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こころをからだに繋ぐ呼吸法Bodywork 第二章X 西野流呼吸法「対気」Bodywork X-2:「対気」-自分の身体の感覚を素直に自分の疑問とする-

西欧医学では基本事項が未知領域として残されている

西野流呼吸法は不思議な身体現象である。
西野流呼吸法を習うことを通して、医師である筆者は、むしろその不可思議な現象を説明できない現代医学を外から客観視してきた。
客観視とは、現代医学という、主としてルネサンス期以降の人体解剖、ついで諸臓器生理、ついで生化学、さらに分子生物学という巨大生物学体系に対し、「一体何が欠けているのか?」と問いかける事である。
西欧医学の最先端は必ずしも分子生物学ではないのである。

西野流呼吸法の本質は、あくまで「対気」という「二個体間Signaling」である。一人稽古の基礎Bodyworkは「対気」稽古ための準備・身体開発である。
二個体間Signaling」は日本、東洋において、当初は武道として組み込まれたものと、歴史的には考えられる。その現象が西欧、あるいはイスラム圏ではなぜ気づかれなかったか?あるいは一神教という体系により、表面化しなかったのかもしれない。

中でも西野流呼吸法「対気」は、武道における勝ち敗けなどの付随事象のない、純粋に「二個体間Signaling」を稽古し、相互にnon-verbal communicationができるのが本質的特徴である。医療への応用の可能性がある、と私は予想している。

「対気」はユニークな稽古である。
多くの初心者は、自身の身体が反応するまで時間がかかる。なぜか?考えるべきである。
私自身、2カ月半を要した。その記録は先に記した(リンク)。

この実際に感じる身体内部の反応に関しての医学・運動学的論文、あるいはその記載文献はほぼ皆無である。したがって、「対気」稽古における自分の身体感覚を、意識して記録しておくことは重要である。

自分の中の未知の身体(元型)が反応している

私の場合、「対気」で弾き飛ばされる現象でまず感じたのは、自分の中の未知の身体が反応しているという感覚である。
西野先生の本にも寄稿されていただき、ユングの言葉を用いて、「元型」の身体という言葉で表現している。

自分は一体、身体の中の何を感じているのか?自分の身体の中の「未知の身体」とは何なのか?
その実際がわからないまま、30年が経過した。
努力しなかったわけではない。いろいろと専門研究者に相談もしたが、ヒントらしきものを与えられなかった。
実際の「対気」の動画、例えば「マット登り」など見せると、思考停止というか拒絶というか、以降メールのやり取りがなくなった著名研究者が数名いるのは、先に述べた(リンク)。

「対気」現象を考えるという世界は、そうした既存医学からは答えのない世界である。逆に既存医学からは白眼視される領域でもある。西欧中世の宗教裁判も、現代医学の権威も、未知事項に関してはほぼ同じ態度となる。
むしろ全く新規の医学生理を探索していると覚悟をした方がいい。私はよく、ルネサンス期地動説天文学者ガレリオ・ガリレイらの先例を想う。

考え続けるという、忍耐力が必要である。
その転機となったのは2020年、皮肉にもコロナ流行期、巣籠もり対策のテレビ番組「体幹運動」を見てハッとひらめいた
この「ひらめき」は、自分の中で無意識裏に疑問が継続していたからである。

その経緯はすでに他に記載した通りである(電子ジャーナル呼吸臨床連載第12回(3-1)PDFリンク)。
新規論文紹介としてのGrillnerの脊椎動物「進化」を背景としたMMC/LMC 二系統運動系の総説を紹介した説明である。
「対気」の反応は、日頃「縁の下の力持ち」であり、「抗重力筋群」といわれる、脊柱起立筋肉群が反応していると考えられる。
その気づきのもとには、西野流呼吸法基礎BodyworkとTV番組「体幹運動」の類似性があった。後になって「呼吸と体幹」に気付いている研究者もいることを知った。しかし彼らも必ずしも進化や、MMC/LMC、あるいはCPGという共通の機序にまで気付いているわけではない。

この気付きは、我々の身体形成の時間軸が、単にヒト個体だけでなく、進化という数億年の時間軸を理解する必要性を教える。この身体進化の領域には、まだまだ医学の未知事項が残っている。

このMMC/LMCに関連する筋群は、実際の我々のどの筋肉に相当するのか?
それは偶然にも縁のあった、福島医科大学の本間らの研究を通して理解した。
Primaxial/Abaxial筋群という、脊椎動物進化を背景とする、背側/腹側の体幹筋群の理解である(3回シリーズ第2回リンク)。

手の甲を接して、相互の身体バランスが感取できる、不思議な身体感覚とは?

話を「対気」に戻す。
1990年秋以降、私は西野先生に突然に指示をされ、「対気」で相手にシグナルを送る立場となって、「対気」のもう一面の現象を考えるようになった。
相手にシグナルを送るという生理機構は何なのか?

そもそも現代の生理学では、相手の身体を認識するのは、自分の手で相手を握るとか、極端な場合は武道で見られるように相手を殴るとか、相手の身体との力学的相互性が必要である。

しかし「対気」では手の甲を接しているのみで、相手の身体への働きかけは限られている。一体何を相互にSignalingしているのか?
そしてそれはいかに、相手の中枢である脳に届いているのか?
その求心系が全くわからない。専門用語でいうAfferent系が全くわからない
この点は2022年秋、西野流呼吸法の皆さんへのYouTube講義でも説明した。
(貫和/スライド解説YouTube第2回リンク

その後私は東京から東北大学に移り、西野先生の許可のもと、1993年秋よりほぼ毎週、仙台市民や医学部学生と西野流呼吸法を稽古した。
しばらくすると、手の甲を接した段階で、相互の身体バランスが感取できるという、不思議な自分の体内感覚に気付いた。
いったい、この感覚は何から生まれるものなのか?

相手の全身体イメージと同時に、もちろん自分自身の全身の感覚(身体各位置、力配分等)も感じる。相手のイメージも、例えば身体の上下のバランスなども、自分で感覚できる。
印象的であったのは、当時、東北大学全学講義で西野流呼吸法を紹介し、加齢医学研究所での稽古に参加した一人の学生である。

その学生は、実際に手の甲を接して「対気」を行うと、その身体バランスが非常に低い。
「君は何のサークルなの?」と聞くと、「ライフル射撃部」との答えであった。
ライフル射撃は、自分は実際に経験したことはないが、射撃時の反動に対し、また的を射抜くためにも、自分のイメージは低くというBody awarenessを使って稽古を行っていることは予想される。

こうした経験を積み重ねるものの、その身体感覚の医学生理学がどうなのかは全く見当もつかなかった。自分が感覚している事実を説明できない。現代医学体系の限界である。

ところが2024年、まったくの偶然(synchronicity)で入手した本に、「体部位再現(somatotopic organization)」という言葉を見つけた。
それはCraig ADの“How do you feel?”、日本語訳「我感ずる、ゆえに我あり」という2015年発行の単行本である。(日本語訳は2022年、本表紙写真参照)。

AD Bud Craig著、Princeton University Press、2015.日本訳、花本知子訳、2022.

Craig先生のことは、かつて連載したBody awarenessの説明の中で取り上げて紹介した。単行本と同じタイトルの “How do you feel, now?”という2009年の総説である。この総説はその年のNature Review Neuroscience誌で、最もアクセスされた論文であることも紹介した。(電子ジャーナル呼吸臨床連載第7回PDF、リンク

私はCraigがこうした単行本を書いていたことは全く知らなかった。
残念ながらCraig先生は2023年に神経難病の多発性硬化症で逝去したようである。ネイチャー誌に追悼文が掲載されている(リンク)。
Craig先生の講演はYouTubeで見ることができる。
(リンクhttps://www.youtube.com/watch?v=UlQ4K2KYJ-g

私はしばらくこの本、“How Do You Feel?”、を精読しようと考えている。
「対気」における自分の身体感覚、相互の身体バランスを感取しうる脳科学的説明とは何か?
これは同時に、既存医学では説明できない、西野流呼吸法「対気」を、医学共通言語で語れる可能性がある。

追ってこのnote記事にもその内容・要点を紹介もできると思う。
こうした事情で、当面noteの発信は月1~2度程度になるだろう。
今後とも興味を持ってこのnote記事をフォローいただければ幸いである。


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