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ナンマイダ・ナンマイダ 踊念仏の記憶

 これは宗教的な話ではありません。子供の頃の、ちょっと不思議な体験談です。

 小学生の低学年の頃は、同級生の男の子・ケンちゃん(仮)の家によく遊びに行っていました。ケンちゃんの家は畳屋で、ケンちゃんのお父さんが経営していました。ケンちゃんにはお姉ちゃんがいたので、4人家族だとずっと思っていました。

 ある時、ケンちゃん家で遊んでいたら、ケンちゃんが「お小遣い欲しくない?」と言い出しました。急にお小遣いとは、どんな話なんだろうと、よくよく聞くと、ケンちゃんのお婆ちゃんの部屋で念仏を唱えるとお小遣いがもらえるというのです。ケンちゃん家にお婆ちゃんがいることは、その時初めて知りました。

 「怪しい話だな」とは思いましたが、お小遣い欲しさにケンちゃんに付いて行きました。ケンちゃん家は結構広くて、表が畳屋の店舗兼作業場、奥が家族の住居になっていました。店舗から住居に行く間には、中庭があり、そこには手押しポンプの付いた井戸がありました。ケンちゃんに、その中庭に隣接した小さな一室に案内されました。恐る恐る入ってみると、お婆ちゃんが布団に寝ていました。枕元には、立派な仏壇が置いてありました。

 お婆ちゃんは元気でしたが、足腰が弱っているらしく、一日の多くをこの部屋で過ごしているようでした。事前のケンちゃんの指示通りに、「ナンマイダ、ナンマイダ」と元気に唱えながら、お婆ちゃんが寝ている布団の周りを踊りながら回りました。2-3周で終わったので、時間にすれば1分もかかりませんでした。

 この踊念仏(?)が終わると、お婆ちゃんが「ハイハイ、ありがとう」と言って、初対面の私のことを怪しむ素振りもなく、ケンちゃんと私に20円ずつお小遣いをくれました。当時は、10円あれば駄菓子屋で色んなものが買えましたから、こんなにもらっていいのだろうか?、と不安に思いました。ケンちゃんは慣れているみたいで、お小遣いをもらうと、「じゃあね」といってお婆ちゃんの部屋から、そそくさと出ていきました。私も急いで、後に続きました。

 なんかお婆ちゃんを騙しているみたいで気が引けましたが、ケンちゃんは一向に気にしません。その後は、「お菓子を買いに行こう」と言うケンちゃんと一緒に、近所の駄菓子屋で20円分の買い物をしました。いつもは10円が当たり前でしたから、20円はかなりの贅沢でした。でも、後ろめたい気持ちがあるので素直に喜べませんでした。

 ひょっとすると、ケンちゃんのお婆ちゃんには、少しボケの症状があったのかもしれません。今でもこのことを思い出すたびに、後悔の気持ちでいっぱいになります。

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