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書評

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ヨミタイモノ、ココニアリマス。
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#推薦図書

内田百閒『冥途』 金井田英津子・画

あまり熱心な読者ではないけれど、内田百閒が好きだ。 何度も繰り返して読んでいるのは「阿房…

既視の海
8か月前
21

大谷崇『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』

ある写真家についての随筆を読んでいたら、その写真家の思想はシオランに通じるという。 シオ…

既視の海
9か月前
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想いを「書く」とはどういうことか——まはら三桃『思いはいのり、言葉はつばさ』

拝啓 あまりの暑さに茫然としているうちに、7月も終わろうとしています。御身体の具合はいか…

既視の海
10か月前
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尾形亀之助『美しい街』を読む。尾形亀之助は初めてではないにせよ、詩集としてまとめて読むと、後頭部をガツンとなぐられた気分。こんなに短く身近な言葉だけで、心情も情景も余韻も表わせるなんて。いたずらに長く難解な現代詩とはまったく別。松本竣介の絵もいい。まだ胸のどきどきがおさまらない。

既視の海
10か月前
13

ご安心ください。上橋菜穂子『精霊の守り人』・「守り人」シリーズは、いわば「徹夜物語」。次から次へと読み進めたくなるので、朝は目を赤らめたり、1日1冊ずつ購入したり、続きの在庫がなくて地団駄を踏んだり。徹夜小説・徹夜マンガは全巻購入してから読み始めるのがいいと、バルサに学びました。

既視の海
11か月前
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梨木香歩『冬虫夏草』を読む。『家守綺譚』の続編。行方知れずとなった愛犬ゴローを探しに、文士然としてきた綿貫征四郎が鈴鹿山中をめぐる。その地ならではの暮らしを守る人や人にあらざる者との交歓が胸にしみる。ことばの使い方も魅力的。本を持つ左手が薄くなりゆくのが切なく惜しく感じた。

既視の海
1年前
6

語り得ない言葉を、読む——梨木香歩『家守綺譚』、山本昌代『応為坦坦録』

拝啓 葉のうえにそそぐのが霖雨ではなく沛雨であることにため息がこぼれます。折節の移ろいは、もはや来し方の趣なのでしょうか。 向田邦子が「う」の抽斗を大切にしていたように、あなたも大きな「お」の抽斗をお持ちのようですね。ただ、書評というには身構えて、読書感想文には想念多く、推薦図書も出たとこ勝負、ならば読書日記にしてしまえ。誰でもすなる日記といふものを、われもしてみむとてするなれば、継続こそが力なり。 約150日分、すべて拝読しました。それで、あなたが高原英理『詩歌探偵フ

池田晶子『残酷人生論』を読む。言葉、神、死、魂などを主題に「哲学する」すなわち「考える」ことへの旅へといざなう。1995〜97年の雑誌連載なので、彼女の思想がまだ整理し切れていない部分もある。人生なんて残酷さ、甘く見るな、という書ではない。なぜ「残酷」なのか考えるのもおもしろい。

既視の海
1年前
13

池田晶子『14歳の君へ どう考え どう生きるか』を読む。幸福とは何か、なぜ人は戦争するのか、言葉の力とはどのようなものか、哲学という言葉や術語をまったく使わず語りかける。これぞ哲学エッセイであり、池田晶子エッセンス。受験には役立たないが、人生には役立つという言葉に偽りはない。

既視の海
1年前
8

ティリー・ウォルデン『are you listening? アー・ユー・リスニング』

ティリー・ウォルデン『are you listening? アー・ユー・リスニング』を読む。 伯母の家にク…

既視の海
1年前
5

小島一郎『津軽』詩・文・写真集

石坂洋次郎編『津軽』(方言詩・高木恭造、文・石坂洋次郎、写真・小島一郎。復刻版) を手に…

既視の海
1年前
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ひとつの瞬間は永遠になりうる——ローベルト・ゼーターラー『ある一生』【書評】

1931年の冬の日、オーストリア・アルプスの麓で、壮年のエッガーはふとした予感から、山小屋で…

既視の海
1年前
6

福永祥子『立方体の空』

福永祥子詩集『立方体の空』を読む。 瑞々しい言葉と懐かしさを覚える言葉が混ざり合い、不思…

既視の海
1年前
5

はじめての小林秀雄

「批評の神様」とよばれる小林秀雄を読んでみたい。しかし、レトロな表紙の文庫本『モオツァルト・無常という事』は何だか難しそう。大学入試センター試験で読んだ批評『鐔』はチンプンカンプンだった。それでも、何だか気になってしまう。 なぜ小林秀雄に惹かれるのか。歯に衣着せぬ物言いでバッサバッサと対象を斬り、飛躍した論理も何のその、高尚な逆説は小気味よく、あまり意味は分からないけれど、どこか分かったつもりになってしまう。そんなカタルシスを感じたい。かつては、そういう読者も多かったという