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土砂降りの沖縄で感じた異国情緒

仕事で沖縄に行く機会が増えて、ここ3年で十数回は訪れた。出張ついでに休みを取ってビーチに行ったり、日帰りで行ける離島まで橋を渡ったりフェリーで行ったり、いわゆる「沖縄」らしい旅は何度も満喫している。

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しかし、中でも印象に強く残っているのは、沖縄にいながら古き良きアメリカを感じた2回かもしれない。

年に5回くらい沖縄へ行くので、那覇には行きつけのバーもできた。現役のジュークボックスが3台あって、邦楽・洋楽どちらも古いレコードが入っている。そのセレクトがとにかく私好みで、いつ行っても何曲か選んで再生させてもらう。

ここのマスターとも顔馴染みになったし、那覇に来る度に必ずこの店に足を運ぶようになった。マスターはガラケーしか使わないし、気まぐれな定休日をオンラインでは確認できない。開いていようと閉まっていようと、足を運ばないとわからない。その不便さもなんだか気に入っている。

一度は東京で、乗っていた井の頭線の目の前のドアが開いたら、そこから派手なシャツを着たマスターが乗って来て、そんな偶然ある?!って思わず笑ってしまった。なんとなく、たまに会う親戚のおじちゃんと姪っ子か何かみたいな距離感が楽しい。

そんな縁もあったりして、沖縄にだいぶ詳しくなった私に、もっと面白い沖縄を案内するよ、と言ってくれた。いつもは25時閉店のバーを24時で閉めて、看板を仕舞う。

店を出て駐車場に行くと、マスターの車はかなり年季の入ったベンツのオープンカーで、オーディオ機器は車の後ろに積んであるんだそうだ。CDを入れるところもなくて、見慣れない機械のボタンを押したらオールディーズが流れる。もちろんナビなんてついていない。

せっかくだからと新しくできたという海沿いの道を走ってくれた。正直、真夜中だから真っ暗で、海なんて全然見えない。風も吹いていない夜だったので、闇夜にうっすら白波が見える、なんてこともない。でもそこに海があるという解放感だけで十分だった。

40分ほど車に乗って向かったのはコザ。何度か「夜に女の子一人で行っちゃいけない」なんてクギを刺されたことがあったので、ちょっと緊張する。しかし駐車場に車を停めて、街に出ると、そこはシャッターが降りた店ばかりで、人通りはほとんどない。駐車場の「YEN ONLY」という貼り紙に、米軍基地が近いことを感じる。

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案内されたオススメという店は「CLUB QUEEN」というところだった。主に米軍の方々向けにオールディーズを演奏するバンドがいて、毎日ライブをしているんだそうだ。その演奏がとにかく上手い、ということで連れてきてもらった。

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最近は24時に米軍の皆さんが帰ってしまうので、日付が変わる頃には街が静まり返ってしまうそう。たしかに、25時近かったこのとき、店内にはお客さんが私たちの他に2人しかいなかった。

私はビールを頼んで瓶のまま飲む。しばらくすると、バンドが出てきた。たしかタイの人たちだとか。店名に相応しくQUEENを演ったり、他にも私はあまり詳しくないけどアメリカの昔のロックをいろいろ演奏してくれた。噂に違わず演奏も歌もうっとりするほど上手い。

古いベンツのオープンカーで来たこと、だだっ広い道にところどころネオンが光っているのに人がほとんど歩いていなかったこと、店内に日本人がほとんどいないこと、ステージの上では英語が飛び交っていることなどが重なって、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の世界に来て過去の世界にタイムスリップしたような気分になった。

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昨今のレトロブームで新しいネオンサインを見かける機会はふえたけど、数十年の間ずっと現役でこのステージを照らし続けているこのネオンはホンモノだな、と思った。色の絶妙な組み合わせもすごくグッとくる。

一通りの演奏が終わると、バンドのボーカルの男性が観客一人一人の席を回って挨拶をする。軽く話して握手だけする。東京でもライブにはよく行く方だけど、こういう空間でこんな真夜中に見たことはあんまりなくて、なんだか気分はもう海外旅行に来たみたいだ。1時間ほどして、また夜風に当たりながら車で那覇に戻って、宿まで送り届けてもらった。

このとき、ちょうど映画『ボヘミアン・ラプソディー』の上映真っ最中だったので、観るなら今だ、と確信した。この余韻に浸ったまま映画を観たい。部屋に戻ったらすぐさま沖縄での翌朝の上映時間を調べた。

帰りの飛行機に間に合う時間の上映は一回しかない。レンタカーがないとちょっとアクセスは悪いけれど、南風原の映画館まで行くことにした。

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昨日の擬似アメリカ旅行気分から抜け出せないまま、周りにショッピングモールしかない映画館にたどり着いた。隣接するゲームセンターは開店前で空いていない。早めについたらやることもない。どんより曇った空模様も相まって、アメリカの片田舎の映画館に来たつもりになる。

上映後、壮大なライブを観終わったような気持ちで外に出たら、さっきまでの曇天が嘘みたいに青空が広がっていた。今思えば私はアメリカに行ったことがないから、本物を知らないので、あくまでも映画やテレビで見たイメージしか頭にない。でもまぁ、知らなくてもなんとなくの雰囲気だけを楽しむのも悪くない。

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ここからは別の沖縄旅行の時の話。
ずっと泊まってみたかったSPICE MOTELというホテルが北中城にある。ようやく予約もできたし、那覇から少し離れても行けるスケジュールを確保できた。

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来る前は青空が広がる南国リゾートを想像していたけど、あいにくの天気。それでもカラフルな色合いの宿にテンションが上がる。

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駐車スペースと直結している部屋もあるけど、このときは別の部屋にした。部屋とは別に、ガレージに置かれた椅子やテーブルを自由に使える。少し仕事が残っていたので、PCを使える場所を探したら、ラウンジが気に入った。

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溜まっていたメールを返し終えて、またホテルの館内を探検する。屋上に上がってみると、曇天と生い茂る緑の向こうにうっすら海が見えた。

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部屋に戻って、ベッドサイドに置いてある古いラジオをつけてみる。電源を入れると選局はAFNに合っていて、高校時代に夢中で聴いていたGREEN DAYやLINKIN PARKが流れ始めた。

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夜になってお腹が空いてきた。この宿にはレストランはついていないから、どこかに食べに行こうと思う。気になっていたダイナーが近くにあるけど、窓を開けると外は雨。歩いて行けたらお酒も飲めるのに......と思いつつ、どんどん強まる雨足に怯んで、結局短距離を車で移動。朝ごはんが有名なThe RoseGardenでディナーにする。

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入ったときにはがらんと空いていたけど、気がつけばすぐに満席になった。店員さんもお客さんも、英語を話す人がほとんどで、日本語はあまり耳に入ってこない。

暖色系の照明で優しい雰囲気の店内とは対照的に、外では雷鳴が轟いている。サスペンス系のハリウッド映画でよくないことが起きる少し前の平和なワンシーン、みたいな店内と外のコントラストに、妙にワクワクしてしまう。

ディナーのコースを頼んで、ついでにペリエも注文したら、コースにアイスティー(飲み放題)が付いていた。

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前菜からメインまでずっと美味しくて、一人でごはん食べながらニヤついてしまうほど。最後のデザートは、アメリカのおばあちゃんが作ってくれたおやつ、みたいな優しくて懐かしい甘さだった。すっかり満腹になって、もう今日は寄り道せずおとなしくホテルでのんびり過ごそうと決める。お腹いっぱいすぎて、ゴロゴロ寝っ転がりながら映画でも見たい。

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レストランを出る頃には豪雨が極まって、さっきまで普通に歩いていたホテル前の駐車場は波打つほどの雨量。傘も意味をなさない。車で息を整えてから、入り口まで一気に走り抜ける。びしょ濡れで部屋に戻ってそのままシャワーを浴びてベッドにダイブする。

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もう今日は外出しないと決めたので、ようやくお酒も飲める。買っておいた瓶のオリオンビールは、部屋の洗面台近くの壁に固定された栓抜きで開ける。アメリカの退廃的なモーテルにはなぜか憧れがあって、それは高校生や大学生の頃に夢中で見た映画『パルプ・フィクション』や『バッファロー’66』にそんなシーンがあったような気がするから。

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結局、部屋の照明を落とし、PCで『パルプ・フィクション』を見始める。時折、窓の外からは雷鳴が轟く。雨音も凄まじい。なんでかわからないけど、今まで何度も見てきた『パルプ・フィクション』の中で、一番楽しい。

せっかくの旅先で映画を見るなんて勿体ないと心のどこかでずっと思っていた。けれど、雰囲気とか状況とかいろんなものが重なると、日常生活を送る街で見るよりずっとしっくりくることがある。沖縄の異国情緒のせいで、そんな気持ちに拍車がかかった。

「この旅先で映画を見るなら何が良いだろう」なんて想いを馳せるのも新しい楽しみ方なのかもしれない。

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