命の水の、ビシソワーズ。
結婚してまもなく長男をみごもった。
30歳になったばかりだったから、年齢的には喜ぶべきことなのだが、うかつにも予想していなかったので戸惑った。心の準備も覚悟もないまま、すぐに悪阻がはじまった。いわゆる吐き悪阻で、なにを食べても吐いた。一番きつかったのは、ある日突然、トマトソースのにおいがまったくダメになってしまったことだ。
当時、百貨店の宣伝課でコピーライターをしていた。阪神・淡路大震災から一年半ほどたったころで、急ピッチで復興は進んでいたが、事務所が入っていたビルは建て直