カオスとリベラル?のフラットパーティー

「留学生活は勉強が八割」とはいいつつも、アメリカに来たら一度はパーティーに行ってみたいと思っていた。しかし、フラットと呼ばれるアメリカの大学のパーティーは私が思い描いていたパーティー(いわゆる、シャンパンとかオリーブのピンチョスとかが並ぶ豪華なもの)とは異なるものだった。
フラットとは学生たちが何人かで管理している一軒家のことで、ここで管理人のフラットブラザーたち(シスターがパーティーを開くときは時は別に呼び名がある)が毎週パーティーを企画、開催する。地下室でガンガン音楽をかけながら大勢が踊り狂うので、どちらかといえばクラブに近いかもしれない。また、フラットごとにDJの質や雰囲気、コンセプトが異なるためパーティー好きの学生はいろいろなパーティーに顔を出す「パーティー巡り」なるものをするらしい。

ここで考えさせられたのが、リベラルな学生が多いとされるUMassで、Ratioなるものが横行していたこと。Ratioとは男女比のことで、基本的にフラットブラザーたちは女性が多いフラットを好む。ハロウィンに行ったフラットパーティーで参加者が中に入ろうとドアの前で押し合いへし合いしている中、フラットブラザーが表れて「女の子は並ばずに入っていいよ!」と後ろのドアを開けてくれた時に、心がざらつくのを感じた。もちろん寒かったので早く中に入れるのはありがたかったのだけど、パーティーに女の子は多いほうがいい、女の子は並ばずに入っていい、は、なんかめっちゃキモイ。

キモイで思い出したが、パーティーにおけるセクハラはキモイを通り越して犯罪である。
私が「フラットに行きたいんだけど…」と友達に言うと、現地生も留学生もみな口をそろえて「汚いし、危ないから行くな」と言った。そのうちの一人は「捨ててもいい靴履いていったほうがいいよ、泥とかでめちゃくちゃ汚れるから」と教えてくれた。パーティーというより、山登りに行くと考えたほうが良いのかもしれない。話がそれたが、過去に女の子がレイプされる事件があったらしい。不安に思って今回招待されたパーティーの主催グループにいる友達に尋ねると「ほかのフラットではレイプとかもあるって聞くけど、うちのフラットにはそういうのないから大丈夫!」とのこと。ますます怖い。実際、同じ場所で踊っていた女の子が知らない男に腰をつかまれて性交渉を思わせるダンスをされていた場面があったと後から知り、地獄に落ちろと思ったことを付け加えておく。どんな場所で、どんな服装、性別であろうが、セクハラが許されて良いわけがない。

フラットには、キモイ文化もあったがもちろん楽しい面もあった。
はじめてフラットに招待されたとき、私は嬉しかった。これでアメリカのキラキラ大学生の仲間入りができる!と思ったのである。どんなドレスを着ていこう、メイクは濃いほうがいいのかな?と想像が膨らむ中、スマホの通知に招待してくれた友達の名前。

“フラットのコンセプトなんだけど、”
“カウボーイパーティーだから”

カウボーイパーティー_?

私は混乱した。カウボーイパーティーって、何をするの?みんなでロデオ乗っちゃったりするの?牛乳のんじゃったりとかするの?

“俺はハットなくしちゃったから普通の恰好で行くけど、みんなはカウボーイとかカウガールの恰好で来るといいよ”

カウボーイとかカウガールの恰好_?

ますます混乱する。パーティーで酪農業従事者の恰好をするって、楽しいのだろうか?そもそも頭の中にそこまで鮮明なカウボーイのイメージがない。どうしたらいい?ブーツに牛糞でもつけていったらいいのだろうか。わからない。ブーツに牛糞をつけてシャツの腕をまくった人間が濃いアイメイクをしていたらちょっと面白くなってしまう気がする。
わからなくなった私は、そこまで濃くないアイメイクをして、普通のスウェットとジーンズをはいていった。ここでしっかりと牛の恰好をしていったら面白くなった気がして、悔しい。
パーティーに行くと、カウボーイカウガールの恰好をしている人は三割程度で、その他がラフな夏の恰好をしていた。ラフな冬の恰好をしていった私は、地下室の熱気ですぐに顔が真っ赤になってしまった。
パーティーはすごく楽しかった。
選曲がよかったし、仲の良い友達同士で行ったので盛り上がった。時々酔っぱらった知らない人に「名前は?」「どこから来たの?」「何年生?」と訊かれてその回答全てにWowwwwwwwwwwwwwwwwwww!とオーバーなリアクションをもらったりした。ここでは自分が何者であるかなんて全然誰も気にしていないような気がして新鮮だった。私の隣では、私が何者であるかなんて気にしない男女が熱いキスを交わしていた。私が、カップルがキスしてる!アメリカってすごい!と興奮していると、友達が「あの二人多分カップルじゃないよ」と教えてくれた。本当に楽しかった。
ただ、一回経験したら二回目はなくていいな、とも感じていた。人と本当の意味で知りあうことがなく、音楽を聴いて踊るだけなので、結局は同じことの繰り返しにすぎないような気がしたのだ。

しかし、二回目は思ったより早く訪れた。留学先で初めてできた友達グループで、ハロウィンパーティーに行くことになったのである。しかも、参加者は全員なんらかの仮装で訪れるというから、今回は一味変わったパーティー体験ができるに違いない。私は、自分の持っている服でベストな仮装を考えた。
白いワンピース、白い運動靴、そして私は黒いロングヘア。
映画「リング」の貞子の完成である。日本の化け物の本気を見よ。何を隠そう私、小学校のころ演劇部に所属しており、そのころ学校の出しモノでやったお化け屋敷で「なんの仮装もしていないのに一番怖い」と同級生たちのお墨付きをもらっていたのである。書いていて、もしかしたら普通に顔が怖かったのかな、と不安になりましたが書き続けます。
結果、ハロウィンパーティーでは、私がいちばん怖かった。
そもそも、顔を隠した仮装をしている参加者は一人もおらず、日本の化け物のようなおどろおどろしい雰囲気を持った仮装は一つもなかった。というか、女子たちはみんな妖精とかプリンセスとか、いたとしてもデビルとかの恰好をしており、みんなフラッシュをたいてかわいく写真撮影をしていた。その写真に写り込む心霊写真メーカーこと私。ハロウィンパーティーに本気の貞子の恰好で現れた私はどこからどうみても人を死に引きずり込みそうな負の空気を漂わせており、通りすがる人に小さく叫ばれた。
ハルクに吸血鬼にスパイダーマンに貞子を加えた地下室は、まさにカオスだった。人の叫び声で音楽が聞こえない。友達とはぐれる。人に押されて息が苦しい。水は2ドルなのにテキーラが無料で配られていたりする。
あまりの混沌ぶりに私は20分でギブアップし、その後二度とフラットパーティーにいくことはなかった。
余談だが、そのフラットにはトイレが一つしかなかった。そのため、友人は列に割り込んできた知らない男女と一緒に一つの個室に入り、お互い見ないふりをして用を足すという地獄に遭遇していた。

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