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第1章 VI 二系統運動系理解へのPrologue 2:呼吸運動、MMC、体幹筋群-脊椎動物祖型の体幹筋群は我々ヒトの体幹筋群にどう分布するか?-

(Prologue 1は以下:リンクhttps://note.com/deepbody_nukiwat/n/nc4fb30f5f195

Prologue 1では脊椎動物の脳脊髄系として、進化での変化に基礎をおく大まかな区画として新旧脳を議論した。
一旦話をヤツメウナギのLocomotion CPG(central pattern generators)神経系に戻す。

実は私自身、極めて最近、2020年、コロナ禍中、運動不足支援TV番組を偶然見て、体幹運動と西野流呼吸法基礎の類似に気付いた。PubMed データベースですぐ呼吸運動と体幹を検索した。

幸いにもGrillner Sの優れた総説(Open access:リンク、https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31512990/)を知り、その中の脊椎動物Locomotion運動系(MMC(medial motor column)/LMC(lateral motor column)、後述)の系統図(タイトル図左)は、人体を知っているつもりの医学部教授の私にとっても、西野流呼吸法「対気」での実体験感覚を説明するものとして、衝撃の図であった。

我々は二系統の運動系が共存するシステムで生きている!どういうことか?
(参照:EVI-2:天動説から地動説へ-身体認識におけるパラダイム・シフトとは?-リンクhttps://note.com/deepbody_nukiwat/n/n0bbb1781b7b7

それがMMCとLMCであり、祖元的のMMC系脊椎動物が水中での数億年の進化時間をへて、魚類に腹鰭(エイなど)、そして胸鰭(硬骨魚類)が発生し、それらを制御するLMCが進化し2系統となった。

やがて3億数千年前、脊椎動物は両生類として地上進出を果たす(この頃、オゾン層が地球に生まれたともいう)。さらに、運動系進化と同時に進化する演算脳(大脳皮質・小脳系)がその二系統運動系を統括制御するようになる。
そして両生類から爬虫類、鳥類、哺乳類と進化し、数百万年前、直立二足歩行に移行したのが我々の身体である。

Prologue 2では、二系統運動系の内、ヒトに継っているMMC支配の体幹筋群はどれかを新規論文を引用して解説する。実に呼吸法基礎は、この体幹筋群に働きかけている。

I. 二系統運動系として我々の体幹筋群をどう理解するか?
それでは哺乳類におけるMMCとLMCは、我々ヒトの全身の筋肉群にどう分布しているのか?背筋群、腹筋群との関係は?(こうした進化的関連性を示した図として、タイトルに使ったBurke ACらの図(Open archive)は魚類と羊膜類の体幹筋群の比較として参考になる。リンクhttps://ars.els-cdn.com/content/image/1-s2.0-S1534580703000339-gr1.jpg)。
これは当然思いいたる次のステップの疑問である。

では体幹筋群を支配する神経がMMC由来かLMC由来かは、いかにして区別されるのか?
それは脳研究に広く応用される多様な遺伝子マーカーを使用する。Novich BGらのグループはMMC/LMCを判別する特徴的な遺伝子群マーカーを報告している

(Table.1. Novichらの原著Open access、リンクhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18667151/)

さらにこうした二系統運動系MMC/LMCが支配する筋群の進化による変化への検討は、実は日本の研究者から報告されている。まずニワトリの筋肉群で検討され(リンクhttps://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32786168/)、ついで2023年1月、福島医科大学の本間、八木沼らがマウスにおける体幹筋群のMMC、LMC支配筋群を報告している(リンクhttps://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fnins.2022.1009542/full)、さらにその論文のSupplementに、ヒトのシステムに関しても議論されている。その内容は一覧表(後述)で示してある。

体幹筋群といっても、実は医学部教育でもそんなに馴染みのあるものではない。
どうすればこの一覧表を、実筋肉群と照合して、視覚的に理解できるか?
大変ありがたい本が2012年に出版されている(価格は映画鑑賞費程度)。荒井浩志著・石井直方監修「プロが教える 筋肉のしくみ・はたらき パーフェクト事典」である。
その第8章「体幹・頸部の筋」の部分を是非通読されたい。驚くほどリアルなCGの筋肉・位置の図に目から鱗である(一部はWikipediaでも確認できる)。
この図を見れば、西野流呼吸法基礎のBodyworkが、呼吸と共にどの体幹筋群に働きかけているかが理解できる。「一体、呼吸法基礎の身体操作は何を意味するの?これがなぜ呼吸法なの?」という多くの初心者、ベテランの疑問に応えることができる。

II. ヒト体幹筋群のMMC/LMCは具体的にどう分布しているか:
さて本間らのSupplementの一覧表は、体幹筋群を17のクラスに分けている。この部分を再整理したものがTable.2.である。

(Table.2. 体幹筋軍。本間らのSupplementの表を改変和訳)

少し解説する。
まず進化系統図で二系統であるMMCm/MMCl/LMCは色分けしてある。

脊髄神経の一部が体節毎に脊髄から分岐し、末梢の筋肉群を支配する。
(具体的な図、リンクhttps://www.frontiersin.org/files/Articles/1009542/fnins-16-1009542-HTML/image_m/fnins-16-1009542-g007.jpg
身体位置特性として身体の背側への枝(背側枝)、身体の腹側への枝(腹側枝)が分かれる。中間枝は、脊椎の横突起間に付着する筋群である。

さらに背側枝には内側(解剖用語としてmedial)サブグループと外側(同、lateral)サブグループに分かれる。
腹側枝では身体位置表現が変わり、背側(解剖用語としてdorsal)サブグループと腹側(同、ventral)サブグループに分かれる。
まずこうした脊椎動物の身体位置特性を理解する。

本間らはこうしたマウスでの体幹筋群位置特性と遺伝子マーカーを基に、実際にはヒトで17クラスの筋群に分類している。
まずヤツメウナギの比較的シンプルな筋肉群に相当すると思われるMMC支配下筋群として、
背側枝内側サブグループ:
1. 多裂筋下筋:大・小後頭直筋、上・下後頭斜筋、長・短回旋筋
2. 多裂筋:多裂筋、半棘筋
背側枝外側サブグループ:
3. 最長筋:上頭斜筋、最長筋、頭・頸板状筋
4. 腸肋筋:腸肋筋
中間枝
5. 横突間筋:横突間筋、胸横突間筋、肋骨挙筋
腹側枝背側サブグループ
6. 肋骨上:上後鋸筋、下後鋸筋
7. 頸横突間筋(後部)、中斜角筋、後斜角筋、肩甲挙筋、菱形筋、前鋸筋、外肋間筋、腰外側横突間筋、腰方形筋、尾骨筋
以上の1~7がMMCである。

以下の8~11の4分類は、四肢の近位(付け根部近辺)としてLMC支配となる。
8. 背側硬膜外:小円筋、中・小殿筋、梨状筋
9. 四肢伸筋:三角筋、広背筋、棘下筋、大円筋、大殿筋、大腿筋膜張筋、肢伸筋群
腹側枝腹側サブグループ
ここからは身体位置的には腹側枝腹側サブグループでLMC支配となる。
10. 四肢屈筋:棘上筋、大胸筋、大腰筋、大腿方形筋、内閉鎖筋、外閉鎖筋、肢屈筋群
11. 腹側硬膜外:鎖骨下筋、小胸筋、外腹斜筋、腸骨筋、上・下双子筋

次は身体腹側中央部の筋群(表在性)がMMCm支配となる。
12. 直筋(表在性):舌骨下筋(浅層)、腹直筋(浅層)、外肛門括約筋(皮下)

MMCと分類されるが、脊髄中で外側にあるMMCl支配のクラスが13~15である。
13.直筋(深部):舌骨下筋(深層)、腹直筋(深層)、球海綿体筋、外肛門括約筋、肛門挙筋
14.内斜角筋:内肋間筋、内腹斜筋、精巣挙筋、坐骨海綿体筋、浅会陰横筋、肛門挙筋(後部)
15.横筋:最内肋間筋、肋下筋、胸横筋、腹横筋、深会陰横筋、肛門挙筋(後部)
再度MMC分類で、脊髄中の内側であるMMCm支配のクラスが16,17である。
16.長横筋:頭最長筋、頸長筋、前頭直筋、前斜角筋、肛門挙筋
17.深肋骨筋:横突間筋(前方)、前頭直筋

というように分類されている。まとめると:
MMCmは背側、脊椎周辺の細かく細長い筋群と、肋骨を広げ息を吸う運動に関連。
MMClは腹側、腹直・腹横筋群と横隔膜で、腹圧をかけての呼気(能動的呼気)に関連。
LMCは体幹と四肢の繋ぎ目の大型筋群から四肢末梢の筋群に関連。

8、9、10、11に挙げられる筋肉名は馴染みのものもあるが、それ以外の多くは、ほとんどの一般の方は耳にしたこともない筋肉名であるかもしれない。
地味ではあるが、これら筋肉群が縁の下で四肢の運動を連携し支えていると理解される。

本当か?(先のエピソードEVI-2参照)
そう思う方は生まれたばかりの新生児のことを考えていただきたい。
まず生きるためには息(換気、実は自動運動)をせねばならない。この表の中に肋間筋等の呼吸関連筋群が多数入っている。
また、母の乳房から乳を吸わねばならない。SuckingもCPGsの自動運動である。
偶蹄類等ではすぐ立ち上がり、群れに付いていくための歩行開始でlocomotion CPGsが機能する。人間の赤子も数週すると呼吸と共に手足を動かし始める。しかしこうした新生児期の事象は記憶には残らない。

以下、西野流呼吸法基礎後半の多様なBodyworkの解説に併せ、馴染みのないこうした筋群の図にもリンクしながら、理解することを進めたい。

こうした理解は、なぜか西欧では気付かれず、東洋では呼吸法として伝承されてきた知恵が、実は体幹筋群へのアクセスがと気付かされる。
呼吸運動(呼吸法)と体幹運動(太極拳やヨガ等も含め)は表裏一体と理解すべきである。進化的に旧い基盤的生存への運動系であるCPGs(central pattern generators)の一つ、呼吸中枢による呼吸運動が、同じく脊髄のLocomotion(前進運動)CPGs支配下の体幹筋群にアクセスするとも理解できる。

さらにこれらのMMC系体幹筋群は、タイトル図のあるように、somite(体節)として胎児の中で骨・筋・腱の複合構造として一丸として形成される。体幹筋群の運動系として、この複合構造の視点はあまりない。そして呼吸運動がこの複合構造に実際には関与する。東洋系操体の背景にあるDeepBodyである。

謝辞:
このPrologue 2の体幹筋群の名称、位置に関しては、北関東循環器病院・整形外科、西野流呼吸法実践者でもある重田哲哉先生に多々ご教示をいただいた。



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