君は今

「君は今何を考えていますか」。

私は、50年前にこの言葉を唐突にあびた。

勇ましい軍部の戦果報道とは裏腹に、戦域が刻々身近に迫ってくる重苦しさを肌で感じながら、学校から軍需工場へ、 陣地構築、 防空壕堀りにと駆りだされていた日々、私にとっての安らぎの一つは、友と心置きなく話をすることであった。

時は昭和19年、

17歳。

とある日、友を訪問し、 彼の家族や来訪者と四方山話に花を咲かせていた時に、同席の一人から件の質問を受けたのである。

その人は40がらみで口髭を蓄え、風貌は穏やかながら眼光は刻に鋭いものがあった。

その家は色々な方とのお付き合いがあったようで、 先の戦争でマレーの虎といわれた山下奉文大将の少将時代の署名が応接室におかれていたサイン帳にあったのを覚えている。

そんな訳で一面識もない人の問いに、一瞬たじろいだ。

迂闊に本音の言えない時代であったし、小さく芽生えかけた夢も、 軍靴のもとにあえなく萎み、何を考えても無駄だという虚無感が先立って総てはお国の為で落ち着けざるを得なかった。

その時何と答えたかは忘れたが、 軍国少年面をして、心にもないことを喋った
ような記憶がのこっている。

哀しい17歳であった。

さて、諸君は立派に高校を卒業し、 洋々たる未来に向かって力強く踏み出そうとしている。その諸君に、50年前問いかけられた問いを敢えてしょう。

「君は今何を考えていますか」。

健闘を祈る。

藤田鹿一

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上記は、清教学園の卒業文集に寄稿された3代目校長の藤田鹿一先生のメッセージです。

そんな時代があったのだと。

そして、今、高校を卒業するような17歳のみなさんは何と答えるでしょう。

自分だったら何と答えるか、考えてみてください。

若者に贈る問い。です。


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