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文字の編集と声の編集

Webと紙の編集についての比較はよく耳にする。だけど、さらに文字と声の編集の仕方を比較、というのはあまり聞かない気がします。最近、Webと、さらに声の編集をする機会が続き、考えるきっかけになりました。

私はこれまで9年ほど、Webメディアの運営(編集含む)や、Webメディアの立ち上げなどを仕事にしてきました。この5月に会社を辞めて独立し、まだまだ経験は少ないけれど、紙の雑誌でライターとして書く機会も何度か経験しています。

まずWebと雑誌でライティングや編集の仕方の違いを感じて、心地よい混乱というか、新しい学びというか、そんなものを感じて楽しんでいました。たとえば、Webでいえば見出しの付け方は、離脱防止(他のページやサイトに流れずに、きちんとこの記事を読んでもらうための工夫)を考えたり、次のページに遷移して続きを読んでもらうためのクリック誘発などを、考えたりします。常にユーザーの「行動をどう促すか」を考える癖が、頭のどこかに根付いていたような気がします。

ほとんどのWebメディアではCMSと呼ばれる管理画面(ブログの管理画面のようなもの)が入っているので、そのフォーマットに合わせつつ、ページ数や文字数などはある程度融通が効く中で、全体のボリュームを考えていました。どうしてもこの対談記事はボリュームたっぷりに伝えたい、ということがあれば、読みづらくない程度に文字数を増やすことも当たり前にできます。

雑誌のライティングを経験したときに驚いたのは、書くべき文字数の少なさ。見開き2ページの中に決まった枠があって、デザインが先に決まっているから、決められた文字数きっちりに収めなければなりません。ラフからデザインを決めるときに、微調整はしてもらえますが、大幅オーバーはできないという、考えてみれば当たり前なのだけれど、考えてこなかった裏側に直面しました。今まで読者としてしか触れてこなかった雑誌というメディアの、この文字数の少なさと情報量の多さを初めて作り手として体感したのです。見出しだって、「この文字をクリックしてくれ〜!」という念力を込めなくても、すでにページは見てくれている。情報を伝えるための、情報の強弱や目的が、Webと紙でこれほどに違うのか、というのを、恥ずかしながら今さら、身を持って知ることができました。

……という驚きが冷めやらぬうちに、またまた違った「編集」に関して大きな気づきがありました。ある機会があって、先週からPodcast番組の音声編集を何回か担当してみることになったのです。そう、初めての「声」の編集。二人、または三人が話している内容を、切り取ったりしながら繋いでいく。GarageBandというアプリを触るのも初めて、という初心者丸出しな状態でしたが、話し手の言葉を嘘偽りなく紡いでいくというのは、ある意味においては文字の編集と同じです。ただ、なんといってもこれは「声」。笑い声の余韻を不自然でなく繋ぐにはどうしたら良いか。考え込んでいるであろう沈黙の間をどうするか。たとえば、ある沈黙を残せば哀愁が残る、カットすれば賑やかさが残る。

他にも、たとえば、話者が少し言い淀んだり、何度か言い直したりしているところを細かくカットして、文意はそのまま伝わるように繋いだ箇所がありました。繋ぐまでの自分の思考回路を辿ってみると、まず一通り聴くときに、なんとなく頭の中で文字にしています。(おそらく私は文字起こしが得意というか好きで、取材現場で自分の発言が不要な同席のみの場合、その場でほとんどの文字起こしを終えるというようなことも度々ありました。)カットするときは、頭の中でその書き起こした文字を俯瞰して、どことどこを残して繋ぐのかを考えてみる。該当箇所以外の部分は削除していく。「どこを採用するか」を考えるときに文字と違うのは、背景にどんな音が流れているか、声の余韻として前後に何か笑いや悩み声などが入っているか、などを同時に検討材料にするところ。それ以外は、あまり深く考えずとも自然にできたし、納品した際にも「自然で切っていることに気づかなかった」と言ってもらえました。

Webと紙ともに「文字=ビジュアル」で空気を伝える、ということについて考えてきましたが、「声」となると切って良い場所がそもそも変わってきます。切り貼りの仕方次第で、その場の空気感を演出することができるのです。

まだ、1週間で5本の収録分を編集してみただけですが、これはまた私にとって新しい「編集」の考え方が頭にどんどん入ってくるフェーズに突入しそうだ!とワクワクしているところ。なおかつ、Webと紙と音という媒体を横断した編集の経験が、文字起こしからライティングの時の頭の使い方のように、基礎技術として使えた。文字と音の編集を横断するからこそ、見えてくるものがある気がします。今はまだ始めたばかりだけど、横断するからこそ応用できるのはどういうスキルなのか、それぞれの特性はどんなところなのかを、探って楽しんでいきたいと思っています。


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