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2024.4.27「La Mère 母」@東京藝術劇場の感想


観劇の経緯

2年前のクリスマスイブの日、私は母と舞台を観た。
何を観たのか、と言うと。

シアタークリエで上演されていた、この舞台。
繊細で、穏やかで、心地良くそして少し物寂しい。
華やかな舞台では無かったけれども、とても良い余韻を残す舞台だった。
この「4000マイルズ」で、私は初めて岡本圭人くんきちんと認識した。
ちなみに母は、私よりも先に彼のことを知っていた。
何故なら、彼女はたまたまだけれども同じ年に「M.バタフライ」を観に行っていたから。

母は、岡本くんのことをよく知らなかったようだけれども、この「M.バタフライ」を観て良い印象を抱いた俳優さんだったようで、この「4000マイルズ」も、彼が出るなら、ということで観ることにしたらしい。
そんなわけで、特段その日予定も入っていなかった私も、ストレートプレイはご無沙汰、という程度の動機で観ることにした。観てみれば、素晴らしい舞台で。
私の中で、岡本圭人くんは、いわば「彼が出ているなら都合が付けば観てみたい」というモチベーションになる俳優さんのひとりになったのだ。
とは言え、所謂「推し」というレベル感ではなく彼の出演情報を見かけた際に、その舞台の内容についても食指が動いたら観に行こう、という軽めのモチベーションではある。
そんな岡本くんが、今回また良さそうなストレートプレイに出演する、ということで、今日、観に行ったのが「La Mère 母」という舞台だった。

少しだけ、劇場のこと

私は、この舞台に際して初めて東京藝術劇場に行った。
母は何度も行ったことのある劇場らしく、「好きな箱」だと言う。
実際に行ってみて、確かに、私も気に入った。
ハコの持つ雰囲気は様々だと思うけれど、東京藝術劇場は落ち着いていて、明るいけれど明るすぎない、まろやかな雰囲気を持っていた、と感じている。
モダンだけれど無機質ではなくて、ハコ自体が呼吸をしている感じ。
座席も観易かった。少なくとも私の座高や、今回座った席を鑑みて、ではあるけれど観易かった。たまにとんでもなく観辛い劇場があったりすることを考えると、相対的に観易さの程度はとても高かった。
ちなみに、期間限定なのかいつもなのか私には分かりかねるけれども大きい服が天井からかかっていた。凄い。

ワンピース!

この劇場に初めて足を運べたことも、またひとつの収穫だったかもしれない。個人的に。

感想を

さて、観た感想だけれども。今回、観ることが出来て本当に良かった。
あまりこの作品について、事前に調べたりすることなく観に行ったが、とても素晴らしい作品だった。
母親が呪いを、自分に跳ね返ってくる呪いを、ずっとかけ続けている話だ。
あれは「母親」の話。確かに「母親」という人の話なのかもしれないけれど、もしかすると、母親という属性も含めて、全ての「女」という属性に対しての「いつか」の話なのかもしれない、と感じた。
人間はそもそも孤独な生き物なのかもしれない。
だとしても、とてもクリアな孤独、明瞭に何かを剥ぎ取られる感覚はきっと、「女」である以上は避けられないのかもしれない、なんて。
若村さん演じる、アンヌがああなった根源は、とどのつまり「孤独」で。彼女はそれを自ら選んだわけではないけれど、結局、それ以外に選択肢が無くなっていった。
私は母親になったことはないのに、アンヌに共感に近いものを覚えた。凄く、感情を共有し易い作品だと思う。

それからパンフにも書いてあるけれど「夢」のような描写が多かった。どこまでが誰の現実で、どこまでが願望や幻想、妄想なのか分かり辛い。
だから最後のシーンがとてもリアルで、恐ろしく、悲しく、遣る瀬無かった。でも、私は「悲劇」という風な感覚では観ていなかった。
そう、リアリスティックだったから。描かれる風景、感情の手触りが鮮明で、「悲劇」のようなドラマティックさは無い。
舞台上にいる人間がワンシーン、ワンシーンとても少ないので、尚更誇張のようなものが感じられなかった。

若村さんの一人で暴発して、一人で納まって、また暴発して、を繰り返す不安定さは滑稽なようで、でも彼女の孤独の全身での訴えのようで、酷く胸が苦しかった。最後の、アンヌの「本当は分かっている」感じ。若村さんの理解している感じ。それがまたとても悲しかった。彼女だって理解している。また、岡本さんの優しさと残酷さを両方持ち合わせているような芝居は息が詰まりそうだったし、伊勢さんの軽薄なのに重心が下にあってとても存在感がある演技は今でも頭に残っている。
そして、岡本くん。
とても曖昧な表情が上手な人だ。喉の奥で呑み込むべきか吐き出すべきか迷っている言葉を転がしているような、そんな表情が上手だ。こういう表情を「息子」という存在は母親にいつか見せるのかもしれない、そう思った。
それから、もうひとつ岡本くんについて印象に残ったことがある。
岡本くんは笑わない。これは良い意味で。カーテンコールの終わりまで、真剣に観客を見詰める人。前回の舞台でも思ったけれども、今日、その印象は更に強まった。

良い作品は誰かを愛したいと想わせる。これだけ、愛することや愛されることを重く、苦しく描いているのに。だから、本当に素晴らしい作品だったと思う。

余談ね

余談。これは、本当に余談だ。
去年の8月以来の池袋だったので、観劇前にアニメイトに行った。
心底疲れた。漠然と欲しいものはあったけれども、売っていなかったし、明確に行きたい、という目的が無かったからなのか、本当に疲れた。
ひとりオタ活はとても気が楽だけれども、例えばコラボカフェだったりアニメイトだったりは、何となく誰かと一緒に行く方がより楽しい気がするな、と今更なことを思ったり。

(誰か、今度一緒にオタ活してくれます?)