『自己の放し飼い』

 ある短歌賞に送っていないも同然の連作です。



表裏それぞれに「天使」か「屑」と書き人と会うとき財布から出す

怒らせた上司に叱られることに不満を抱く放し飼いの自己

雑談もソシャゲもしない僕だけが、あの隕石に気付き、逃げられる。

研ぎ澄ました誠意の剣で斬りつけろ客の笑顔は傷と捉えろ

居眠りをしているだけの中年が詩人に悲劇の素材にされる

なぐさめに買ったアイスの底面に、疲れた僕がまだ凍ってる。

天井をじっと見つめて、ないはずがないギロチンに処されてから寝る。

現実に準拠している夢世界つまり苦しみ起きて働く

偽の子の電話で頭が真っ白になる人たちに愛されている

網膜に映る肌色の部分が現実にいて人間らしい

内ポケに忍ばせていた安心を見咎められて連行される

意識せず手を物騒に象って観光バスのタイヤを狙う

「虹彩が曇りガラスでできてる」と著名な医者が言ってくれれば

してはいけないことをして悔しがる以外にできることが何もない

供述が茶の間の皆に笑われて数え切れない敗北をする

突き立てた社会に怒りは染み込まず刃先が欠けてこぼれるだけか

誰ひとり刺せずに前科だけもらい幸運だとも気づいていない

言い訳にしたくて受けたうつチェックテストに聞かれる「性欲はある?」

花は咲かないし実も成らないままでやさしい人に片付けられる

パソコンの前でなんにもしていない知らない人よ幸せになれ

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