花吹雪のアサシン。(#シロクマ文芸部)
花吹雪と呼ばれる男がいる――。
薄れゆく意識の海で李浩然は、裏社会の伝説を十数年ぶりに思い出した。
千の顔をもち年齢不詳、姿すら誰一人まともに見たことがない。風に乗って現れ、花吹雪のごとく風に消える――伝説のアサシン。男かどうかも定かではない。何しろ誰も正面から見たことがないのだから。わかっていることは、美しく殺してくれる、ただそれだけ。死の瀬戸際に、舞い散る花吹雪のなか遠ざかる背を目にするといわれているが、野辺に打ち捨てられ死にゆく者が最後に見た光景を誰が知るというの