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旧友

「明日謝るんやからその時まで言い合おう」とLINE画面に表示され、開始のゴングが鳴り響いた。そんなことを言い出したのは約1年ぶりに会った小学生の頃からの旧友。
まるでリセットボタンがあるかのように、勝手な設定を持ち出されたのだが、そんなことに合意しちゃいない。一方的に暴力的な言葉が乱れ飛んでくる。僕は打たれ強くない。心休ますために寝て覚めた今日も、まだ瘡蓋になっていないどころか血が流れている箇所もある。この傷が癒える前に記しておこう。これは限りなく個人的な日記だ。


暴言は止めど無い。

・お前卑怯やわ
・お前の価値観とか知らねーから
・おれがなんでキレてるのかもわからんけどな
・毎回お前は何でなん?って聞いてくる、そりゃ上手いこと説明したくなるやろ
・能動的に動くことはないの?
・お前は薄っぺらいわ
・人の事おもんないっていうのってそんなにダメかいな

(目を背けたいけど書き起こそう)

そんな暴言を浴びるに至るまでには4時間ほど時間を戻す。

クリエイティブ人への興味

日曜の昼間。星野源のエッセイを読んだ僕はクリエイティブに生きる人の苦労や喜びに感銘を受けていた。自分も頑張らないとなと月並みに思いながらも、自分はクリエイティブなタイプじゃないことをメタ認知する。いくら絵を描こうが写真を撮ろうが。クリエイティブな人にはむしろ憧れのような感情すらある。僕の友達には陶芸家になった男や映画監督になった男がいる。そんな男の前では安いメッキで同じ側の面をしたがる自己に嫌気が差すわけだ。それでもクリエイティブの自己幻想が霞んでいった20代を経て、いま憧れと素直に思えるようになった。

外を散歩する。まだまだ明るい。このまま変えるのは惜しい。
映画監督の旧友にLINEした。溝の口で飲んでいたという彼は上機嫌にすぐに行くと即答してくれた。
普段は照れくさくてなかなか深堀しないけど、彼が映画を撮りたいという意欲やその熱意の根底を覗いてみたいと思った。コンビニで買った金麦を1本飲んでテンションを上げて待った。僕は会って何を話そうかと前のめりだった。

1軒目

合流して割と早い段階で彼の発言に少し違和感があった。

・なんで?ってめっちゃ聞いてくるな。真面目に聞いてない人が多いのに。
・お前は自分自身に酔っているのか?
・お前はあいつ(陶芸家になった男)に心酔してる。

どうやら思い返すと序盤から刺々しかった。
興味の一心でなんで?を繰り返していたことすら気づかなかった。興味の一心は興味本位であり、自分本位なことでそれが心地悪い思いをさせたのだろう。
僕のような凡人が思い描くイメージなんかとは違い、どんな頭の中なのかを知ろうとしたこと、芸術的感覚を理解しようとしたこと自体が癇に障ったのか。

2軒目

路上でガールがバーに行きたい男に声掛けていた。彼は何故か所持金が20万円あると吹いた。(本筋と関係ないが僕は彼に10年前に貸した3万円をまだ返してもらっていない)
そのままガールズバーのある雑居ビルに入っていく。エレベーター降りる時に彼は一人のガールに「こいつの方がタイプでしょ?」となんの脈略も無く問いかける。
また違和感だ。

ガールにニット帽を脱いでと言われ禿げてるからと拒否しながらも脱いでいじられる間も、僕の発言には逐一引っかかって表情が曇っている。

・そこで意気投合してるならじゃあお前その子と付き合えよ
(これは暴言?口調は完全にキレていたから暴言とする)

想像の域を出ないが、女性の前での男としてのプライドというものが見え隠れする。爆発寸前。

開始のゴング

路上に出て憤っている彼と反比例するように冷静に見ている僕。
「不快か?」
「不快だね。不快だからここで別れよう」

そのまま道玄坂を上っていく背中を見送りながら、会ってから今までのことを最初から脳内再生することにした。

すると届いたLINE。それが冒頭の開始のゴング。
そこからの連打はあの通り。

こちらは衝突なんて求めていない。僕が野暮なことを言ったんだろう。僕は攻撃しない。そのスタンスすらイラつかれる。一方的に受け身を取る。

寝て覚めて

あさイチ、LINEが届いた。

ごめん
完全におれの悪いところ出た
酒飲むときクセ悪いのたまに出てしまうことがあるんよ
ホンマに申し訳なかった

謝ることしかできんけど嫌いにならんで欲しいわ
いつでもええから連絡してちょんまげ

これじゃあ、絆創膏にならない。
瘡蓋はジュクジュク膿んで、血はまだ流れている。

酔って出た言葉、ほぼ本音でしょう。怒りはなく哀しさ。

謝ればリセットされると言った彼自身は本気でそう思ってるのだろうか。正面からぶつかって当たって砕けた先に分かり合えるって、そんな青春物語の続きをしているのだろうか。

割れた茶碗は2度と元に戻らない。リセットできるのか。


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