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コスプレ一本勝負というAVメーカーの監督です。現在のことや過去のこと、思い出したら書い…

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コスプレ一本勝負というAVメーカーの監督です。現在のことや過去のこと、思い出したら書いていきます。

マガジン

  • 僕らは一度サヨナラしなくちゃいけない

最近の記事

ボクの夏と同じだな

「今日行けなくなっちゃった、ごめんね」 打ち上げ花火の音が落ち着いたタイミングで、一緒にこの夜空を見上げているはずだった女の子からメールが届いた。 「いいよいいよ気にしないで。また今度〜」 送信ボタンを押すと「ドン!」と大きな音が鳴った。 男6人でつるむ大学生活が3年半ほど過ぎた頃の話だ。全員もれなくオタクで、集まってはゲームをしたりアニメを見たり声優を語り合ったりして毎日を過ごしていた。 教授を含めても、結局4年間に10人程度としか会話をしていないボクにとって、このグ

    • カウントダウン

      10年も同じことを同じ場所でやっていると、迷ったり憧れたりして、あっちやこっちにフラフラとする時がある。ここ数年はあらゆることに諦めを感じることがあり、そんな惑いも不惑を迎えると共に落ち着いた気がしていた。 けれど、迷いや憧れはまだどこかにあり、身の丈に合わない妄想に耽り、それに手が届かないことを悟ってはため息をついて日常に戻る。 40歳になった時、コスプレ一本勝負をあと10年だけやろうと思った。10年後に何かがやりたいというわけではなく、だからといって20年後にもこの仕

      • 『実家に帰ったら母が顔面麻痺になっていた』

        母方の祖母の葬儀に出るため、久しぶりに実家に帰った。年末年始は毎年帰っていたが、年明けから体調が芳しくなく今年は遠慮した。もしかしたら、電車を乗り継いで1時間かかるかどうかという距離感も億劫さに拍車をかけているのかもしれない。 実家に帰ったら母が顔面麻痺になっていた。 父は白髪が増え少し小さくなっていて、真ん中の弟は養育費を以前とは別の女性にも払っていた。変わらないのは長男である私の生活と、三男が引きこもりを続けていることだけだった。 祖母の葬儀で母はサングラスをかけてい

        • 同じ傷がある

          「そこのカッコいいお兄さん! ちょっと見てって~」 この街では約5メートルおきくらいに「もしかしたら自分はモテるのでは?」という錯覚に陥ってしまう。その街に存在するすべてのおばちゃんが褒めてきて、美人なお姉さんがにこやかに手を振ってくるのだ。 マフラーに顔を埋め、露出度の高い衣装に身を包んだ女性をチラチラと横目に見ながら歩いていると、いつの間にか店先の提灯もあたりを歩く人も少なくなっていた。 いつかもこうして道に迷った気がする。 飛田新地で迷うのは、街の作りだけが原因で

        ボクの夏と同じだな

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        • 僕らは一度サヨナラしなくちゃいけない
          7本

        記事

          セシルが空を飛ぶ理由

          フリーランスになって良かったと思うことがある。 自分のペースで仕事ができるので、空いた時間を自分の時間にしやすかったり、やりたいと思う仕事を自分で選択できる、というのが大きなところ。 小さなところで言えば、島田秀平の怪談youtubeを見ながら仕事ができること。 そんな、いくつかある良かったことの中でも心底『良かった』と思えるのが、朝晩の通勤ラッシュと無縁になったことである。年に何回も乗車しない満員電車に乗っていると、これこそが現代人を不幸にする諸悪の根源なのでは? と思

          セシルが空を飛ぶ理由

          アナルごめんね

          女性と手を繋いだりキスをしたりセックスをするよりも先に、僕はアナルに指を入れられた。正しくは『指を入れていただいた』か。 約15年前、僕はエロ本の編集者だった。 元は漫画編集志望だったが、上司が抜けてしまった穴を埋める形で実写エロ本編集部に編入された。まさか1ヶ月後に自分の穴を埋められることになるとは思ってもいなかった。 この『雨の五反田、涙のアナル事変』についてはいつかnoteで更新しようと思う。簡単に解説すると、『芸能人のYOUの首を締めた時に出るような声』をした『自

          アナルごめんね

          8bitの記憶

          初めてファミコンに触れたのは、たしか4歳の時だったと思う。 その日、昼間に出て行った父が夜遅くに帰ってきた。半分寝ていた僕は父に叩き起こされ、無理やりテレビの前に連れていかれる。母のぼやきを尻目に電気がつき、ぼやけた世界のピントが徐々に合っていく。 目の前にはファミコンがあった。どうやら父がパチンコで勝ったらしい。 発泡スチロールの擦れあう音を聞きながら箱を開け、ビニールに包まれた本体を取り出す。 父がテレビの裏をいじってケーブルを引っ張り出し、ペンチのような工具で何や

          8bitの記憶

          ドデカい白い建物

          ※この記事は特定の宗教や思想を否定するものではありません。まただいぶ昔のことなのでうろ覚えで書いていますが、一部の記憶はハッキリしています。 ----- 今から約20年ほど前の話である。 「今度一緒にご飯行かない?」 大学を卒業してから半年後、在学中に想いを寄せていた女性からメールが来た。 彼女とは教職を目指すグループで一緒になった。明朗快活で男女分け隔てなく友人がいるタイプで、夜遅くまでゼミや発表の準備などがあっても笑顔を絶やさない。まるでひまわりのような女性だっ

          ドデカい白い建物

          『声』

          「お疲れ様でした〜また撮影お願いします」 エロ本の付録DVD撮影が終わった。 現場に残っていたお菓子を咥えたまま慌ててお辞儀をすると彼女はフフッと笑った。 そういう設定の役とはいえ、さっきまでストーカーに追いかけまわされ、組み伏せられて色々なことをされたというのに。その指示をしていたのは自分なのに。 「またよろしくお願いします!」 その声が聞こえたのか、タクシーに乗り込んだ彼女は窓を開けて手を振り会釈した。 どこか寂しげで、あどけなさの残る笑顔が夜の街に消えていく。

          『声』

          『最初の記憶』

          AV新法が可決された日の夜だったと思う。 高田馬場にある怪しげな場所(めちゃくちゃ失礼な言い方)で二村ヒトシさんに「君は自分の人生を文章化したほうがいい」と言われた。 mixiで二村さんにファンメを送ったときに返ってきたメッセージが、「君は男優できるかい?」だったことを思い出した。AVの世界に足を踏み入れるきっかけになった言葉だ。 今回も唐突なきっかけに従ってみようと思う。 簡単に言えば自分語り。 不透明度68%くらいのぼんやりした記憶たち。 ——- 保育園の庭。

          『最初の記憶』