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デザインの「手前」の話をしよう。

こんにちは、「デザインの手前」の原田です。
この4月から、ポッドキャスト番組「デザインの手前」がスタートします。

「デザインの手前」は、デザインという領域に関わる編集者2人がさまざまなクリエイターをゲストにお招きし、デザインの本質的な価値やこれからの可能性についてお話ししていくトークプログラム。
「手前」をキーワードに、さまざまな切り口でゲストの方それぞれのデザイン観に迫っていく番組です。

拡がり続けるデザインの領域

パーソナリティを務めるのは、編集者/ライターとしてデザインの領域に関わってきた原田優輝と山田泰巨の2人です。
ともに1980年代生まれの僕らが学生だった頃のデザインと言えば、古来から人々の衣食住を支えてきた建築や衣類はもとより、CDジャケットや雑誌などのクールなグラフィック、90年代以降に再評価が進んだイームズチェアに代表されるデザイナーズ家具などインテリアの分野に使われる言葉でした。

その後、僕らが編集者として仕事を始めるようになる頃にはWebデザインという領域が確立され、UI/UXデザイン、サービスのデザインなどデジタル領域におけるデザインが存在感を増していきました。
また、デザインの力で地域課題や社会課題の解決を目指す「ローカルデザイン」「ソーシャルデザイン」が注目されるようになり、「デザイン思考」や「デザイン経営」など、ビジネス領域においてもデザインの重要性が語られるようになりました。
さらに近年では、医療、福祉、公共、政治などデザインのフィールドはあらゆる領域に広がっています。

「デザイン経営」宣言 / 経済産業省・特許庁 産業競争力とデザインを考える研究会より。

デザインの価値が社会に広く認知されていくこと自体は歓迎すべきことですが、一方で「デザイン」という言葉が独り歩きし、何でも解決してくれるマジックワードとして濫用されている感があります。
いまや「デザイン」という言葉から連想されるものは千差万別で、それが時にデザインに対する誤解や分断を生んでしまう状況が起こりつつあるように感じていました。

本来デザインには、人と人、人とモノ、人間と自然など、さまざまなものをつなぐ力があります。
現代は、人種や宗教、政治、思想などあらゆるレイヤーで生じている分断によって、さまざまな問題が顕在化している時代です。
デザインという営みを通じてさまざまな関係を紡いでいくこと、デザインを社会に開いていくことがますます重要になっているいまだからこそ、細分化が進むデザイン(業界)の現状について、少しモヤモヤするところがありました。

デザインの源流に立ち返ってみる

デザインの語源は、古代ローマのラテン語「デシグナーレ(designare)」だと言われています。
この言葉には、「記す」「描く」「意図する」「計画する」といった意味合いがあるようです。
そこから時代は下り、フランスでは「dessin」(絵)と「dessein」(構想や計画)という言葉に派生し、前者は英語における「drawing」、後者は「design」とほぼ同義と言って良さそうです。

designare - ウィクショナリー日本語版より

日本では「デザイン」が「意匠」と訳されることもありますが、「意匠」は主に造形や装飾など外見上のカタチを指すもので、両者は厳密には同義ではありません。
こうした誤訳(?)の影響もあってか、日本では長らくデザイン=外見のカタチを美しく整えることというニュアンスで理解されることが多かったように思います。
そしてここに来て、組織のデザイン、戦略のデザインなど、より広義のデザインに注目が集まりつつある状況が生まれ、同じ「デザイン」について語っているはずなのに、共通の理解が得られないといった現象が起こってしまっているような気がしています。
だからこそ、改めてデザインの源流に立ち返り、デザインの役割や本質的な価値、これからの可能性について考えてみることが大切なのではないか。
デザインをテーマにしたポッドキャストを始めるにあたって、こんなことをゴニョゴニョと考えていました。

なぜデザインの「手前」なのか?

そんな時に偶然出会ったのが、「手前」という言葉でした。
以前からお付き合いがあったグラフィックデザイナーの大原大次郎さんの展覧会に足を運んだ際、この言葉が僕の目に飛び込んできたのです。
そこには、デザインが生まれる「手前」にあったであろう「線」や「カタチ」「文字」の原型についての大原さんの関心が綴られていました。

2023年12月から2024年1月にかけてギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催されていた大原大次郎さんの展覧会「HAND BOOK」で出会った言葉でした。

「手前」という日本語は、実に多様な意味を含んでいる言葉です。
大原さんが関心を寄せ、同時に僕らも気になっていたデザインが生まれる「手前」はもちろん、茶道における「お手前」のように、作法や流儀、腕前などのといった意味合いもあります。
また、デザインする「手前」のリサーチやデザインプロセスの上流との向き合い方、デザイナーになる「手前」のデザイン教育やキャリア形成、デザインをする「手前」の問題意識や動機など、「手前」という言葉を入口にすることで、デザインの現場に向き合っている方々の多様なデザイン観をあぶり出し、その本質に迫っていくことができるのではないかと考えたのです。

Over 40編集者たちの新たな挑戦

このポッドキャストは、雑誌やWebなどのメディアで長年編集・ライターの仕事をしてきた40歳超えの編集者2人の新たなチャレンジでもあります。
最近は、トークイベントのモデレーターなどの役割を仰せつかることも少なくない僕らですが、基本的には取材を通じて伺ったさまざまな言葉を、テキストとして皆さんにお届けすることを生業としています。
しかし、こうした編集・執筆作業の過程で、泣く泣く削らなくてはいけない言葉たちがたくさんあることも事実。
音声メディアでは、こうしたクリエイターたちの思考の断片を、彼らの人柄とともにお届けしていくことができます。

パーソナリティの原田と山田が最近編集・執筆を手掛けた仕事より。原田はグラフィックやデジタル、ローカルなど、山田はプロダクト、インテリア、建築などのデザイン領域に強みがあります。

領域を問わず、デザインの前線で活躍するクリエイターたちの「生の声」を、日頃からデザインの仕事に携わっている人はもちろん、デザイナーを目指す学生やデザインと関わる機会があるビジネスパーソン、さらにはデザインのことをまだあまりよく知らない人たちに向けて、デザインの魅力や可能性、あるいは生活や仕事におけるヒントをお届けしていけたらと考えています。

昨今の生成AIの台頭によって、取材→テキスト化のプロセスも今後大きく変わってくるであろうことは想像に難くありません。
だからこそ、一次情報としての音声を皆さんにダイレクトに届けていくという営みに、これからの編集者・ライターとしての役割があるのではないかといった思いもあったりします。

記念すべき初回のゲストは?

記念すべき初回のゲストは、番組タイトルの生みの親とも言えるグラフィックデザイナーの大原大次郎さんです。
大原さんには、この記事のトップ画像としても使っている番組のカバーアートもデザインしていただいています。
デザインが生まれる「手前」に関心を寄せる大原さんに、さまざまな切り口からお話を伺いました。
すでに1回目のエピソードが公開されているので、ぜひチェックしてみてください。

1回目のゲストはグラフィックデザイナーの大原大次郎さん。

大原さんに続く2組目のゲストは、コンテンポラリーデザインスタジオ「We+」の林登志也さんと安藤北斗さん。
4月下旬に行われるミラノデザインウィークの直前にお時間を割いていただき、先日収録を終えたばかりです。

2組目のゲストはコンテンポラリーデザインスタジオ「We+」の林登志也さんと安藤北斗さん。

今後もさまざまな領域で活動するデザイナーの人たちにゲストとしてご出演して頂く予定です。
普段の取材よろしく、さまざまなクリエイターの方たちにお話を伺っていくことがベースにはなりますが、いずれはゲストパーソナリティとしてデザイナーの方たちにも聞き役に回っていただくなど、MCとゲストの垣根を越え、さまざまな立場の人たちが「デザインの手前」について語り合える場をつくっていけたらとと考えています。

…と言いつつ、進めながら変わっていくようなことも多々ありそうな気がしますが、ぜひそうしたプロセスも含めて温かい目で見守ってもらえるとうれしいです。


「デザインの手前」は、Apple PodcastやSpotifyなど各種プラットフォームで毎週金曜に配信予定です。ぜひ番組の登録をお願いします。

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noteでは、収録にまつわるエピソードなどを更新していく予定ですので、こちらもどうぞよろしくお願いします。


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