. They can meet regularly to discuss issues, share ideas, and collaborate on projects.
Social media. Law firms can use social media to share information and connect with other lawyers and legal professionals.
The best way for a law firm to share know-how internally will vary depending on the firm's size, structure, and culture. However, by using a variety of methods, law firms can create a culture of knowledge sharing that can benefit all employees.
Here are some additional tips for law firms that want to improve their knowledge sharing:
Create a culture of collaboration. Law firms should create an environment where employees feel comfortable sharing their knowledge and expertise. This can be done by encouraging collaboration, providing opportunities for feedback, and rewarding employees for sharing their knowledge.
Make it easy to find information. Law firms should make it easy for employees to find the information they need. This can be done by creating a central repository for information, using keywords and tags, and providing search functionality.
Promote the benefits of knowledge sharing. Law firms should educate employees about the benefits of knowledge sharing. This can be done through training programs, newsletters, and other communication channels.
Measure the results of knowledge sharing. Law firms should track the results of their knowledge sharing efforts. This can help them to identify what is working well and what needs to be improved.
By following these tips, law firms can create a culture of knowledge sharing that can benefit all employees.
Google Bard, April 19, 2023, https://bard.ai/

 今回は、他の2つに特によくない点があったということではなく、3つのドラフトがいずれも策を示して、次に方法論が示されているという構成で、どれもとてもいい流れでした。
 上記のドラフトが相対的にいいと思えた理由は5つの策が、私自身が在籍した事務所等で実際に取られていたものであったので、一番説得的に思えました。
 やはり、3つの回答を用意する仕組みというのが、回答が出た時にたまに生じる「う~ん、これじゃない」感が生じる確率を減らしているような気がします。

 弁護士として私自身も回答を提供する側なので日々考えていることでもありますが、「これじゃない」感って、結局、それって「『私』のための回答じゃない」という感覚になってしまうということだと思っています。
 「私の気持ちとなんとなくマッチしない」「言ってなかったけど、私が今抱えている背景事情がちょっと違う」等々、原因はいろいろありますが、そうした、今、質問をしている「私」が抱える全てを伝えないと「私」にとっての「これだ!」な回答ではない可能性は絶えず存在します。だけれども、そんな「私」の全てを伝えるためには、極論すると「私」の人生全てを伝える必要があります。そんなことは不可能なので、回答する側としては、ある程度のパターンを用意して、これかな、こっちかな?と会話をしながら、ご相談者様の「これだ!」に当てていくのですよね。
 Bardは、こうした作業を、回答を3つ用意するという仕組みにすることで乗り越えようとしているのかな、と理解しました。

 確かに、「選ぶ」という結構な知的作業が質問者側に発生するのですが、個人的には、Bardにとっては、この回答が3つ出てくるという機能が大きな特徴であり、AIが吐き出した回答を理解し判断するという判断力もまた今日の人間に必要な能力ということなのだなと思いました。

おまけ~引用の方法~

 Google Bardの回答を引用する場合はどのように表記するべきかも、Bardに聞きました。
 以下の4つを明示して引用元を明示せよ、とのことです。

  • The name of the Google Bard service.

  • The date and time of the response.

  • The URL of the Google Bard response.

  • A brief description of the Google Bard response.

 ここまでは単純なのですが、すごいのはその先。
 いろいろと上記の労務などの質問した後に、この引用の質問をしたので、Bardが例示として、労務の回答を引用するならこんな感じ、と言って、例文全体と「Google Bard, April 19, 2023, https://bard.ai/」という表記を作成してくれたのです。 正直これ、かなり驚きました。今回一番驚きました。
 一連の会話の軸をブラさず、こちらの欲しいものを流れの中から探ろうとする細やかさみたいなものがすごいです。

結局、ChatGPTとどっちが使えそう?

 前回同じ質問をChatGPTにしたときは、2月でしたので、少なくとも現在のGPT-4に同じ質問をしないと、比較は難しいかなと思います。
 いきなり、自分で書いた小見出しを否定してしまい恐縮です。この比較は、また別の記事にしたいなと思います。
 ただ、ChatGPTもGPT-4になって凄く良くなってきているし、まだまだキャパ抑えているらしいので、今後の飛躍に大いに期待しています。

 また、今回使ってみて思いましたが、Google Bardもとても使い勝手がいいです。
 あえて比べてみると、ChatGPTもGoogle Bardも、読みやすく整然とした枠組みの文章で、一般的に過不足のない量の情報が提供されるという点で、共通しており、この、文章の枠組みのきれいさというのは、本当に使い勝手がいいです。

 Google Bardの良いところを挙げるとするなら、質問者であるユーザーの欲しい答えを探ろうとする探求力でしょうか。他のAIとの比較ということではなく、絶対評価として、質問者を満足させたいという開発者の気迫を感じました。
 前述のとおり、回答が1つか3つかという点が、単なる形式的な差というだけではなく、このAIをどう自分が活用するのかという点で、結構大きな差になってくるだろうなと思いました。特に法律相談の様な、あらゆるバックボーンを推測しながら回答する必要のある分野においては、この回答候補が3つある、というのが、結構いい機能になるのではないかと思っています。
 そして、会話ということを重視して流れの中での推測を働かせる力、それってもはや「おもてなし」力とも言えると思うのですが、そこが期待を超えてきます。ChatGPTもそうした片鱗をすでに2月に感じましたけど、こうやってAI技術が発展しているのだなという進化のプロセスに触れることはただただ感動します。

今後について

 少なくとも、いかに短時間で質の高いプロダクトを提供するかでしのぎを削っている我々企業法務弁護士からすると、AIをいかに活用するかが、今後の生存競争で大きなカギになるだろうなと思っています。むしろその活用の在り方に自分なりの職業倫理観であったり、経営的なセンスであったりを発揮することになるんじゃないかなと個人的には感じています。
 すでに、どのようにAIに質問するのかという質問力に価値があるということは、世間でさんざん言われていますし、私自身も実際ChatGPTを使ってみた際のnote記事にも書いたところですが、プロンプトエンジニアリングについても、もう少し詳しく覗いてみたいなと思うようになりました。

 それと、今回新しくBardも使ってみたことで、質問力に加えて、回答の活用力を工夫し高めることも、大事な要素になりそうだということに気付くことができました。
 正確かつきれいな骨格の文章のプロダクトであっても、そのプロダクトが目の前の人を喜ばせられるのか、どのように届けたらより「響く」のか。
 AIを道連れに、そんな問いに挑んでいきたいなと思います。

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