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「複製技術時代の芸術」とNFTとデジタルの未来

永松歩さんの「CryptoArtの論点」という記事を読み、その中で言及されているベンヤミンの「複製技術時代の芸術」に興味が湧き、関連書籍を読んでみました。

CryptoArt、NFT とデジタルの未来に対して、私は自分の中にモヤモヤとしたものを感じており、それをはっきりさせたいという動機を持って読みました。

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「複製技術時代の芸術」を読んで

時は20世紀初め、写真や映画といった複製技術を備えた新しいメディアが広まった時代。技術の発展により精巧なコピーを大量に作り出せるようになったことが、「芸術」にどのような変化をもたらすかを論じた論文、それがヴァルター・ベンヤミンの「複製技術時代の芸術」です。

私が読んだのは多木浩二さん著 ”ベンヤミン「複製技術時代の芸術作品」精読” という本です。 後半にベンヤミンの「複製技術時代の芸術」の日本語訳版、前半が多木浩二さんの解説という構成です。

通しで全体を何回か読んだ程度では、書いてあることの一体何割、いや一割でも理解できたんだろうか?というレベルの難しさ。
解説付きなわけだけどそれでもダメ。私などの教養では到底太刀打ち出来るものではないと感じました。

ただわかったことは、

ベンヤミンは複製技術が芸術にとって「悪」とも「害」とも言っておらず、それが芸術にどのような変化をもたらすかだけを論じている。
複製技術の発展による芸術での「アウラの凋落」。ベンヤミンはそれも「悪」とは言わず、「芸術作品にはアウラがあるべき」とも言っていない。

ということ。

そして、今の時代を念頭に読むことで、ベンヤミンの言葉の中からおぼろげに浮かんできた、現在と未来についての示唆の断片を得ることができました。

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複製と NFT の価値

NFT について、この漫画での野球のボールの例えが実にしっくりきました。

野球のサインボールは、目当ての選手が手にとって直接書いたということに意味があり、そこに価値が見いだされる。

NFT はサインボールそのものではなく、そのサインボールの鑑定書にあたるもの。サインボールはコピー品をいくらでも作れる。だが、鑑定書は唯一一枚だけ。

アート作品で考えると、NFT によってデジタルアートの画像そのものに「唯一性」が付加されるわけじゃない。「唯一性」が付くのはあくまでも鑑定書の方。
NFT を「デジタル資産」と呼ぶのは、土地そのものじゃなく土地の権利書を「資産」と呼んでるようなもの(?)。

NFT は投機的な面もあると言われますが、作品が独自のストーリーを持っていれば、鑑定書の価値はきっと上がるでしょう。

先の例のサインボールが有名選手の 100号ホームランのホームランボールだったり、そのホームランが手術を嫌がる子供との約束の九回裏逆転ホームランだったり、その子供が将来世界的スター選手になって「あのときのホームランがきっかけ」なんて話したりとかすると、どんどん価値が上がっていきそうですね。

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NFTとデジタルの未来

デジタルアートとサインボールの違いは、デジタルアートは完全な複製が出来、どれがオリジナルかにもはや意味が無いところだと思います。(宇宙線によるビット反転とかはここでは考えない)

でもそれが「悪」だとは思いません。
複製はデジタルが持つ性質であり、それがあるからこそのデジタルだと思うからです。

ベンヤミンの「複製技術時代の芸術」に『技術的パラダイムはどんな場合でもまだ実現しないものの可能性を含んでいる』とあるように、デジタルの完全なる複製可能性が芸術の性格を変化させていくだろうし、社会に新しい需用を作り出すはずと、私は考えています。

もっとも、それがどのようなものになるのか、今の私にはまださっぱりわからないし、ベンヤミンの言うように『その可能性がなんであったかは後の出来事が明らかにする』のでしょう。

NFT は既存の芸術の性格に合わせて「唯一性」という概念を持ち込みますが、それはデジタルの複製可能性を活かす方向ではなく、それゆえに私は NFT にデジタルの未来を感じられません。 「複製できるから厄介だ」という既存の価値観に乗っかった、どちらかというと「古い」ものに見えます。

ここで、NFT に未来がないと言ってるわけではありません。NFT そのものには未来も可能性もあると思います。 ただ、それは私が思うデジタルの未来ではないだろうなということです。

デジタルの未来は、デジタルが本来持っている「複製可能性」という性質を当然と捉える価値観、その性質から得られる恩恵によって回る経済や社会のあり方の先にあるんだろうと思います。

私たちの次の、そのまた次の世代ぐらいには「"複製できるから厄介だ"ってどういうこと?」という時代になっているでしょうか?


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