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Experience Designで世界に出ようぜ

はじめまして。Dentsu Lab Tokyo(DLT)でクリエーティブ・テクノロジスト兼グローバル・ビジネス・リードという肩書でやっている眞貝と申します。
二つ目の肩書何?って感じですよね。簡単に説明すると、DLTの活動を海外に広げていくための発信や案件開発の推進を担う、という感じです。本来であればDLTが所属している電通ジャパンネットワーク(DJN)は電通グループにおける国内事業を担う組織なので、海外での仕事を作るというのはスコープからはみ出ているのですが、テクノロジーを用いたクリエーティブは海外にも活動を拡大した方が可能性も広がると強く感じており、昨年から色々と模索し始めています。ちなみに、海外は電通インターナショナル(DI)という組織になります。

今日は何故そう考えるに至ったのか? ということについてのお話です。海外に興味を持つ人が少しでも増えてくれたらいいなと思います。
また、それに関連しDLTの提供価値の一つでもある、広告業界クリエーティブのExperience Designという職能についてももっと広まって欲しいなんてことも盛り込みつつ、書いていきたいと思います。

きっかけは上海出向

2018〜2020の間の二年半ほどの間、電通の上海オフィスに出向していました。ちょうどその少し前からBAT(バイドゥ・アリババ・テンセント)を始めとする中国テック企業がすごいぞ、という話をよく耳にしていたこともあり、実際に自分の目で見てみる良い機会だと思い出向を決めました。
(アフターデジタル的なことで語れることも沢山あるのですが、今回は主にエージェンシーのクリエーティブとしての視点での話をします。)

実際に現地で生活し、仕事をする中で三つのことを強く感じるようになりました。

  • グローバル市場で日本の存在感全然ないな?

  • インフラやルールが全然違うので、できることも異なる

  • テクノロジーを用いたクリエーティブは国境を超えられる


表現の場と表現の機会

上記の三つ、文字だけではあまり伝わらないと思うので、いくつか目にした事例を紹介したいと思います。現地にいた時の話なのでちょっと古い事例だったりしますが、 そこから読み取れることには今でも通用するものがあると考えています。

一つ目は、Wonderlabs Studioというプロダクションが手掛けたNIKEの屋外イベント。球体のデジタルサイネージを地球に見立てて、ブースのランニングマシンで走る参加者の姿が地球の上に映し出されるという仕組みです。

球体のビジョンの上に映し出される参加者(wonderlabsstudio.comより)
ランニングマシンで走る参加者(wonderlabsstudio.comより)

これ、何がすごいかおわかりでしょうか? 実はこれ、球体の上の人が映っているディスプレイはこのイベントのために後付けされているんです。
インタラクティブに使える巨大な球体デジタルサイネージがある、という時点で光り物好きなクリエーターには垂涎ものですよね。それにさらにちょい足しできちゃうなんて。
そして何より、中国ってショッピングモールとかでインタラクティブなイベントを実施するクライアントが多いんですよね。筆者も多くの提案を現地で経験しました。

モール文化なのでそういった需要が高いこともあるのと同時に、特に外資系企業の中国への投資が大きいというのも日本とは大きく異なると感じました。

投資に関して言うと、たとえば同じNIKEではHouse of Innovationという旗艦店がNY、上海、パリにあります。そして微差ですが、上海が最初にオープン(2018/10)して、NY(2018/11)、パリ(2020/07)と続きました。
とはいえ上海を1号店にすることに何らかの何かがあったのか、上海が001でNYは000とナンバリングされています。パリは普通に002。
上海の店舗では4フロア分の高さのある足下から繋がるLEDビジョンがあり、ゲームなどの様々なコンテンツを提供しています。内容については他に様々な人が紹介しているので、ここでは割愛します。

House of Innovation 上海001の巨大インタラクティブビジョン(Nike.comより)

マーケットの大きさが違うのだから投資の大きさが違うのも当たり前ですが、こういったもの以外にも様々なキャンペーンを目にする中で、日本のマーケットを客観的/相対的に捉えられるようになりました。

他にも、中国には様々な都市に街の一角全体を使ったビジョンがあります。深圳のショーが日本でも話題になりましたが、杭州や青島など他の都市にも同様のものがあり、都市によっては普通に広告媒体として売っています。

JALOUSEというフランスの雑誌の中国でのローンチ広告/杭州

表現媒体が変われば新しい表現も可能になりますよね。出向中もチャンスさえあればこれを使った企画を提案しており、クライアントの反応も良かったのですが、残念ながら実現にはいたりませんでしたが。

他にもあげればキリがないのですが、日本よりも国内外含め企業の投資が多く、インタラクティブな体験作りが求められている、表現の場も多くある。これだけで、もう日本にだけ留まっている理由なんてないですね?

新しいコンセプトとの出会い

もう一つ、強く印象に残っている事例があります。モバイルペイメントに関するもので、日本ではQRコードとFeliCaの技術面での比較が槍玉に挙げられていたように見えるモバイルペイメントですが、上海に住んでいたクリエーティブの人間としては別の可能性を感じていました。

Ratioというカフェバーがありました。こちらのお店ではWeChat経由でしか注文ができない仕組みになっていて、専用の二次元コードをWeChatでスキャンするとメニューが表示され、そこから注文、支払いもWeChatペイでシームレスに行われるというモバイルオーダーのシステムを活用しています。
日本でも最近LINEやWebベースのモバイルオーダーも増えているので、それだけ聞くと特別なものには聞こえませんが、このお店ではオーダーが通ると同時にロボットアームが自動で動き出し、カクテルを作ってくれるようになっており、さらに、店内のビジョンにユーザーのWeChatのアイコンとオーダーしたドリンクが表示されるようになっています。

カクテルをシェイクしているロボットアーム
スマホ上のオーダーの流れ。支払い完了と共にロボットアームが即座に動き出す
美味しかった。右にチラ見えしてるのが二次元コード
トッピングは人間が最後に仕上げる
右が筆者のWeChatアイコン
二次元コードをスキャンした時点か、決済のタイミングで取得されている。完全に不意打ちだった

これは体験してみないといまいちイメージしづらいかもしれませんが、後者を体験した際に、「PCやモバイルの画面の中(デジタル空間)のアイデンティティがリアル空間に飛び出てきた」というような感覚があったことを今でも強く覚えています。現実空間、現実の生活の1シーンにおいて、デジタルアイデンティティが顔を出す、というのは店頭での体験として非常に新鮮でした。

日常的に行うコードのスキャン、オーダー、決済という動作しかしていないのに、新しい体験が付加されている設計も鮮やかであると同時に、モバイルペイメントはすなわち、ユーザーIDを取得している以上、様々なデータを掛け合わせてリアル空間でパーソナライズした体験を提供することが可能であるということを示唆していました。映画「マイノリティ・リポート」でGAPのバーチャル店員が虹彩認証で主人公を特定して”Hello Mr. Yakamoto and welcome back to the GAP!”と話しかけるというシーンがありますが、ユーザーの認証のインターフェースが異なるだけで、あれに類することが仕組み上もう可能だったということです。当時すでにAlipayの顔認証決済も導入され始めていたり、静脈認証を用いた無人スーパーみたいなものも登場していましたので、生体認証によりスマホさえ必要としなくていい要素はすでに揃っていました。

映画「マイノリティ・リポート」より、GAPのシーン

これが2018年〜2019年の時点で実現されていたということも印象的でした。一方で、その仕組みを面白く体験に落とし込んでいるというものは多くなく、自分を始め日本のテクノロジー×クリエーティブに長けた人たちにこの仕組みを使わせたら、今までにない店舗での体験を生み出せるのに、と強く感じていました。
上海拠点の事業構造や規模の関係から、そういったチャンスを生み出すことはできなかったのですが。

このコンセプトは今も可能性を感じています。リアルな場でのパーソナライズも夢がありますし、SNSに限らずメタバース関連のサービスやソーシャルVR、ゲーム、NFT PFPなどアバターを纏ったデジタルアイデンティティがより普段の生活に浸透しつつある中で、リアル空間でもデジタルアイデンティティに基づいて扱われるというのは新しい体験を生み出せそうです。(モバイルペイメント各社さまからのご相談お待ちしています!)

ここで伝えたいのは、日本と海外のどちらが優れているか、ということではなく、遊び場が違えば、違う遊びができるということ。その中で、新しいコンセプトと出会い、日本にはない新しい取り組みができる可能性がある。遊び場も遊び道具も多い方が楽しいに決まってますよね。

Experience Designという職能

でもそれって当時の中国が楽しかっただけじゃないの? と思った方もいるかもしれません。中国が発展する中で様々なチャンスが次々に生まれていたこと自体は否定できませんし、モバイルペイメントなどは中国特有の環境だったのも事実です。ですが、テクノロジー×クリエーティブ、それによる体験作りそのものは世界的に求められている領域であることは間違いないでしょう。そしてその領域はExperience Designという職能として定着してきているようです。

他店の宣伝になってしまうと流石に怒られそうなので具体名は控えますが、外資系のエージェンシーによるExperience DesignerやExperience Designベースのクリエーティブ・ディレクターの募集が近年増えているように感じます。国やリージョンも多種多様です。
特に、クリエーティブ・ディレクターというのはこれまでArtベースかCopyベースか、と区別されていましたが、第三の職能としてExperience Designというものが認知されてきた、それだけの需要があるということだと理解できます。そして、そういった募集をかけているエージェンシーの事例を見ると、まさにDLTに集うメンバーが強みを発揮できるようなプロジェクトが多く見受けられます。中には近年、勢いを拡大しているエージェンシーもあるようです。
推測ですが、こういった動きの原因は、根本的にブランディング活動への投資の大きなクライアントにおいては外資系クライアントの比重が大きく、ブランディングの手段が体験にシフトしているため、ではないかと思っています。一時期は日本でもインタラクティブなイベントを行うキャンペーンが流行った時期がありましたが、最近はすっかり減ってしまいました。一方で、有名なグローバルブランドの多くが旗艦店のリニューアルやポップアップに力を入れているように感じます。

そんな中、DLTは今年の6月に3年ぶりにリアル開催となったカンヌライオンズでUNLABELED℃urationの紹介や、ALL PLAYERS WELCOMEという新プロジェクトを実施する機会を得ました。現地で我々の紹介やデモを見てくれた電通インターナショナルのエグゼクティブの方々の反応はとてもよく、DLTに対して興味を持ってくれ、何かコラボレーションできないか、あるいはDLTのような組織を作るにはどうすれば良いかという相談をし始めています。また、日本以外の国の拠点にもDLTのようにエンジニアリングでのできるメンバーを抱えたイノベーションチームを持つ拠点があることもわかりました。

UNLABELEDと℃urationのデモを行った屋外ステージの様子
ALL PLAYERS WELCOMEのステージ

CopyやArtの領域では言語や文化の異なるマーケットでローカルの人々と対等以上に勝負をするのは容易ではないと思いますが、テクノロジーを用いたExperience Designの領域では言語や文化を超えて勝負ができるはず、DLTのような組織は電通のグローバルネットワークにおいて重要な役割を果たせるはず、という考えは間違っていなかったと実感し始めているところです。
まだまだ始まったばかりで、ここからが本当のチャレンジですが。いずれここで海外での実際の取り組みを紹介できるように引き続き活動を続けていきます。

もちろん、DLTに限らずこの領域はエージェンシーの日本人クリエーターが海外でも戦える領域だと信じています。海外に興味を持つ人が増え、より多くの情報が行き交うことで、日本でもExperience Designを得意とするクリエーターの活躍の場が増えてほしいなと願いつつ、今回はこのあたりで筆を置きたいと思います。

眞貝 維摩 Yuma Shingai
Experience Designer / Creative Technologist

ストラテジーからアウトプットまで一気通貫したコミュニケーション・デザインとテクノロジーを活用した体験デザインを得意とするほか、R&Dを含む非広告領域での企画・開発や知財の開発も手がける。
上海出向を経てオンラインとオフラインを統合したデザインへの理解を深めるとともに、グローバル志向を高める。

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Dentsu Lab Tokyoは、研究・企画・開発が一体となったクリエーティブのR&D組織です。日々自主開発からクライアントワークまで、幅広い領域のプロジェクトに取り組んでいます。是非サイトにもお越しいただき、私たちの活動を知っていただけると幸いです。

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