「初恋」~ふきのとう(1978年)

 「初恋の人」の定義は、人によって幅があるようだ。
 「初めて恋心を抱いた人」と解釈すれば、早い人なら幼稚園から小中学校にかけて、という人が多いだろう。
 「好きな人に告白して、玉砕した」「告白して両思いになり、初めて付き合った人」と考えるなら、中学・高校、大学という人も多いだろう。

 最近は(というより私が知らなかっただけか?)、「両片思い」という言葉もあるそうだ。お互いに相手を意識して恋心を抱きながら、告白しないまま終わってしまったというケースらしい。

 「初恋」というタイトルの曲はたくさんある。村下孝蔵や松山千春の「初恋」は、私の世代では印象に残っている人は多いと思う。宇多田ヒカルや秦基博などの楽曲も味わい深い。

 その他「初恋」というタイトルではないものの、思春期の恋をテーマにした曲もあり、それぞれのシチュエーションに応じた歌詞が、切なさと、ときめきを音と言葉で紡いでいる。

 ここで取り上げる「初恋」は、 北海道出身の男性2人によるフォークグループ「ふきのとう」が1978年に発表したアルバム「思い出通り雨」に収録されている。「ふきのとう」ファンの間で今でも人気が高い。

 ジューンブライドに嫁いでいく初恋の人。その相手が自分でないことに対する男の失恋の痛みが、B♭のまばゆいばかりのメジャー調メロディーとともに綴られていく。沢田知可子の「会いたい」(1990年)に雰囲気は近い。

 大ヒット曲がないにもかかわらず、「ふきのとう」は18年間、活動を続けた。デビュー曲「白い冬」と1977年発表の「風来坊」、「春雷」(1979年)はヒットしたが、それ以降は1992年に解散するまで、ヒットチャートの上位に食い込むような曲はなかった。

 浮き沈みの激しい芸能の世界でオリジナルアルバムを14枚、ライブアルバムを5枚、発表することができた理由は「アルバムが採算ベース以上に売れ続け、ライブでは彼らのコンサートを楽しみにしている観客が全国にいたから」に他ならない。特に地方ではイベンターの間では「ヒット曲がないのにコンサートチケットが”売れる”」ことが七不思議とまで言われていたらしい。

 彼らの楽曲が終始一貫していたのは、日本各地で暮らす人たちの日常に寄り添うようなメロディーに言葉を乗せたことだと私は思っている。
 四季折々に海や山に吹く風、降り注ぐ日差し、雨や雪、雷。一読すると恋愛や切ない恋心が中心になっているようにも感じるのだが、イントロやエンディングを含めて聴いていくと、作者は曲を作った側が持つ季節感や空気感に深みを与えるための要素として「恋愛」を織り込んでいるように感じる作品が多い(もちろん恋愛や失恋をメインにした楽曲もあるのだが)。
 中にはアルバム全体でテーマを設定し、人の世のつづれ織りを描いたものもある。「人生・春・横断」というアルバムは味わい深いと思っている。

 1950~1960年代生まれの人たちの多くは、ビートルズが「心のアイドル」だったと思うが、私の「心のアイドル」は「ふきのとう」だった。発表されるアルバムはすべて買い求め、解散コンサートで号泣した。必然的に、ここで取り上げる曲のウエートは「ふきのとう」が今後増えると思う。

 些末なことをくだくだ連ねることをご容赦いただきたい。


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