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書評

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ヨミタイモノ、ココニアリマス。
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記事一覧

早川義夫『海の見える風景』

「一年前、妻が癌になって初めて、そばにいてやりたいと思いました。しい子は3月28日に亡くな…

既視の海
5日前
19

アントワーヌ・コンパニョン『寝るまえ5分のモンテーニュ 「エセー」入門』

アントワーヌ・コンパニョン『寝るまえ5分のモンテーニュ 「エセー」入門』を読み終える。も…

既視の海
8日前
16

言語は人生を変えるのか。物語も人生を変えるのか。

ある詩集をもとめて、独立系書店をさまよっていた。書名とたたずまいに惹かれて手に取ったのが…

既視の海
2週間前
16

四元康祐『偽詩人の世にも奇妙な栄光』

書けない苦しみ。溢れ出る驚き。 のちに偽詩人と呼ばれた吉本昭洋は、いずれも味わった。詩人…

既視の海
2か月前
19

アゴタ・クリストフ『文盲 アゴタ・クリストフ自伝』

『悪童日記』三部作を読み、著者アゴタ・クリストフが、母語ではないフランス語で書くことの意…

既視の海
5か月前
24

アゴタ・クリストフ『第三の嘘』

少し感傷的になりながら、アゴタ・クリストフ『第三の嘘』を読む。『悪童日記』『ふたりの証拠…

既視の海
5か月前
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アゴタ・クリストフ『ふたりの証拠』

いてもたってもいられず、アゴタ・クリストフ『ふたりの証拠』を読む。『悪童日記』の続編である。 第二次世界大戦中におけるハンガリーらしき国のはずれで、厳しい祖母のもとに疎開してきた双子の少年たちがしぶとく生き延びるさまを描く『悪童日記』。主観をいっさい交えず、見たこと、聞いたこと、実行したことを、ありのままに記す。感情を示すことばは漠然としているので、物事や人間についての事実だけを忠実に描写するという「作文」の作法にのっとり、断章とまではいかないものの、60余りの掌編で描かれ

アゴタ・クリストフ『悪童日記』

読む本は、いつもゆくりなし。 先日来、「いま読書中」「一番の偏愛本かもしれない」という声…

既視の海
5か月前
17

Luis Poirot “NERUDA: Retratar la Ausencia”(パブロ・ネルーダ写真集)

1971年、ノーベル文学賞の受賞記念としてパブロ・ネルーダの自宅で開かれた夕食会。そこに招か…

既視の海
5か月前
26

ロベルト・アンプエロ『ネルーダ事件』

「ネルーダ週間」も終盤にさしかかる。映画を観たり、詩集を読んだりしながら、参考文献を紐解…

既視の海
5か月前
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『松本竣介 線と言葉』を読む。尾形亀之助詩集『美しい街』の挿画で知る。『運河風景』『並木道』に圧倒される。自分の眼で観たい。「戦争を描いても裸婦を描いても林檎を描いても画家の目が、厳然として永遠なものにつながってゐるか否かゞ大切だ」という言葉は文章や詩でも通じる。次は評伝を読む。

既視の海
7か月前
10

惣田紗希『山風にのって歌がきこえる 大槻三好と松枝のこと』を読む。昭和初期、歌人の男と女が愛し合い、結婚。子をもうけるが妻は逝く。その軌跡を詠んだ2人の生活歌に端正なイラストが添えてある。「束ねるにまだちと早い濡髪を 暫し吹かせる川風 のよさ」柄にもなく、読み終えて少し 泣く。

既視の海
7か月前
7

小説・辻邦生、銅版画・山本容子『花のレクイエム』を読む。毎月一つの花を主題にした文学と銅版画の交歓。死が分かつ切なさを書いた短篇が多い一方で、銅版画は抑えられた色彩でも華やかさがにじむ。打ち合わせなしで臨むがゆえ起こる共鳴とずれのいずれも心地よい。お気に入りは五月のクレマチス。

既視の海
6か月前
9

アントワーヌ・ローラン『ミッテランの帽子』を読む。さえない会計係、不倫中の作家の卵、スランプの調香師、時代遅れの資産家が次々と仏大統領の帽子を手にして運命を変えていく。洒脱な筆運びと固有名詞、歴史的事実で具体、具体とたたみかける。登場人物も読み手もみな幸せな気分になれるのがいい。