見出し画像

#20 雨下の迷い者たち

「爆破予告はモノノゾの仕業かもしれないよね」
屋上で、テンと顔をあわせた瞬間に、そう答えられる。まるで心よまれたみたいで、ぎくりとした。
「え?」
ていうかなんで、テンも爆破予告について知っているんだ?
「あたしは、この学校の秘密は全部、このウールが教えてくれるからね! 迷い者の情報として、あたしも知っていないとだめなこともあるし!」
そういってウールの頭をなでるテン。ウールは、顔はとっても気持ちよさそうなのに、決して姿勢は崩さなかった。さすが、天ノ宮家の使い魔だ。というより、爆破予告はテンの言っていた迷い者のせいかもよ、というのが伝えたくて来たのに、テンの第一声でもう用事が終わってしまった。
「そうそう、ユウくん。ちょっと、ここのぞいて!」
僕の動揺とは裏腹に、テンは、屋上の端の方にある、かげになっている部分を指さす。その指さす方をのぞいてみると、そこには水たまりがあった。ふつうの水たまりかと思ったが、よく見ると不思議な感じがする。そこが見えないし、雨のにおいがする。それに色も、透明というより、しゃぼん玉色のようだ。毒々しく、虹色に光っている。明らかに、ふつうの水たまりではなかった。
「これの下が、ほら、昨日言った雨下につながってるの。どんな日照りでも蒸発しないんだよ。雨下につながる水たまりができる可能性は、世界中にあるけど、こんなにしっかりした形をずっと保ててる水たまりはここだけじゃないかな。やっぱり、さすが、『天気に一番近い学校』ってかんじでしょ?
それで、雨下の住人にとって、雨上、あたしたちがいる世界は、あこがれだったりもするの。まあ、できるきっかけが、最初に雨の力によってできた竜だったでしょ? でも、実際つくったのは雨上の神様たちだったから、その神様がいた世界ってことで、あがめられたりもしてるらしい。だからそんな雨上で名をはせたい、と思う迷い者も結構いるらしいんだよね。それかもしれない。自分たちから進んでこっちの世界にきて、雨ふらしに見つからないよう息ひそめてるやつらもいないことはないし。でも、迷い者はこっちの言葉を話せるものは少ないから、あんなきれいな日本語使った爆破予告かけないと思うな。だから、協力者がいる」
協力者? と僕は聞き返す。
「迷い者の目的を利用したい人とかね」
テンは笑ってそう答える。まるで、こういう謎解きは初めてではないような口ぶりだ。これまでも、迷い者関連で、そういうことをやってきているのかもしれない。
「ねえユウくん。気づかなかった? あれ、コンサート中止だけが目的じゃないよ。だって、体育館爆破するって言ってるんでしょ? あの爆破予告、中止だけじゃなくて、体育館爆破させることも目的なんだよ」
その言葉に、僕はハッとする。そうか、確かに。僕は無言で、テンの話の続きを促す。
「迷い者と共犯者の目的は最終的には違うだろうね。迷い者は、自分たちの作った最高級の爆破マシンで体育館爆破させて驚かせること。そんで、その共犯者はコンサートを中止にさせること。イズのマシン盗んだのは、いたずらだって思われて、相手にされないことを避けるためだろうね」
でも、それなら何かおかしい気もする。僕はテンにこう意見した。
「じゃあ、その犯人はコンサート中止にしたいためだけになんで迷い者みたいなわけのわからない生き物と協力しようとしたんだろ、って思わないか? 例えば、中止にしないと合唱部員の給食に毒盛るぞとか。その方が簡単じゃん。マシン盗む必要もないし、爆破予告なんてありきたりで、相手にされないかも、なんて可能性も減る。それに、体育館爆破しか書かないなら、外で公演するから大丈夫でーす、みたいな一休さん風な回答もできるってことだろ?」
「そう、そこなんだよね。迷い者は、人間と手を組めてラッキーだろうけど、共犯者の利点って特に思いつかないよね」
そこまでして、迷い者と手を組んでまで、合唱コンサートを中止にしたい人がいるのか。または、ほかの目的があるのか。僕たちはそのまま、考え込んでしまった。とりあえず、コンサート当日に、体育館爆破したいなんていうおかしい人が、この爆破予告の犯人だ。今のとこ、全く見当が付かないが。
「まあ、ユウくんは今週の中間発表会に向けて、やね。明日は明日の風が吹く、やし、がんばって!」
テンの言葉に、僕は苦笑いをしてうなずいた。

この記事が参加している募集

雨の日をたのしく

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?