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デレラの読書録:金原ひとみ『蛇にピアス』


『蛇にピアス』
金原ひとみ,2006年,集英社文庫


言葉の持つ独特な温度や触感。

作家あるいは作品によって、それぞれの温度や触感は異なる。

この作品は微熱感というか、生温かい感じというか。

エアコンをつけっぱなしにして寝た朝の咽喉のイガイガというか。

雨の日に靴が濡れて、靴下が濡れた時の気持ち悪さ。

あるいは、指先の逆剥けの痛み。

身体的な感じが、読んで脳内再生される、そういう筆致。

金原ひとみのデビュー作にして、芥川受賞作。

身体がぶるぶると震えるような感覚、初期微動的なイメージ。

(2022年3月22日 読了時のツイートより 一部改稿)



これからの「デレラの読書録」では、金原ひとみさんの作品をデビュー作から順に読んでいこうと思います。

2004年『蛇にピアス』から、2020年『fishy』までの16作品です。

『fishy』以後も3作品が出版されていますが、今回はここまでにしたいと思います。(何となくです、きっとそのうち残りの作品も読みます。)

現在は9作品目『マザーズ』まで読了済み、順次、noteで読書録を公開します。

さて、わたしは、2022年3月に『蛇にピアス』を初めて読みました。一年前ですね。

一年前の読了直後のツイートが上記の文章です。(少し手を入れていますが)

若くして芥川賞を受賞されていたことは知っていたのですが、ずっと手を出さずじまいでした。

何となく手に取ってみたらとても面白かった。

何が面白かったのか。

それは『蛇にピアス』で語られる「私」という一人称が面白かった。

どういうことか。

何と言うか、初めて読んだときの根拠のない感覚でしかないのだけれど、この小説で描かれてる「私」って何だろう、という感覚でした。

ようは、金原さんが描く「私」という一人称が今までに見たことがない、という感覚と言えるかもしれません。

『蛇にピアス』の主人公は、ルイという女性です。

舌にピアスを開け、だんだんとピアスを太くしていき、終いには舌先が二つに分かれる、通称スプリットタンに憧れる女性。

この女性の身に起きるいくつかの出来事が描かれます。

出来事に巻き込まれている、あるいは、渦中にいる「私」の視点でモノローグが紡がれる、わたしはその言葉遣いというか描かれ方に不思議な感覚を覚えたのです。

それは、なんだか「何もない空間」に吸いこまれるような、虚空を見つめるような感覚です。

真っ暗な空間の先には何もないけれど、でもずっと見つめていたら何かあるのではないか、という感覚。

さらに言えば、そういう空虚の一歩手前と言うか、空虚とはまだ言い切れない状態を、金原さんは見つけ出し、「私」として結晶化させ表現している、そんな感覚です。

わたしは読了直後には、それを「言葉の温度や触感」に感じ取りました。

今思い返せば、この小説の独特な「言葉の温度や触感」は、「空虚とはまだ言い切れない状態」を成立させるために金原さんが発見した文体なのではないか、と思うのです。

ですからわたしは、この感覚を頼りに、金原さんの作品をがっつり読むことにしました。

続けて読むことで得られる感覚もあると思います。

9作品目まで読んだいまでは、何となく、金原ひとみさんは一人称視点を引き受けて書く作家なのではないか、と感じています。

次回は、第二作目『アッシュベイビー』です。

今回はここまで。


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