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九州大学大学院での「UI/UXデザインクラス」を振り返る

みなさん、こんにちは🙋‍♀️
DeNAデザイン本部です。

九州大学 大学院芸術工学府 ストラテジックデザインコースにおいて、DeNAデザイン本部が開講した「UI/UXデザインクラス」は、予定通り昨年12月に全8回の対面講義を終えました。DeNAデザイン本部にとっても、ある意味チャレンジだった今回の取り組み。学生からの評判は上々だったとか。

前回の記事では、1回目の講義を終えたタイミングで関係者にインタビューを実施しました。

そして今回は、前回同様、すべての講義に立ち会った九州大学の杉本美貴准教授、カリキュラムを監修したデザイン本部エクスぺリエンス戦略室長・眞﨑達也、講師の同副室長・小原大貴の3名に振り返りインタビューを実施。講義の内容や学生の様子、得たもの、感じたことなど、余すことなく語ってもらいました。


全8回の講義を終えて、それぞれの感想

――全8回の講義を終え、まずは率直な感想をお聞かせください。学生の反応などはいかがでしたか?

杉本:絶賛の嵐です(笑)。とにかく内容が充実していて、とても良かったと。UI/UXデザインの現場で実際に行われているプロセスを1つ1つ丁寧に教えていただけて、とても濃密な講義でした。

それと、講義の時間以外でのフォローもすごく手厚かったんです。Slackに課題作成のための参考事例をポストしていただいたり、Zoomで学生たちのマンツーマン相談に乗っていただいたり。何もかもが、ありがたかったです!

小原:そう言っていただけると嬉しいです(笑)。

――DeNAの2人はどうでしたか?

小原:単純に、教えていて楽しかったです。講義の内容を自分たちなりに噛み砕いて、課題に反映させようとする学生の姿勢には感心しました。毎回の課題もみんなきっちり提出してくれていましたし、慣れないながらも「ちゃんとついていこう」という意欲を感じました。 

眞﨑:みんな真面目だし、取り組み方も良かった。UI/UXに興味のある学生ばかりだったから、密度濃く進行できたと思います。

これまで行っていた「1dayワークショップ」よりもしっかりと時間を確保できたことで、体系立てて講義することができました。ものづくりで一番大事なのは、現状をちゃんと把握して取り組むところなのですが、これが手を抜きがちなポイントでもあるんです。そこからしっかりやっていくんだよっていうのは伝えきれたかな、と。

杉本:ただ、内容がすごく濃かった分、宿題の提出が学生にとっては大変だったようです。DeNAさんの講義はフォローが手厚い分、宿題の量も多くて(笑)。他の講義でも提出物を課されますから、履修状況によっては宿題を大量に抱え込んでオーバーワーク気味になっていた学生もいました。

眞﨑:そこは想定外でした(笑)。イメージしていたより他の科目での宿題が多くて…。僕らも気にせずバンバン出していたので、ハードに感じていた学生はいたと思いますが、みんな本当によく対応してくれました。

身近な課題の解決をテーマに、ワークショップとフィードバックを繰り返す

――ここからは講義の内容について伺います。前回のインタビューでは全8回の講義のうち、前半は課題テーマに対して企画を練る時間、後半は手を動かしての制作作業、とおっしゃっていましたね。

1. イントロダクション、課題テーマ選定(学内での情報流通)、ユーザーリサーチ手法紹介
2. ペルソナ・AsIs体験のモデリング
3. ソリューション案、ToBe体験のモデリング
4. プロトタイピングでクイックにソリューションを検証する
5. UIツールの学習
6. ポートフォリオの学習
7. プレゼン資料準備
8. 最終プレゼン、リフレクション、フィードバック

小原:まず、「学内での情報流通を最適化するUI/UX」をテーマにしました。例えば「授業の情報」にフォーカスすると、数ある履修可能な授業の中でどの授業の課題が大変かだったり、その授業をとった先輩がどのような会社へ就職したかなど、サークルの先輩から後輩へ受け継がれるような、知る人ぞ知るアンオフィシャルな情報が学内には流通しています。

そして、さまざまな立場の学生がいる中で、誰もがそのような有益な情報に平等にアクセスできるわけではない、というような課題が結構あることが分かりました。

そこで、前半4回をプランニングとリサーチのパート、後半4回を制作のパートに分けて課題解決に取り組みました。

講義の目標の1つが「ポートフォリオの作成」で、最終日はそのプレゼンにあてていたので、そこに向けて前進していくためのカリキュラムを設計し、各テーマに沿った宿題を毎回出しました。初回は、想定カスタマーへのインタビューと価値マップの提出。2回目はペルソナ、カスタマージャーニーの設定。3回目はリーンキャンバスやストーリーボードの作成、といった感じです。

提出物は毎回の講義の中で発表し、それに対してこちらからフィードバックを入れる、というスタイルで進行しました。講義内では基本的にフィードバックとワークショップのみ。手を動かしたりインタビューに回ったりなどの企画・制作に関しては、すべて講義外の各々の時間でこなしてもらいました。

――全8回の中で、特に印象に残った講義はありますか?

杉本:毎回新しいインプットがあるので、すべての回が面白かったです。中でも特にすごいな、丁寧だなと感じたことがあって。

小原さんは当然毎回いらっしゃるんですが、講義ごとに、その内容に通じたプロフェッショナルな社員の方が登壇してくださるんです。Figmaが得意な方、デザインボードが得意な方など、そのプロセスにあったデザイナーの方々を毎回連れてきていただいたのは、本当に贅沢だなと思いました。

小原:僕よりもその道のプロフェッショナリティを持った人材が社内にいますし、彼らが直接教える方がいいですから(笑)。そういえば、Figmaの回は先生も一緒にレクチャーを受けられてましたね。

杉本:私もFigmaを覚えたいなと思って(笑)。あれ以来、私のゼミでは発表にFigmaを使う学生が増えたんです。それまではPowerPointやKeynoteが多かったので、目に見える変化としてはすごく大きかったですね。

小原:おお、早速使ってくれてるんですね!僕が印象に残っているのはアクティングアウトの回です。プランニングの取り組みの一環で、UXを考える段階でそのUXを寸劇というかコントみたいな感じで表現する手法なのですが、テーマが抱えている問題をライブで膨らましていけたのは良かったなあ、と。

アクティングアウトの様子

――この手法は、DeNAの制作現場でも実際に取り入れているのですか?

小原:はい。コミュニケーションが主軸にあるサービスなどで行っています。プロダクトに新機能を実装する際、その使用が想定される現場に行ったりしてカスタマージャーニーを再現し、そこから生じる⾏動や感情を確認するための方法です。

UI/UXデザインとは、サービス体験(UX)と、その体験を実現する仕組みにアクセスするインターフェース(UI)を作り上げる仕事です。まずは課題に対してどんなUXを提供すればいいのか、その仮説を立てるために、ユーザを理解しながら実現可能なストーリーを構築することが第一歩。

それを自身で体験してもらうためにも、アクティングアウトは取り入れたかった。実践するにはそれなりに時間を割かなければならないので、「1dayワークショップ」で行うのは難しいんです。帯での講義だからこそ授業に組み込めた手法ですね。

デザインを組み立てる流れを体験し、ポートフォリオの作成・発表へ

――講義の目標を2つ掲げていましたが、まず1つ目の「ポートフォリオの作成」について、どのように評価していますか?

小原:まず、ポートフォリオ制作の流れを作ることができたのは、1つ成果だと思っています。どんな課題があり、誰にリサーチをし、どういう体験を設計してアウトプットにこぎつけるのか。デザインを組み立てるストーリーを、全員がそれぞれ作り上げることができました。これが成功体験として、自信になってくれるといいな。

眞﨑:うん。「企画からアウトプットまで一貫して作る」というところの実績は残すことができたので、そこは良かったと思います。テーマに対してどういうコンセプトのもとでどんな解決策を用意するか、学生それぞれで異なるものが出てきたのも興味深かったです。

――最終回はポートフォリオの発表会でしたが、この時の様子についてお聞かせください。

杉本:講義の中で私が最も印象深かった回は、最終回です。学生8名に対して、15名ほどゲストがいらして。DeNAさんからは7〜8名お越しいただいたのですが、それ以外に、地元福岡の企業の方にもご参加いただきました。

小原:眞﨑から企業さんにお声がけしたら、みなさん「参加したい」とおっしゃっていただいて。結果、ギャラリーの人数が学生より多くなってしまいました(笑)。

――そんなにですか?学生さんにとっては、なかなかのプレッシャーだったのでは…?

杉本:大学に来てからは私もなかったですからね、そういう経験(笑)。企業との産学連携をする場合でも、発表時の先方の参加者は4〜5名です。とはいえ、ざまざまな講評をいただいて、学生には刺激になったと思います。

眞﨑:確かにあの人数は緊張を強いることになってしまったかも(笑)。でも、総じてプレゼンのクオリティは高かったですね。

小原:どの学生もみんなプレゼンが上手で、話し慣れてるなと感じました。社会人より上手いんじゃないか、ってくらい(笑)。そもそも情報のインプット・アウトプットがスムーズなのは、講義を通じて感じていました。議論する機会も度々設けましたが、みんな理路整然としているし。

――地元企業の方からはどのような感想を?

眞﨑:参加いただいた企業のご担当者からは、次のような感想をいただきました。

学生のみなさんが課題定義からソリューションまでをしっかりと組み立て、シンプルで分かりやすい発表内容にまとめていることに驚きました。そして、ポートフォリオも実用性の高いものや、個性溢れる可愛らしいものまで多岐にわたっていて、たくさん刺激をいただきました。(株式会社みんなの銀行)

まず、そもそもUXを学ぶクラスに参加している時点ですごい!社会課題に対する感度や需要を見極める力をすでに持っているんだなと思います。発表は良くも悪くも学生らしいものでしたが、これからさらに興味関心を深めて、それを実践できるスキルとして自分のものにしてほしいです。(株式会社ディーゼロ)

講義終了後も続くフィードバック。そして、来期の開講も決定

――「UI/UXを独学できる力をつける」という目標についてはいかがでしたか?

杉本:UI/UXデザイナーになる・ならないに関わらず、今回の講義にはUI/UXの考え方やスキルを身につけたいと考える学生が参加していました。そもそもUI/UXを体系的に教える授業が九州大学にはなかったので、受講した学生にはその下地が確実にできたのを感じています。

小原:UI/UXへの興味の度合いで独学への熱量は高低あると思いますが、自力で学習するにあたって初速を出すためのポイントは伝え切ることができたと思います。ここからさらにいろんなものを吸収して、今後のものづくりに活かしていってもらえると嬉しいです。

杉本:実は、講義自体は終了しましたが、何人かの学生は制作したポートフォリオをブラッシュアップして、今も小原さんに見ていただいているんです。

眞﨑:最後の発表会でもらったインプットを反映させて、送ってきてくれたんですよね。

小原:他の講義での課題も抱えて、時間に余裕がない中で制作していた学生も多かったので、アフターサービスじゃないけど、提出されたものに関しては引き続きフィードバックをしています。確実にクオリティが上がっていて、成果を感じますね。

――この「UI/UXデザインクラス」は来期の開講も決定していると聞いています。

杉本:そうなんです。今回はカリキュラム変更のタイミングで滑り込みだったのもあって秋学期開講でしたが、就活を考えると春がいいなと。ですので、次回は春学期開講でお願いしました。ポートフォリオを作成し、さらにブラッシュアップしたものを夏のインターンシップに応募させてもらう、という流れが学生にとってはベストかなと思いまして。

杉本美貴 准教授

――4月スタートということは間もなくですね。内容はすでに決まっているのですか?

杉本:基本的にはDeNAさんにお任せしていますが、九州大学はグラフィックやスタイリングをガツガツやるよりも、コンセプトやUXを考えるのが得意な学生が多い傾向にあります。そこをもっと強化してあげると、学生もより伸びるんじゃないかと。そういう観点で授業を進めていただければ、というお話をしました。

眞﨑:基本的には今回の内容をなぞった形になりますが、ヘビーに感じていた学生が多かった反省を踏まえて、課題は少し軽くするつもりです(笑)。

小原:次回は、若者ならではの柔軟なアイデアが出てくるような、アブストラクトなテーマにしようかなと考えています。あとは、最後のUIのアウトプットに繋がるようなことを最初の段階で何かしらの形で出すようにし、ポートフォリオの作成をスムーズに進行できるように検討中です。

――次はどんな講義になるのか楽しみですね。

眞﨑:そうですね!僕らの目的はあくまでデザイナーの仲間を増やすことなんです。IT業界は比較的、人が集まってる方だと思いますが、非IT業界でもUI/UXデザイナーのニーズが増えていて、全体の母数も志望する人も圧倒的に足りないのが現状です。

「UI/UXデザイナーを志す学生を1人でも多く育成したい」。そんな想いで、DeNAは以前から全国でワークショップを開催していましたが、今回のように帯で時間をいただき、体系立てて講義を行うのは初めてでした。

僕らにとってもチャレンジでしたし、理解ある先生と一緒に進めることができ、とても意味のある第一歩になったと感じています。これが1つのモデルケースとなって、現場の実践知を広げようとする活動が活発になると嬉しいですし、そうなることを期待しています!

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