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シロクマ文芸部 課題作品

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シロクマ文芸部の課題で作った小説などを編集したマガジンです。
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記事一覧

春の夢釣り(#シロクマ文芸部)

 『春の夢』と銘のついた掛け軸を一幅うっかり購うてしもうた。  笑止千万、不覚千万、前後…

deko
9日前
62

花吹雪のアサシン。(#シロクマ文芸部)

 花吹雪と呼ばれる男がいる――。  薄れゆく意識の海で李浩然は、裏社会の伝説を十数年ぶり…

deko
2週間前
87

玉むすび(#シロクマ文芸部)

 朧月が蒼天に白くにじんでいた。  戎橋の欄干に背を預け、数馬は道頓堀に目をやる。北岸に…

deko
1か月前
82

万年、どこの夢(#シロクマ文芸部)

 布団から芽が出ておった。  文字にすればそれだけか、つまらぬの。   締め切りの迫った…

deko
3か月前
72

オールドウィッチの化粧水(#シロクマ文芸部)

「雪化粧水を……ください」  ガラン、ガラン。  錆びた音を立ててドアベルが揺れた。  そ…

deko
3か月前
93

福神づけ(#シロクマ文芸部)

 新しい寸動鍋を難波の道具屋筋で買うたら、グリコのおまけみたいに付いてきてん、神様が。 …

deko
4か月前
109

海とメロンパンとヒダカさん(#シロクマ文芸部)

「最後の日ですからね」とヒダカさんがいう。  ヒダカさんは黒いビロードの毛並みが美しいくまだ。胸のデコルテに銀色の細い三日月をぶらさげている。  海に面した高台にある古い鉄筋コンクリート造のアパートの二〇七号室。そこはヒダカさんの夏の別荘のひとつで、他にもいくつか別荘をもっている。夏の別荘というけれど、例年、夏の終わりから十二月の末頃までいる。 「くまって、あんがい裕福なんですね」というと、小さな目をめいっぱい見開いてしばらく考えこみ、「ひと所に長くいると危険ではないのです

帰蝶(#シロクマ文芸部)

「振り返るなど胸糞悪いわ」  眼前の敵を槍で突き、背後で剣を振るう蘭丸に信長は吐き捨てる…

deko
4か月前
82

ガトーじい(#シロクマ文芸部)

「ありがとう。いい天気ですな。お達者で」  冬空をかさかさ擦る調子っぱずれの声が、通りの…

deko
4か月前
67

ちいさひこ(#シロクマ文芸部)

「冬の色即是空を探しているんですよ」 「えっ?」  ぼくの声が、この冬いちばんのからっ風に…

deko
5か月前
73

十二月屋(#シロクマ文芸部)

「十二月屋はまだじゃろか」  ちりん。  片付け忘れた軒先の風鈴が鳴った。  文机にひじを…

deko
5か月前
57

詩と暮らす(#シロクマ文芸部)

詩と暮らす 朝露に硝子の首飾りをかける蜘蛛の巣は 籬の茂みで、東雲のうすくめざめる時を待つ…

deko
5か月前
74

夢のあとさき(#シロクマ文芸部)

 ――『逃げる夢の法則』というのを知っているかね。  消えかけの燭台の炎のような声が、店…

deko
5か月前
61

誕生日を盗め!(#シロクマ文芸部)

「誕生日を盗んでいただけないかしら」  マイアミのビーチに面したカフェで、リックはジョッキを手に、行き交う極彩色のビキニの肢体に目を細めていた。麦の液体で喉をうるおしながら小麦色の肌を眺める至福。惜しみなく降りそそぐまばゆい太陽。天国はここにある。ニューヨークでひと仕事をこなしたリックは、バカンスを楽しんでいた。恋人のミアも連れてきたかったが、「ごめんなさい。締め切り前でお休みがとれないの」と、ひどく残念がっていた。中堅どころの出版社で駆け出し編集者のミアは、ろくに休みもと